直木賞の受賞作を予想 第164回(2020下半期)候補作の個人的感想

今回の候補作品はこれ!

全員が初ノミネートだそうです。ただ、長浦さんは『リボルバー・リリー』が大藪賞受賞、伊予原さんが『月まで三キロ』で新田次郎文学賞を受賞。芦沢さんは『火のないところに煙は』で山本周五郎賞の候補になっています。また、西条さんは吉川英治新人賞の受賞者。そのうち候補に入ってきてもおかしくないと思っていた作家さんばかりですが、ここでか。

それよりなにより、今回、短編が多くないですか? 『インビジブル』か『アンダードッグス』のどちらかは取りそうな気がしています。個人的には『アンダードッグス』が本命です。

作品作家出版社
『汚れた手をそこで拭かない』(短編)芦沢央文藝春秋
『八月の銀の雪』(短編)伊与原新新潮社
『心淋し川』(短編)西條奈加集英社
『インビジブル』坂上泉氏文藝春秋
『アンダードッグス』長浦京氏KADOKAWA
『オルタネート』加藤シゲアキ新潮社

出版社まで入れたのには理由がありまして、161回から3回(『渦』、『熱源』、『少年と犬』)、受賞作が文藝春秋だったからです!

作品紹介

芦沢央『汚れた手をそこで拭かない』

平穏に夏休みを終えたい小学校教諭、認知症の妻を傷つけたくない夫。元不倫相手を見返したい料理研究家…始まりは、ささやかな秘密。気付かぬうちにじわりじわりと「お金」の魔の手はやってきて、見逃したはずの小さな綻びは、彼ら自身を絡め取り、蝕んでいく。取り扱い注意!研ぎ澄まされたミステリ5篇。

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良作です。個人的に、芹沢さんは短編のほうが好きなで、これで取っていただいてもとは思うんですが……。他作品に比べると少し小粒な印象はあります。

「ただ運が悪かっただけ」「埋め合わせ」「忘却」「お蔵入り」「ミモザ」の5篇。表題作の短編はありません。ラストの「ミモザ」に繋げる順に並んでいるかなと思います。ミモザの容赦ない終わり方がよかったです。

芹沢さんの長編『カインは言わなかった』は162回の直木賞を(出版社が)狙っているんではと思っていたんですが、正直、作品が滑った感がありました。カインに比べると、本作は圧倒的に面白いし、芦沢さんらしさが出ているので、短編なのが惜しまれる……(短編だからこその作品ではあると思いますが)。

山本周五郎賞、吉川英治新人賞にノミネートされながら落としてきているので、ここで直木賞を取ったらおもしろいんですが。今回は第一候補にはならないかな。

伊与原新『八月の銀の雪』

不愛想で手際が悪い―。コンビニのベトナム人店員グエンが、就活連敗中の理系大学生、堀川に見せた驚きの真の姿。(『八月の銀の雪』)。子育てに自信をもてないシングルマザーが、博物館勤めの女性に聞いた深海の話。深い海の底で泳ぐ鯨に想いを馳せて…。(『海へ還る日』)。原発の下請け会社を辞め、心赴くまま一人旅をしていた辰朗は、茨城の海岸で凧揚げをする初老の男に出会う。男の父親が太平洋戦争で果たした役目とは。(『十万年の西風』)。科学の揺るぎない真実が、人知れず傷ついた心に希望の灯りをともす全5篇。

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電子書籍で急いでチェック。良い話ではあるんですが、良すぎないかという気もしています。短編ということもあって、長編作品に比べるとインパクトが薄いです。さらに、良い話すぎてなおのこと薄くなります。

時事問題が入ってきているんですが、一部に関しては今さら感のあるテーマで。すでにそのテーマの良作品が出ていることもあり、驚きはあまりなかったです。

西條奈加『心淋し川』

不美人な妾ばかりを囲う六兵衛。その一人、先行きに不安を覚えていたりきは、六兵衛が持ち込んだ張形に、悪戯心から小刀で仏像を彫りだして…(「閨仏」)。飯屋を営む与吾蔵は、根津権現で小さな女の子の唄を耳にする。それは、かつて手酷く捨てた女が口にしていた珍しい唄だった。もしや己の子ではと声をかけるが―(「はじめましょ」)他、全六編。生きる喜びと哀しみが織りなす、渾身の時代小説。

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部数が少なかったのか、一時的に値上がりしています。本屋でもあまり見かけていないので、重版掛かるのをお待ちください!

