これだけは読みたい! 米澤穂信さんの作家歴と作品ベスト5

2020年5月31日

「古典部シリーズ」と「小市民シリーズ」、それから「太刀洗万智のシリーズ」(ベルーフシリーズ)とシリーズものも多く、コンスタントに作品を発表する作家です。高校生を中心とした青春ミステリの作品が多いものの、ホラーやサスペンスとミステリが融合した作品など、幅広いジャンルを書いています。多感な高校生の描き方には定評があり、古典部シリーズはアニメ化もされていて有名です。また、年末恒例のミステリランキングで2年連続3冠という快挙を成し遂げています! 各ジャンルから「これだけは!」と思う作品をピックアップします。

独断と偏見による作家さん紹介

米澤さんは、金沢大学文学部を卒業後、本屋でアルバイトをしながら作家を目指しています(2年間と期限を切って、両親を説得)。2001年に『氷菓』で第5回角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞を受賞しました。『氷菓』は古典部シリーズの1作目で、現在までに6作が刊行されています。本作は「日常の謎」をテーマにしたミステリです。北村薫さんの影響を受けているとか。

2005年に『さよなら妖精』で「このミス」20位になったことから、ミステリファンの間でも名前が知れるようになりました。『さよなら妖精』はもともと古典部シリーズの3作目として用意された話だったそうですが、レーベルと折り合いがつかず、東京創元社からノンシリーズの一般ミステリとして刊行されます(主人公の守屋が、氷菓の折木とちょっと重なります)。この後、ミステリファンの間で一気に知名度があがり、2014年にの『満願』でさらにブレイクします。

学生時代にウェブサイトで小説を公開していた話は有名です。サイト名は「汎夢殿」。

作家歴を年表にまとめてみましょう!

2001年 『氷菓』 第5回角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞
アニメ化もされた「古典部」シリーズ1巻です。高校生の「日常の謎」を扱ったミステリー。スニーカー文庫より。後に角川文庫から刊行。
2004年 『さよなら妖精』 このミステリーがすごい! 20位
もともとは「古典部」シリーズとして考えられていたストーリー。折り合いがつかず、ノンシリーズとして東京創元社から単行本として刊行。

このミスに取り上げられたことで、ミステリーファンの間に名前が知られるようになる。作家としての活動の幅が広がる切っ掛けに。

2004年 『春期限定いちごタルト事件』
東京創元社で文庫で刊行される。「小市民」シリーズの1巻。こちらも高校生の「日常の謎」を扱ったミステリー。
2007年 『インシテミル』 週刊文春ミステリーベスト10 7位
2006年の『ボトルネック』(新潮社)に続き、新境地。『インシテミル』(文藝春秋)は殺人ゲームをあつかった作品。本格小説で、パニックホラー気味。作家としての幅がさらに広がっていく。2010年時点で累計45万部。

本作は、2010年に藤原竜也主演で映画化。『インシテミル 7日間のデス・ゲーム』

2009年 『追想五断章』 年末ミステリ、4社全てでベスト5入り。
さらに知名度が上がってくる。2008年のホラーテイストの強い『儚い羊たちの祝宴』を含め、さらに新たなジャンルへと幅を広げていった。
2010年 『折れた竜骨』 第64回日本推理作家協会賞       (※)
ファンタジーと本格ミステリの融合。さらに新しい一面を見せることにファンは驚愕した。

(※)「本格ミステリ・ベスト10」と「ミステリが読みたい!」で1位 「週刊文春ミステリーベスト10」と「このミステリーがすごい!」で2位。

2012年 古典部シリーズアニメ化
京都アニメーションから『氷菓』という名でアニメ化される。アニメファンを中心に一気にブレイクする。
2014年 『満願』 第27回山本周五郎賞受賞、直木賞候補、年末ミステリ3冠
一気に知名度が上がる。ミステリファン以外にも広がり、大ブレイク。
2015年 『王とサーカス』 二年連続の年末ミステリ3冠
「ベルーフ」シリーズが立ち上がる。本作の主人公はジャーナリストの大刀洗万智。2016年には同シリーズの短編集『真実の10メートル手前』が刊行。直木賞候補となる。

以後も意欲的に作品を刊行中。

※ 2020/1 『巴里マカロンの謎』が発売予定。2009年以来の小市民シリーズとなります!

