86―エイティシックス―にみる、使い回し(再応募)はアリ?
「86」が電撃文庫大賞の「前年度一次落ち→大賞受賞」作品というのは、よく知られた話です。かといって、再応募を推進するのもどうかなと思っています。
ただ、ライトノベルでは一次落ちが受賞するというのがときどき起こっているようですね。レーベルカラーというのもありますし、A賞が駄目だから、傾向の違うB賞に出してみるのはアリではないかと思う次第です。
実際に、ライトノベルやキャラ文芸(ライト文芸)の投稿者さんが、Twitter等でよく呟いています。「どこそこの一次落ちを、別のに出したら三次までいった」とか。それから、「一次落ちしたけど、webで拾い上げてもらって書籍化」というケースも。
「再応募してもよくない?」と思うんですよね。
※すべて個人的見解ですので、なんの責任も持てません(ごめんなさい)。
使い回し(再応募)とは
A作品がX賞で落ちたことを確認し、Y賞に応募すること
または、翌年(または次期)のX賞に応募すること
※二重投稿とは違うので、ご注意!
2022/4 追記
一般的には上のように解釈されていますが、「二重投稿禁止=他社へ出した作品も禁止」としている出版社もあるようです。たとえば「双葉文庫ルーキー大賞」は「二重応募(同じ作品の応募)は不可」と明記されています。
使い回し(再応募)の成功例
実は、わりとあるみたいなんですよね。
→こちらの記事にもちょっと書きました。
今回は、「86-エイティシックス-」を見ていきたいと思います。
第23回電撃小説大賞(2016年)の大賞作品です。
2015年の電撃大賞で、一次選考落ちしているとか。
一次落ちからの、大賞受賞(それも翌年)ですから、ちょっと驚きます。
ちなみに、ほとんど改稿せずの再応募(ラスト2ページを付け加えただけとか)。
電撃ラジオや電撃MAGAZINEの対談などで、作者本人が語っておられます。
どんなスペックの作品かというと!
著者は安里アサト先生。挿絵はしらび先生。
2020年11月現在、8巻まで発売されています。
『このライトノベルがすごい!2018』では、新作1位・総合2位!
『このライトノベルがすごい!2019』では、総合5位!
シリーズ累計75万部突破(2019/09現在)!
売れていますし、評価も高い!
どうして「86-エイティシックス-」が一次落ちしたのか?
一次落ちからの大賞受賞ということで、興味本位で読みました。結果、「え? これで一次落ちとかありえなくない?」と思ったわけです。
▼設定がうまい!
公式の作品紹介では、つかみ部分にこう書かれています。
『その戦場に、死者はいない。』―そのはずだった。
どんな物語なのか煽られます。そして、設定を活かした期待を裏切らないストーリー。
▼ボーイミーツガールのはずなのに、少年と少女は出会わない!
交信はするけれど、対面することがないというのは新しい。少女は後方で指揮官、少年は最前線のパイロット。
▼伏線がちゃんと回収されていく。
「なんでそんなことをした?」と不思議だった行動が、ちゃんと理由付けされていきます。そして、それが物語の流れに乗っている。この設定、どっから出てきたとか、いきなりそんなこといわれてもみたいなことがない。
(ラストに賛否両論はあるみたいですが、あれもストーリー回収と思えば個人的にはとても納得の結末です)
で、考えたわけです。
落ちた理由を考えてみた(※あくまで個人的見解)
文章がひどいわけじゃない。ラノベにしては固い印象もあるけれど、内容とテーマを考えたら合っていると思う。漢字が多いし、登場人物も多いし、物語特有の固有名称もあるしで、一人称の口語的な作品になれている読者には辛いかもしれませんが、文章レベルで一次落ちとかいうレベルではない気がする。
テーマが重いし、作品も重い。さすがに売れ筋と思われなかったのかな?
いやいや、最近はディストピア小説が流行っているじゃないか。
カテエラ? 電撃にカテエラってあるの?
電撃だぞ? なんでもありじゃないの?