完全にノーチェックな作家さんだった! ファンタジーノベル大賞出身で気にはなっていたんですが……。

坂上泉『インビジブル』

昭和29年、大阪城付近で政治家秘書が頭を麻袋で覆われた刺殺体となって見つかる。大阪市警視庁が騒然とするなか、若手の新城は初めての殺人事件捜査に意気込むが、上層部の思惑により国警から派遣された警察官僚の守屋と組みはめに。帝大卒のエリートなのに聞き込みもできない守屋に、中卒叩き上げの新城は厄介者を押し付けられたと苛立ちを募らせるが―。はぐれ者バディVS猟奇殺人犯、戦後大阪の「闇」を圧倒的リアリティで描き切る傑作長篇。

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『へぼ侍』で松本清張賞を取られたばかりのまだ若い作家さんです。2作目でのノミネート! これで取ったらまるで『熱源』のときのようです。が、対抗馬として『アンダードッグス』がいるので、ちょっと厳しいかなと思います。

長浦京『アンダードッグス』

裏金作りに巻き込まれ全てを失った元官僚の古葉慶太は、イタリア人大富豪に世界を揺るがす計画を託される。それは、国籍もバラバラな“負け犬”仲間たちとチームを組み、香港の銀行地下に隠された国家機密を奪取するというものだった―。敵は大国、狙うは国家機密!1997年、返還前夜の香港で、負け犬たちの逆襲が始まる。超弩級ミステリー巨編!

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めちゃくちゃ力が入っている作品です。角川さんの本気が見えた!

長浦さんの作品にしては一般受けしそうな作品だなと思います。もともと放送作家さんなので、スピーディーな展開には定評があります。本作も展開がめまぐるしく、映像映えしそうなシーンが目白押し。とにかく先が気になる一気読み作品です!

作品の時代設定も「香港返還前夜」。今、あれだけクローズアップされている香港をテーマとしています。

今回はこれが本命かなぁ。正直、映像作品っぽいので直木賞候補には挙がってこないのではと思っていたんですが、入ってきたんだったら取ってほしい。

加藤シゲアキ『オルタネート』

高校生限定のマッチングアプリ「オルタネート」が必須となった現代。東京のとある高校を舞台に、若者たちの運命が、鮮やかに加速していく。全国配信の料理コンテストで巻き起こった“悲劇”の後遺症に思い悩む蓉。母との軋轢により、“絶対真実の愛”を求め続ける「オルタネート」信奉者の凪津。高校を中退し、“亡霊の街”から逃れるように、音楽家の集うシェアハウスへと潜り込んだ尚志。恋とは、友情とは、家族とは。そして、人と“繋がる”とは何か。デジタルな世界と未分化な感情が織りなす物語の果てに、三人を待ち受ける未来とは一体―。“あの頃”の煌めき、そして新たな旅立ちを端正かつエモーショナルな筆致で紡ぐ、新時代の青春小説。

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『チュベローズで待ってる』の系統でしょうか? 個人的には、あの作品が酷すぎて読みたいと思える作家さんではないんですが……読むか(予想するなら読めよっていう話なんですが)。

芸能人が書いたと思えば『チュベローズで待っている』もある程度読めたと思うんですが、作家として見て欲しいんだろうなというくらい意欲的に作品を書かれているので。『チュベローズで待ってる』を読むかぎり、この方、デジタル(IT)を理解し、昇華できる方とは思えないんですが……。

予想

個人的には、圧倒的に『アンダードッグス』です。

本命『アンダードッグス』
対抗馬『インビジブル』
大穴『八月の銀の雪』

大穴に関しては、選べと言われればという感じです。今回、初ノミネートばかりなので、「前作からの成長が~」的なものも、合わせ技1本的な受賞もないだろうと思います。

後日、残りを読んで順位変動するかもしれないです(たぶんない)。