ラノベ、キャラノベ、こんな書き出しはやめたほうがいい!(気がする)
書き出しの1行目のことはありません。最初の30ページくらいの話です(ページ数ではなく、物語の導入部分と考えてください)。次に該当するような作品は、だいたい最後まで読んでもおもしろくないことが多いです(個人的な感想です)。
ちゃんと統計を取ったわけではありませんが、「やめたほうがいい!」に該当するのに面白かった作品は、10%に満たないと思います。よく一次選考で最初の何ページか読めばだいたい分かるという噂を聞くのですが、賛成はできないものの、そう言いたくなる気持ちは分からないでもない。
もちろん、最初はたいして面白くないのに、あとに行けば行くほど面白くなる作品もあるのは事実です。しかし、数はものすごく少ないと思います。とくにライトノベルやライト文芸では皆無といってもいい気が。
では、個人的に「やめたほうがいい」と思う書き出しを上げていこうと思います!
※ここでいう30ページとは、文庫の様式です。原稿用紙にするともう少し多くなるかなと思います。
最初の30ページで、ストーリーが想定できないもの!
30ページを過ぎて読者が先を読めないなら、たぶん飽きられます。先の展開が分からないから読者を惹きつけると勘違いしている方もいますが、展開がまったく読めないものには惹きつけられないのです。展開は読めるけれど、最終結果が読めないという作品が最強です!
具体例(※ストーリーはおもしろくないです。ごめんなさい)
国は腐敗し、側室の子である自分たちは王妃から命を狙われている。刺客を向けられ、まずは王宮から逃げることにした。妹を連れてひたすら逃げる兄という場面から始まります(付き合いの長い信頼できる騎士付き)。
・読者を驚かそうと思って出すべき情報を隠したもの
王子である、姫であることを秘密、王宮から逃げる理由が秘密、王宮からでてなにをするつもりなのかが秘密など。「どうして彼らは逃げているのでしょう?」という秘密で30ページも引っ張れません。
・30ページかけても、ストーリーが動かないもの
逃げ、騎士が戦い、王子も加勢するといって戦うだけ。ストーリーを動かしてください。
・小難しい設定集が続くもの
国が何故腐敗したのかを延々と説明する。国のなりたちを説明する。国の王族や貴族の人間関係をひたすら説明する。スピードが大事です。まずは物語に引き込んでから説明してください。
・テンプレ中のテンプレいい話で30ページが終わるもの
みんなで逃げて、助太刀が入り、うまく逃げられる。助太刀はとてもいい人そうで彼のところに身を寄せる。読者は「よかったね」と思うだけで、続きには惹かれません。この場合は、「助太刀さんがもしかしたら敵かもしれない」といった読者の興味を惹く描写をさっさと入れたほうがいいと思う。
さらに詳しく具体例を挙げてみる。
例)少年向け編
妹を連れてひたすら逃げる。自分たちは側室の子で、殺されそうになったから王宮から逃げている。自分たちを手引きしてきた騎士が強くて、どうにか逃げられそう。
・なぜ逃げて、今後どうするつもりなのかをさっさと書いたほうがいいと思う。
毒を盛られ、刺客を放たれたから逃げているだけでは、先の展開が読めずに面白くないです。逃げたあとなにをするつもりかを書いたほうがいい気がします。国を追われ、なにをしようとしているのか、そこが面白いわけで、ただ逃げるだけのシーンを読んでも続きは気になりません。
もし、逃げている過程を読ませたいのであれば、まずは読者が主人公にはまり込む必要があります。感情移入したキャラクタが逃げ切れるまでを書くのであれば面白いです。その場合、逃げているシーンから始まってもあまり面白くはありません。まずは主人公のかっこよさと、その悲劇性が必須になると思います。その上で、「主人公は逃げ切れるのか」、「どうやって逃げ切るのか」といった興味を、読者に持たせる必要があります。
・騎士(+妹)とはぐれ、味方か敵か分からない相手と会わせるなどの工夫を。
騎士に守られて逃げる場合、騎士は基本味方です。ならば、さっさとはぐれて敵か味方か分からない謎の登場人物と会わせるなど、物語を動かしたほうが興味を惹くのでは?
たとえば、「自分はこの腐敗した国を正すため、まずは逃げて力を得ようと考えた」。王道中の王道ですね。しかし、「騎士とはぐれ絶体絶命の中で、敵か味方か分からないけれど、圧倒的に強い男と出会った。彼を味方に引き入れなければ」となると、物語が動き出します。彼の正体は? 彼は味方になってくれるのか? 王子は国を正すことができるのか? その方法は? そして生き別れになった妹は? というように、続きが気になるようにしてください。
読者はストーリーラインを読みます。きっと王子が強くなって、謎の男は味方になり、王子が簒奪して王になるのだろうという想像をします。想像できるけれど、男の正体は気になるし、どうやって国を取り戻すのか、そしてはぐれた妹(騎士)はどうなったのかなどの謎が気になって読んでしまうわけです。この謎部分の取り扱いをしっかり作り、さらに読者をいい意味で裏切ることができれば読者はどんどん引き込まれていくはずです。
例)少女向け編
欺されて後宮に入ることになった。後宮の権力闘争や、自分の立ち位置を述べて終わる。
・さっさとヒーローを出しましょう。
衛士のふりをしているけど実は帝かもしれない(いつ正体がわかるのかなワクワク、なにかの陰謀に巻き込まれそうだよねワクワク)。
衛士とのロマンス(後宮にいるのだから、どうやって結ばれるのだろうワクワク)。
・さっさと後宮の争い(事件)を出しましょう。
噂話で、実はA妃とB妃がどうのよりも、2人が並んだ姿を出しましょう。そして主人公と関わらせましょう(A妃が優しそうだけど、そう見えてA妃が黒幕よねとか。B妃は性格悪そうだけど、なぜ主人公に関わってくるのかなとか。読者に先を読ませてください)。
ストーリーラインを読ませ、それを裏切るようなネタを放り込めれば完璧です。読者を驚かそうとして、ストーリーラインさえも隠してしまう人がいますが、ラインが読めないと続きは気にならないんです。
最初の30ページを概要にしたとき、続きが気にならない!