これだけは読みたい! オススメ5選

『満願』

人生を賭けた激しい願いが、6つの謎を呼び起こす。人を殺め、静かに刑期を終えた 妻の本当の動機とは――。驚愕の結末で唸らせる表題作はじめ、交番勤務の警官や在 外ビジネスマン、美しき中学生姉妹、フリーライターなど、切実に生きる人々が遭遇 する6つの奇妙な事件。入念に磨き上げられた流麗な文章と精緻なロジックで魅せる、 ミステリ短篇集の新たな傑作誕生!

6つの謎を描いた短編集。ミステリ、ホラー、サスペンスと趣向の違う作品が集まっています。個人的には「夜警」がもっとも印象に残っています。新人警官の人となりがあかされていくことで事件の全貌が一転する構成はお見事。同時に視点人物の人生まで描き出す手腕はほんとうに素晴らしいです。短編とはとても思えません。また、ホラー&ミステリといった趣のぞくっとくる「関守」や、弁護士がかつて思った相手を弁護する「満願」などもおもしろかったです。6作全てが高水準で、本当に多種多様。作者の引き出しの多さと広さに驚きます。

本作が気に入った方は『儚い羊たちの祝宴』や『追想五断章』もおすすめです。

『さよなら妖精』

1991年4月。雨宿りをするひとりの少女との偶然の出会いが、謎に満ちた日々への扉を開けた。遠い国からはるばるおれたちの街にやって来た少女、マーヤ。彼女と過ごす、謎に満ちた日常。そして彼女が帰国した後、おれたちの最大の謎解きが始まる。謎を解く鍵は記憶のなかに――。忘れ難い余韻をもたらす、出会いと祈りの物語。

当初、古典部シリーズとして考えられたストーリーのためか、主人公(探偵役)の守屋と『氷菓』の折木とが重なります。その他の登場人物も、米澤先生らしい高校生キャラクターが出てきます。また、ベルーフシリーズの大刀洗万智の初登場作品です。個人的にはシリーズ第1巻としてもおかしくない作品だと思います。

この作品、ミステリと思って読まないでください。傑作中の傑作なのですが、ミステリ色は薄めです。出会った異国の少女マーヤとの交流が長いですが、高校生の青春ストーリーや小さな謎を解決しながら、淡々と進んでいきます。

最大のミステリーは、「マーヤが帰ったのはどこか」です。戦火の渦中にあるユーゴスラヴィアへとマーヤは帰っていくのですが、「どこへ」帰っていったのかが分かりません。「七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字、一つの国家」といわれるほどに複雑な国なのです。マーヤの無事を願い、六つのうちのどこへ帰ったのか、守屋と大刀洗が推理していきます。つまり長い青春ストーリーは、それを推理していくための物語なのです。

推理部分は確かに薄いかもしれません。知らなければ分からない部分が多いですし、推理を楽しめる作品でもありません。ですが、マーヤの主張や考え、守屋の成長と世界の広がり、大刀洗の優しさと強さなど、登場人物を通して自身の世界も広がるような、本当に考えさせられる作品でした。

『折れた竜骨』

ロンドンから出帆し、北海を三日も進んだあたりに浮かぶソロン諸島。その領主を父に持つアミーナは、放浪の旅を続ける騎士ファルク・フィッツジョンと、その従士の少年ニコラに出会う。ファルクはアミーナの父に、御身は恐るべき魔術の使い手である暗殺騎士に命を狙われている、と告げた…。

ガチのファンタジーです! 本格とファンタジーが完璧に融合したような作品ですが、わりと評価の割れる作品かもしれません。雑食の私は、ファンタジー部分も本格推理部分も楽しめました。

『魔術や呪いが跋扈する世界で、推理の力は真相に辿り着くことができるのか? 』

という本作。正直、ガチガチのファンタジーで、ここまでフェアな本格ものを読めるとは思いませんでした。驚愕の作品なんですが、上下巻で長く、ファンタジーが苦手な読者にはお勧めできません。ライトノベル風ではなく、ガチの重いファンタジーなのでなおさら。好きな人はとことんはまる作品です。

