これだけは読みたい! 森見登美彦さんの作家歴と作品ベスト5

2020年1月11日

森見登美彦作品 おすすめ5選とその理由

独自のワールドを展開している希有な作家さんです。あまりに独自すぎるのに、なぜか一般受けまでしてしまうところがすごいです。くせになる森見ワールドに浸りたくて本を取る読者さんが多いのでは?

2003年にデビューしてから、著書は約20冊(小説以外も入れて)。『太陽の塔』で発酵した大学生を描き、『ペンギン・ハイウェイ』では新たな一面を見せ、『熱帯』で3回目の直木賞候補。森見ワールドは健在ですが、作品は少しずつ変化を見せています。注目の5冊を選んでご紹介します。

独断と偏見による作家さん紹介

京都大学大学院在学中の2003年、『太陽の塔』でファンタジーノベル大賞を受賞。ファンタジーノベル大賞なのに、ファンタジーではありません(なのにファンタジック)。デビュー作にしてすでに森見ワールド満載。語り口が衝撃的でした。
京都大学大学院を卒業後は、国会図書館に勤務する兼業作家でした。五年半の勤務後、退職し専業作家に。ところが、2011年、連載を抱え込みすぎたことで疲れ、休筆。2018年の『熱帯』で、2011年頃連載していた作品の後始末を一応終えたと発言されています。

経歴を年表にまとめてみましょう!

 

2003年 『太陽の塔』 第15回日本ファンタジーノベル大賞受賞
知る人ぞ知る要チェック作家現れる。本読みさんたちの間で話題に。
主人公が発酵しており、作品からも発酵臭が立ち上る。中毒になる作家さんとして、本読みさんたちの間で話題に。
2006年 『夜は短し歩けよ乙女』 第20回山本周五郎賞受賞(2007年)
ミリオン達成の大ベストセラー。一気にブレイクする。主人公は相変わらず発酵していますが、『太陽の塔』より臭いがかぐわしく。臭気がおさまり、一般に受け入れられやすい発酵具合に。第137回直木賞候補。

また『きつねのはなし』にて新境地。ホラー作品で、独特の言い回しのない素直な文体です。

2010年 『ペンギン・ハイウェイ』 第31回日本SF大賞受賞
新境地をさらに開拓。SFというよりも、爽やかなファンタジー。なんだかさわやかで切なげな方向に。一般的な認知度がさらに広がっていく。
2011年頃 しばらくの休筆期間に入る。

2011年に"連載を続けることはできません"とやってしまったんです。

この頃連載していた作品に、『聖なる怠け者の冒険』(2013年刊行)、『有頂天家族』の続篇(2015年『有頂天家族 二代目の帰朝』)、『夜行』(2016年)、『熱帯』(2018年)などがある。

2018年 『熱帯』
第160回直木賞候補(3度目)。

この7年間、私の小説家人生は2011年の後始末に費やされてきたのである。しかしその戦いも、この『熱帯』刊行をもって終わる。

これだけは読みたい! オススメ5選

『夜は短し歩けよ乙女』(2006年角川書店)

「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せる「先輩」は、夜の先斗町に、下鴨神社の古本市に、大学の学園祭に、彼女の姿を追い求めた。けれど先輩の想いに気づかない彼女は、頻発する“偶然の出逢い”にも「奇遇ですねえ!」と言うばかり。そんな2人を待ち受けるのは、個性溢れる曲者たちと珍事件の数々だった。

大ブレイクした作品。森見さんの知名度を大きく上げました。
『太陽の塔』(デビュー作)に引き続き、主人公は発酵していますが、今回はふんわりかぐわしい。おいしい臭いを放つ主人公が、一般にも受け入れられるポップな世界を跋扈! 森見ワールド満載でありながら、どこかキュートな作品です。
万人におすすめする一作。まず、最初に手を付けるべき作品です。

『太陽の塔』(2003年新潮社刊)

私の大学生活には華がない。特に女性とは絶望的に縁がない。三回生の時、水尾さんという恋人ができた。毎日が愉快だった。しかし水尾さんはあろうことか、この私を振ったのであった! クリスマスの嵐が吹き荒れる京の都、巨大な妄想力の他に何も持たぬ男が無闇に疾走する。失恋を経験したすべての男たちとこれから失恋する予定の人に捧ぐ。

絶対に外せない一冊ですが、かなり癖があります。
発酵した大学生が元恋人「水尾さん」に未練たらたらで、ちょっぴりストーカーチックに追いかける日々。はっきりいって珍味的な発酵具合。ただし、食べたらくせになります。中毒的です。
「森見ワールド」を知る上で欠かせない一冊です。

『熱帯』(2018年文藝春秋刊)

汝にかかわりなきことを語るなかれ――。そんな謎めいた警句から始まる一冊の本『熱帯』。
この本に惹かれ、探し求める作家の森見登美彦氏はある日、奇妙な催し「沈黙読書会」でこの本の秘密を知る女性と出会う。そこで彼女が口にしたセリフ「この本を最後まで読んだ人間はいないんです」、この言葉の真意とは?
秘密を解き明かすべく集結した「学団」メンバーに神出鬼没の古本屋台「暴夜書房」、鍵を握る飴色のカードボックスと「部屋の中の部屋」……。
幻の本をめぐる冒険はいつしか妄想の大海原を駆けめぐり、謎の源流へ!

ふるえが来る怪作です。第3章までは。第3章までと第4章から、印象が違うなと感じました。読み終わって休載のことを知り、腑に落ちたくらいです。2011年の休載までに書き終えていたのが第3章まで(刊行に当たって大きく改稿アリ)。その後を書き足して完結、刊行されました。
個人的にはですが、第3章までが素晴らしく、第4章以降はあまりおすすめしません。4章以降もとても面白いのですが、第3章までがほんとうに素晴らし過ぎて、失速したように感じました。それでも、熱帯は読んで欲しい一作です。

『ペンギン・ハイウェイ』(2010角川書店)

小学四年生のぼくが住む郊外の町に突然ペンギンたちが現れた。この事件に歯科医院のお姉さんの不思議な力が関わっていることを知ったぼくは、その謎の研究を始める。未知と出会うことの驚きに満ちた長編小説。

「森見ワールド」中毒者からは今ひとつの評判のよくない本作(もちろん中毒者でも好き!というかたは多いです)。
森見さんの新境地といえる作品だと思います。「ファンタジー×SF×少年期」という小学4年生の青春小説。描写がとてもさわやかで情景が見えるようです。キャラクターの造形には森見さん節がちょっぴり含まれていて楽しい。発酵臭が漂わない作品をお求めなら、まずはこれ!

『きつねのはなし』(2006年新潮社)

「知り合いから妙なケモノをもらってね」籠の中で何かが身じろぎする気配がした。古道具店の主から風呂敷包みを託された青年が訪れた、奇妙な屋敷。彼はそこで魔に魅入られたのか(表題作)。通夜の後、男たちの酒宴が始まった。やがて先代より預かったという“家宝”を持った女が現れて(「水神」)。闇に蟠るもの、おまえの名は? 底知れぬ謎を秘めた古都を舞台に描く、漆黒の作品集。

森見ワールドとホラーが融合した作品。ホラーとはいってもあまり怖くありません。ホラー×ファンタジーという感じで、ホラーが苦手な人でも読めると思います。『太陽の塔』などと趣が違い、静かで美しい文体、世界観です。つかみどころのない雰囲気がくせになります。この作風の系列の最新刊が『夜行』かなと思います。