たとえば、ソードアートオンラインだと、「ゲーム世界に閉じ込められ、命を掛けたデスゲームに参加」という設定で読者の興味を惹いています。読者は「ゲームから生還できるのか」が気になって手が止まりません。「ゲームのように経験値を稼ぎ、強くなってクリアして生還できるだろう」と予想はできるのですが、「どうやって強くなるのか、誰がクリアするのか、どうやってクリアするのか、どんな仲間ができるのか」など、気になる点がやまほどでてきて引き込まれていくのです。
ストーリーを想像させた上で、さらに続きが気になる要素を準備しておきましょう。
最初の30ページで、主人公のキャラクターが掴めない!
主人公がどんなキャラクターなのか分からない作品。キャラクターに引き込まれないと続きを読む気にはなれません。
先ほどの例、主人公たちが逃げている作品を例にします。活躍するのは騎士だけで、主人公と妹は守られるだけではおもしろくありません。なにもできない主人公でもいいのです。騎士たちを気遣うとか、妹を庇うとか、野営の準備を手伝って足手纏いなるとか、主人公がよくわかるようにしてほしいです。延々説明が続く小説がけっこうあるので、行動でもって示したほうがいいと思います。
また、助太刀などのキャラクターが出てきたとき、その人をどうやって受け入れるのか(警戒感がどれくらいか、それを表に出すのかなど)などで、主人公のキャラクターが読者に分かるといいと思います。
説明だけで、「妹思いで、騎士にも優しいから人気のある王子だ」と言われてもリアリティはありません。
ついでに、重要人物たちのキャラクター(この場合、騎士、妹、出てくるなら助太刀)もある程度掴めたほうがいいと思います。助太刀を謎キャラにするのであれば、そういうポジションなのだと読者に分からせてください。また、主人公との関係性もわかるようにしましょう。兄妹、主従関係がどんなか。
アクションシーンを書くべきところで逃げないほうがいいと思います。ラノベ新人賞ではアクション描写は重要視されているように思います。Webからの書籍化は、アクション描写が薄くてもOKな出版社があるようですが、読み慣れた読者さんはアクションシーンも重視しますよ。
まとめ
おそらくなんですが、上のような点ができていない書き手さんのほとんどが、「できている」つもりではないかと。読者目線で読まなければ気づけないと思うんですよね。
実際のところ、「文章がうまく」「ストーリーに破綻がなく」「キャラクターもわかりやすい」という総合力がかなり高い作家さんでも、上記に当てはまる方がけっこういらっしゃいます。キャラに魅力があって文章も読みやすいので、ストーリーラインが今ひとつ読めなくてもある程度読めるのですが、リーダビリティを欠片も感じないんですよね。最初から最後までたんたんと進んでいくので、「悪くはない(どころか小説としての完成度は高い)けど、引き込まれないな」と思ってしまいます。
読者に先を読ませては、読者が面白くなくて飽きると思っているのかもしれませんが、むしろ先が読めないと飽きるんですよ! そして、読めるけれど、なんらかの謎がないとやっぱり飽きるんですよ!
・謎人物の正体は?
・魔法学園に入ったけど、卒業するときに首席を取るのは誰?
・部活入ったけれど、全国大会へいけるのか?
・王の不正をあばけるの?
などなど、「これからどうなっていくか分からないネタ」で引っ張りながら、どんな話になるのかを読者にも見せてください。
なお、これらを含んだ上で、読者の想像を大きく裏切る作品というのは、それだけで話題になると思います。
リーダビリティというのは、大切な情報を隠すことではないと思います。同時に、ストーリーを隠すことでもありません。ほんとうに面白い作品というのは、情報が開示され、ストーリーもある程度予想がつくのに、それを裏切って想像もしなかった結末を迎えるような作品だと思います。
個人的には、
・「読者にストーリーを読ませない」というのは、先を隠すことではない
・手慣れて、上手い作品を書かれる方こそ、リーダビリティを意識したほうがいい
・思わせぶりに情報を隠すのは、読者にストレスを与えるケースがある
と考えています。
とくに3つ目の「思わせぶりに情報」を隠すケース。この思わせぶりが複数並行してある場合は、気になるから読みますが読者のストレスになります。ストレスを感じたあと、たいしたことのない情報があかされても、読者は疲れるだけです。「思わせぶりに隠した情報」をあかす際には、読者を「あっ」と言わせる必要があります。
思わせぶりに情報を隠すのって、意外と難しいんじゃないかなと私は思います。これ、うまい人がやるとぐいぐい引っ張られるし、読み終わって「最高!」ってなるんですが、半分近くは逆に物語の勢いを削いでいる気がします。