『本と鍵の季節』

堀川次郎は高校二年の図書委員。利用者のほとんどいない放課後の図書室で、同じく図書委員の松倉詩門と当番を務めている。背が高く顔もいい松倉は目立つ存在で、快活でよく笑う一方、ほどよく皮肉屋ないいやつだ。そんなある日、図書委員を引退した先輩女子が訪ねてきた。亡くなった祖父が遺した開かずの金庫、その鍵の番号を探り当ててほしいというのだが…。図書室に持ち込まれる謎に、男子高校生ふたりが挑む全六編。

高校生の二人が解決する6つの短編ですが、最後に収められた書き下ろしの「友よ知るなかれ」で長編的な短編連作という形になります。結末はどれもわりとビターで、高校生たちも「古典部」シリーズよりは少し大人び、性格もひねくれている感じです(折木っぽい部分も多分にあるのですが)。その分、二人の会話もより高校生らしく感じました。

ミステリー部分は「古典部」や「小市民」シリーズくらいと考えていいと思います。どちらかといえば、「小市民」シリーズが好きな人にお勧めかなと思います。

『春期限定いちごタルト事件』

小鳩君と小佐内さんは、恋愛関係にも依存関係にもないが互恵関係にある高校一年生。きょうも二人は手に手を取って清く慎ましい小市民を目指す。それなのに、二人の前には頻繁に謎が現れる。名探偵面などして目立ちたくないのに、なぜか謎を解く必要に迫られてしまう小鳩君は、果たしてあの小市民の星を掴み取ることができるのか?

2020/1 『巴里マカロンの謎』が発売!

「古典部」からさわやかさを抜いた、小市民を目指す高校生の「日常の謎」ミステリー。タイトルにスイーツ名が入っている通り、スイーツがたくさんでてきます。

タイトルに春、夏、秋が入っているので、「冬」で完結するはずだった作品。続刊が待たれます! 新刊の『巴里マカロンの謎』には「冬」が入っていないため、かなり期待をしているのですがどうでしょう。

シリーズまとめ

古典部シリーズ

氷菓(2001年)
愚者のエンドロール(2002年)
クドリャフカの順番(2005年)
遠まわりする雛(2007年)
ふたりの距離の概算(2010年)
いまさら翼といわれても(2016年)

小市民シリーズ

春期限定いちごタルト事件(2004年)
夏期限定トロピカルパフェ事件(2006年)
秋期限定栗きんとん事件(2009年)
巴里マカロンの謎(2020年)

ベルーフシリーズ

王とサーカス(2015年)長編
真実の10メートル手前(2015年)短編

※『さよなら妖精』(2005年)がシリーズ0作品である。ベルーフシリーズの主人公、大刀洗万智が登場する作品です。

おわりに

『氷菓』が入っていないといわれそうですが、個人的には「古典部」シリーズ(とくに『氷菓』)は人を選ぶと思っています。また、年を経るごとに筆の冴えていった作家さんですので、デビュー作よりも、その後のほうが作品のレベルも高いと思っています。ということで、「古典部」シリーズはのぞきました。途中の巻から読んでも問題ないと思いますが、『氷菓』から読むべき作品だと考えているので。

『満願』は最高傑作といってもよい短編集だと思います。米澤さん何回目かの、そして最大のブレイクが『満願』だと思うので、これは外せない作品だなと思います。また、『インシテミル』(クローズド・サークルの殺人ゲーム。パニックホラー的)からはじまる、「ミステリ×ホラー」「サスペンス×ホラー」という新たな一面の集大成だと思っています。ちなみに、『儚い羊たちの祝宴』、『追想五断章』ときての『満願』。どれも新たな一面が見られて素晴らしいです。どれか一冊でも気に入った方は、他の2作品もオススメです。

『さよなら妖精』からはじまる大刀洗シリーズは、『王とサーカス』が一番有名かもしれませんが、個人的には『さよなら妖精』から読むのがおすすめです。紆余曲折あったと思うのですが、これを出版してくれた東京創元社さんには感謝しかない!

また、『折れた竜骨』は完璧な「ファンタジー×本格」小説で、ミステリファンを驚かせました。本当はこれも入れたかった! ただ、今回は「小市民」シリーズ新刊直前のため『春期限定いちごタルト事件』をピックアップしました。