芥川賞と直木賞の違いは? 意外と知らない、純文学と大衆小説の違い
芥川賞と直木賞は、毎年2回(7月と1月)に発表されています。
7月発表分が上半期(前年12月から5月までに発表)、翌年1月発表分が下半期(6月から11月)に発売された作品が対象になります。候補作は選考の1月前(6月と12月)に決定し、公表されます。
芥川賞と直木賞の違い
両賞の比較
| 賞の名称 | 芥川賞 | 直木賞 |
| 賞の正式名称 | 芥川龍之介賞 | 直木三十五賞 |
| 創設 | 菊池寛(文藝春秋社) | |
| 創設年 | 1935年 | |
| 選考時期 | 年2回 7月(上半期)・1月(下半期) | |
| ジャンル | 純文学 | 大衆小説 |
| 対象作家 | 新人作家 | 基本は中堅以上 |
| 作品の長さ | 短編~中編 | 短編~長編 |
| 以下、個人的な見解 | ||
| 対象作品 | 雑誌掲載の短・中編、単行本 新人賞受賞作がノミネートされることも多い。 |
単行本 新人の作品はノミネートされるだけで話題になるほど。 |
| 対象作家 | 純文学作品対象のため、本好きさん以外には無名なことが多い。加えて、新人賞受賞作がそのまま受賞することも多々ある。同時に、作家歴が長い方も受賞するようになってきた。 直木賞以上に経歴がユニークな方が多い印象も(歌手、お笑いタレント、学者、バンドマンなどなど)。 |
ほとんど単行本が対象なので、知名度のある作家が多い。作品へ与えられるはずだが、作家への功労賞的な年まである。 もとは無名・新人の作家へ与えられる賞だったが、中堅以上の作家がノミネート・受賞するようになり、対象作家の範囲が広くなった。 |
どちらが格上か?
対象作家やジャンルが違うため比較できません。
ただ、芥川賞がデビュー間もない作家さんもノミネートされるのに対し、直木賞は実績のある作家さんであることが多いです。ですから「直木賞のほうが上」というイメージを持つ方も少なくないようです。
第6回直木賞は井伏鱒二が受賞しているのですが、彼は純文学作家です。ですが、選考委員だった久米正雄は「純文学として書かれたものだが、このくらいの名文は当然大衆文学の世界に持ち込まれなくてはならぬ」と述べています。
また、多くの芥川賞ノミネート作家が、(芥川賞を受賞せず)直木賞を取っています。
どちらの賞が上とは言えませんが、純文学よりも直木賞のほうが対象範囲が広いことは間違いないと思います。
また、芥川賞には「登竜門」的なイメージもあります。芥川賞のノミネート作に、その期間の純文学系新人賞受賞作が入ってくるのはそのためです。純文学は売れませんので、純文学作家さんは芥川賞を取らなければなかなか厳しいようですね。
芥川賞は売れることよりも「芸術性」が求められるため、「芥川賞のほうが格調高い」というイメージを持つ方もいらっしゃるようです。が、直木賞は「格調高い」作品も充分対象範囲に入るため、芥川賞のほうが必ずしも文学性が高いともいえないようです。
純文学と大衆文学の違い
そもそも芥川賞と直木賞の大きな違いは、ジャンルです。
| 純文学 | 大衆文学 |
| ・芸術性に重き。 ・ストーリーがなくてもよい。 ・文体・形式が重視され、実験的な小説も。 ・日本では私小説的なものも多い。 |
・娯楽性に重き。 ・ストーリーがないことはほぼない。 ・ある程度の読みやすさが求められる。 ・私小説にも娯楽性が必要。 |
| ・私小説 ・心境小説 |
・エンタメ小説 ・ミステリ小説 ・SF、ファンタジー小説 ・歴史、時代小説 |
私小説……自身の経験や精神をそのまま描いた小説。日本ではいっそ露悪的な作風も多かった。デジタル大辞泉によると、「 作者自身を主人公として、自己の生活体験とその間の心境や感慨を吐露していく小説。日本独特の小説の一形態で、大正期から昭和初期にかけて文壇の主流をなした。わたくし小説。」
心境小説……志賀直哉など「白樺派」の流れをくむ、自然主義的私小説。デジタル大辞泉によると、「作者が日常生活で目に触れたものを描きながら、その中に自己の心境を調和のとれた筆致で表現した小説。」
個人的には、直木賞をSF小説が受賞しにくく、芥川賞でSF作家がノミネート・受賞しているのをみると、「解せぬ」と呟きたくなります。直木賞さん、SFやファンタジー小説ももっと評価してください!
最近の芥川賞は私小説というより、私小説風の作品が多いです。
純文学と大衆小説のボーダレス化
純文学と大衆小説を明確に線引きすることはできなくなってきました。
純文学というのは、そもそも日本固有のジャンルです。海外では、純文学がないというより、「純文学」を区別していないのだと思います。また、日本では、「私小説にて自分を吐露する作風」を純文学(私小説)とする向きもあります。自分をさらけ出す傑作小説が次から次に出てくるはずもなく、いわゆる「純文学」でない、短編・中編作品がノミネートされるのも当然と言えます。
くわえて、芥川賞のノミネート条件は新人作家です。「芸術性」の高い作品を、新人がばんばん出せるはずもなく、「文学性」は薄くても目新しいテーマや構成を使っている作品がノミネートされてしまう現状もあります。
そもそも、名の売れてきた純文学作家さんは長編を書くようになるため、直木賞でノミネートされるようになります。
そのため、芥川賞受賞作を読んでも「これ、芥川賞なの?」と思うこともしばしば。
芥川賞や直木賞の候補作は、どうやって決める?
主催しているのは「日本文学振興会」です。文藝春秋社内に事務所があります。
候補作の絞り込みは、日本文学振興会の依頼で、文藝春秋社の社員さんによって行われるといわれています。何度も会議を行い、最終的に候補作が決定したところで、候補者に受賞の意思確認を行って発表となります。
まとめ
「最高峰の文学賞」という印象がある芥川賞と直木賞ですが、設立者の菊池寛自身が「宣伝のためにやっているのだ」と名言しています。本が売れにくくなる時期に、本を売るために作った賞だともいわれています。
以前はどちらの賞も無名作家や新人作家を対象とした賞であったため、「宣伝のため」というのもよく分かります。しかし、近年は有名人やすでに名の売れた作家さんの受賞が多く(お笑い芸人の又吉さんが芥川賞受賞、セカオワの藤崎彩織さんが直木賞ノミネートなど)、「売れて欲しいけれど読者の目が届いていない」作家さんが注目されることも減ってきました。
年2回のお祭りと思って楽しむべき賞だと思います。


