第三期カッパ・ツー『あなたに聞いて貰いたい七つの殺人』考察
第三期カッパ・ツーで『バイバイ、サンタクロース』と同時受賞した作品です。
応募時点のペンネームは信国敦子さんとなっていましたが、「信国遙」さんに変更されたようです。お名前的に女性だと思っていたのですがジャーロを拝見するかぎり、男性作家さんのようですね(写真が掲載されていました)。
『バイバイ、サンタクロース』の感想は↓
なお、カッパ・ツーについては↓
作品のあらすじ
劇場型犯罪 VS.劇場型探偵!スリリングな攻防が読者を翻弄する!! 東川篤哉
その仕事、丁寧で堅実。久々に「本格職人」と呼べる逸材が現れた。石持浅海若い女性ばかりを惨い手口で殺害し、その様子をインターネットラジオで実況するラジオマーダー・ヴェノム。その正体を突きとめてほしいと、しがない探偵・鶴舞に依頼してきたジャーナリストのライラは、ヴェノムに対抗してラジオディテクティブを始めることを提案する。ささいな音やヴェノムの語り口を頼りに、少しずつ真相に近づきはじめる鶴舞とライラ。しかしあと一歩まで追い詰めたとき、最悪の事態がふたりを襲うーー
新人発掘プロジェクト カッパ・ツーから誕生した、本格ミステリ界の新星!
Amazonより
カッパ・ツーの選考を見ると、本作を押していたのは石持浅海さんのようです。
若いジャーナリスト「ライラ」に依頼され、主人公の探偵が捜査に乗り出すというはじまりです。探偵+ライラのパートと警察のパートが繰り返されながら(交差しながら)、謎を解いていきます。
犯人であるヴェノムは殺人の様子をラジオ実況しています。遺体は見つかっていないので、警察は当初動けずにいました。そこを、ラジオ音声を手がかりに、探偵が遺体を見つけます。ここから、探偵がラジオディテクティブとして劇場化していくという展開はとても納得できたし、おもしろかったです。
本作の見所は、「劇場型犯罪」を扱っているのですが、探偵までもが「劇場型」であること。
『自由研究には向かない殺人』がポッドキャストを要所で有効に使っていましたが、本作は劇場型ラジオ(ラジオとはいいますが、仕様はポッドキャストっぽいです)をうまく使っておもしろくしています。
『バイバイ、サンタクロース』に引き続きですが、本作も後味はあまりよくないです。おそらく、人によってはイヤミスにカテゴライズすると思います(自分はとくにイヤミスとは思いませんでした)。
グロ系、イヤミス系が苦手な人は避けたほうがいいかもしれません。
このあたりが評価されたのでは?
探偵までもが「劇場型」
劇場型犯罪はよく見ますが、探偵までもが劇場型化するのは少ないと思います。この点はけっこう目立ったのではないでしょうか。
また、主人公の造形もよかったです。劇場型化し、評価されたことで得意げになるところなどとてもよかった(その後の転落まではとても自然でした)。
また、今どきはSNSやyoutube、ポッドキャストなどを絡めた作品も多いです(そして売れている作品にもかなり多い)。これらのガジェットはうまく使えば新人賞ではよい印象になるのだろうと思いました。
映像化もしやすそうで、本作のガジェットの使い方は編集の印象がよかったのではという気もします。映像化するには少しグロいかもしれませんが、ストロベリーナイトが映像化できるくらいだから大丈夫じゃないかなぁと。
推理パートの多さ
ラジオの音声を手がかりにした推理、劇場型でよく用いられる(みんな大好きな)見立て、犯人の正体……、などなど、探偵がずっと推理をしているのは好印象。
本格好きが好む推理をこれでもかと繰り返していてテンションがあがります。
『バイバイ・サンタクロース』でも思ったのですが、カッパ・ツーはやはり「推理部分の割合の大きい作品が好きなんだろう」と思いました。
キャラクター設定
これは好みがわかれそうですが、ミステリアスな探偵助手(ライラ)と、少し小物な印象の探偵というバディはあまり見ない気がします(へたれな探偵はよく見ますが、バディは同性が多い印象)。
探偵をかっこよく(または、渋く)書いた作品が多いなか、本作の探偵の造形は個人的には好きでした。小物な探偵が自分の推理に溺れていき……(以下ネタバレなので書かないですが)というのは、際だって印象に残りました。
また、警察の先輩後輩バディもよかったです。とくに、後輩の名城の(警察とは思えない)軽さがいい味出していました。
個人的に気になったところ
〆の推理パートで納得のいかないことが多かった
〆になって突然キャラ変した
キャラクターが良かったと書いたばかりですが、四章でなにがどうなったのかと戸惑いました。探偵も後輩もいきなりデキがよくなり、キャラ変したのかぐらいの感じを受けました。すごくびっくりでした。
とくに、後輩。君はいつの時点で犯人に気がついたの??と問い詰めたくなりました。さらに、探偵もいきなり開眼して正しい推理にたどり着く感じで。ワンクッションおけなかったのだろうかと思いました。
○○が揃うことはあまり
ネタバレになるので伏せますが、犯人特定の要因に○○を使っています。が、これはちょっと疑問です。フィクションなのでたまたま揃ったということでよいとは思うのですが、個人的にはひっかかりました。
早い段階で伏線として出てきていたので、たぶん「遺伝でそうなる」という前提で進んでいくんだとは予想できました。でも、(少なくとも人の場合は)そうはならないことのほうが多いので(日本だと同じなのが当たり前だからそう思いがちですが)、だれかが突っ込まなかったのかなと疑問でした。
好みの分かれそうな文章
Amazonのレビューに、「あまりの読みにくさに挫折。」というコメントがあるんですが、わかると思いました。
ハードボイルドっぽい書きっぷりが苦手な人は一定数いるように思います(本作はハードボイルド的な硬さがあります)。ただ、苦手な方がいるということは、好きな方もいらっしゃるわけです。読みやすく残らない文体よりも印象に残ってよいのではと思うのですが……。
ただ、この作者の場合は、「軽く短い文」と「妙に長い分」が入り交じるのでリズムがつかみにくく、「~~が(~~だが)、~~。」という文章がかなり多い印象です。それが悪いとはいいませんが、「読みにくい」と感じる人は多そうだと思いました(※文章は好みだと思っているので、べつに文章が悪いと否定しているわけではありません)。
自分は一文が長い作品もわりと好きなんですが、本作に関してはリズムが取りにくいのと、なんかまどろっこしいなと思うことがわりとあった印象があります。購入前に試し読みをオススメします。
まとめ
カッパ・ツー第三期の選評も読みましたが、『バイバイ・サンタクロース』も含めて選評通りの印象を持ちました。
カッパ・ツーについて少しまとめたので、よかったらこちらの記事もどうぞ!