ロボット系は厳しいとかいう噂はあるけどさ、それ?
となると、「これ、似ている作品があるんじゃね?」と思ったわけです。
一次落ちの理由の一つに「オリジナリティ」があります。過去の作品に似ているものは落ちるというのが通説です。
で、ヒットしたのが『コードギアス 亡国のアキト 』。人気アニメ『コードギアス 反逆のルルーシュ 』のスピンオフですね。気になってしまって、亡国のアキトを見てしまいました。
個人的感想になりますが、似ている部分も多い。設定も、ストーリーも、どちらも共通点が多いと思います。あと、固有名詞が似ているので、ものすごく共通点が多く感じます。とくに前半部分は、「おお……」と思いました。一次選考で落ちた理由はわかりませんが、「オリジナリティ」で引っかかったというのであれば、私は納得できます。
ただし、そうでない部分もたくさんあります。そして、そのオリジナリティがとても効果的だとも思います。また、ストーリーの展開力がすごい!
さすがは大賞受賞作、とてもおもしろかったです!
この作品のいいところは?
「受賞のための勉強」と考えるのであれば、読んだほうがいいと思います。
細かい点を気にしていけば、設定の穴もあるんですけどね。ただ、お手本にするところがたくさんあると思います。とはいっても、ミリタリー小説なので、苦手な人はやめたほうがいいかも(私は苦手なので、3巻まででごめんなさい)。
▼読み始めてすぐ、物語の先が気になる(想像できる)。
そして、裏切られない。それなのに、想定外の展開もある。
▼伏線はきっちり回収する。
分かりやすい伏線から、うっすらした伏線まで、しっかり繋がります。
▼容赦ない。
はっきりいってキツいです。容赦のない展開が続くきます。
ただ、そのため主人公達「86」の悲惨さが際立ち、ヒーローとヒロインの関係も際立ちます。
▼ロボットアニメをラノベによく落とした。
戦闘シーンが多いです。また、その描き方も(好き嫌いあると思いますが)上手い。
などなど。ロボットアニメっぽいSFがラノベの賞を取ったことに驚きました。
が、この分野、需要はあるんですよ。実際、SF、ロボットアニメっぽい、ディストピアな作品に興味を示す十代~二十代は多いと思います。
一次選考はザルなのか?
オンラインノベルサイトで、一次落ち、一次通過、二次通過の作品をちらほら読んだ結果。
「ザル」とは全く思えないです。
ただし、「下読みさんが売れ筋作品を見つけられるかは別問題」と思っています。また、「下読みさんとレーベルが変われば、一次は通過するんじゃないか」と思うよくできた一次落ち作品も存在しています。実際、「86」ほど顕著ではありませんが、一次落ちが二次通過、三次通過ということはわりとあるようですし。
下読みさんはちゃんと読んでいると思いますし、新人賞で出てくる作品は新しくて勢いがあるなぁと思うものが多いです。ですが、下読みさんの好み、読書量、読書傾向やアニメ遍歴などが違うので、選考基準を一定にすることは不可能だと思います。
もし、自分が『コードギアス 亡国のアキト 』の大ファンだったとしたら、この作品は受け入れられなかったかもしれないです。でも、この作品を読んで「なんでこのレベルで一次落ちするんだ」とびっくりしたのも本当。
個人的な感想で恐縮ですが、「下読みさんの感性や情報量に左右される」ことはあって当たり前だと思います。下読みさんが『86』を落としたことも、大賞を受賞したことも、わかる気がするんですよ。
※個人の感想です。決して、一次落ちの理由が『コードギアス』と決めつけているわけではありません。ただ、自分が下読みしていて、コードギアスを知っていたら、迷っただろうなと思ったのです。
また、仮にそれ以外の理由で本作が一次落ちをしていたのであれば、翌年の受賞作で、大ヒット小説です。「一次選考の下読みのレベルは大したことがない」とお考えになってもいいのでは? つまり、当たりの下読みさんに出会うまで再応募していいのではないでしょうか。
つまり、再応募ってアリだと思うんですよね。