村田沙耶香さん『生命式』の感想! 確かに危険です。

作家ご本人がセレクトした12篇が収録された短編集です。「文学史上最も危険な短編集」と帯にあるとおり、確かに危険な設定が多発。

相変わらず独特のセンス、設定を躊躇なく入れてくる作家さんです。どれもおもしろく読みました。喩えのセンスが秀逸ですが、文体自体は純文学ではない雰囲気。この方、直木賞でもよかったのにと思うくらい。

基本的にはどれも「常識」を揺さぶる内容……なんでしょうが、とくには揺さぶられず。個人的には、作中での常識と、作中での異常と、一般的な常識と、一般にいう異常が乱れる様を楽しみました。

一番面白かったのは「孵化」。その次が「素晴らしい食卓」です。「生命式」と「素朴な素材」の設定は突飛で、インパクトがあります。表題作となるのも納得。

各短編の感想

「生命式」

人が亡くなったときに行うのが生命式。亡くなった人の肉料理を食べて、受精(生殖)をするという世界が描かれています。受精の相手は生命式で出会った人。

主人公の女性が子どもだった頃は、現代社会のように、人肉は食べないし、家族制の強い社会でした。それが崩れて、新たな価値観が常識となった世界です。

友人の「生命式」を通して、主人公の価値観が揺さぶられていく作品です。

「素朴な素材」

亡くなった人の体を使用したアクセサリーや家具が貴重とされる世界です。たとえば結婚指輪であれば、「前歯を加工して作った指輪が一番」。人毛100パーセントのセーターは高級品で、みんなの憧れです。

主人公は結婚を目前とした女性。この世界のごく一般的な価値観を持っています。しかし、夫となる男性は、(なぜか)人の素材を使ったものが気持ち悪いと感じます。

結婚を控え、2人の価値観はすれ違っていますが、ある出来事で価値観に変化がという話。

「素晴らしい食卓」

宇宙食を思わせる食品を食べる私が主人公です。

妹は異世界の魔界都市で戦う能力者設定をしており、その故郷料理を大切にしています。その妹が、婚約者の両親に魔界料理を振る舞うことになりという話です。

妹の設定や、その料理がとてもユニークでおもしろいです。実は、彼の両親や彼の料理アイデンティティもおもしろく、ストーリーの展開が読めません。

最後のオチがとてもよかったです。

「二人家族」

「大人になっても一緒にいようね」と約束した女友達同士が家族となった話。短いです。

「大きな星の時間」

残酷童話的。この作品もよかったですが、他の設定がぶっとんでいたのでインパクト勝負で負けました。そもそもとても短い作品ですしね。

「ポチ」

モチーフを深読みすべきなのかな? 個人的にはとくに面白さを感じなかった作品。これも短いです。

「魔法のからだ」

これが一番純文学的だったと思います。好き嫌いは分かれる気がしますが、瑠璃のあやうい少女らしさが印象に残りました。逆に誌穂が安定しすぎなようにも感じました。少女には思えません。

おそらくは、瑠璃と誌穂を対照的に書かれたのではないかと。瑠璃が「体は大人、心は少女」、誌穂は「体は子ども、心は大人」という感じです。

これも短い作品でした。

「かぜのこいびと」

カーテン擬人化作品。短いです。

「パズル」

実は今ひとつよく理解できなかった作品。ホラーというわけでもないのに、この不気味さは流石としかいいようがない。

「街を食べる」

比較的普通の作品です。なぜこのラインナップに入れたのだろうと思えるくらいに(ただ、私が田舎人だからそう感じるだけかも)。もちろん、常識が呪いのように固定している登場人物をみると、ラインナップされて当然といえるのですけれど。

さすがに自分たちで捕まえたりはしませんが、我が町のお店には某とりさんの焼き鳥があったのですよ(ちょっと前まで。今は知らないです)。

「孵化」

コミュニティの空気を読んで自分を演じる女性が主人公。とてもおもしろかったです。とくに、ラスト。ラストが秀逸!

おわりに

現代社会の常識からするとグロテスクな話も多いですが、とても興味深い設定です。好き嫌いは分かれると思いますが、帯に偽りなし。確かにいろいろな意味で危険な作品です。