数学をテーマにしたオススメ小説

2020年1月11日

数学をテーマにした小説をご紹介します!
選んだ作品が現在取り扱い不可(中古しかない)というケースもあり、取り扱いにある作品5選+αでご紹介したいと思います。小説の中にしっかりと「数学」が取り込まれた作品に絞っています。かといって、「数学ガール」のような良書ですが、物語性が薄く、数学が強めの作品も今回は外しました。

青の数学 王城夕紀さん

雪の日に出会った女子高生は、数学オリンピックを制した天才だった。その少女、京香凜の問いに、栢山は困惑する。「数学って、何?」――。若き数学者が集うネット上の決闘空間「E2」。全国トップ偕成高校の数学研究会「オイラー倶楽部」。ライバルと出会い、競う中で、栢山は香凜に対する答えを探す。ひたむきな想いを、身体に燻る熱を、数学へとぶつける少年少女たちを描く青春小説。

青の数学2―ユークリッド・エクスプローラー―

青の数学2 ユークリッド・エクスプローラー

数学オリンピック出場者との夏合宿を終えた栢山は、自分を見失い始めていた。そんな彼の前に現れた偕成高校オイラー倶楽部・最後の1人、二宮。京香凜の数列がわかったと語る青年は、波乱を呼び寄せる。さらに、ネット上の数学決闘空間「E2」では多くの参加者が集う“アリーナ”の開催が迫っていた。ライバル達を前に栢山は……。数学に全てを賭ける少年少女を描く青春小説、第2弾。

数学の才能を持った高校生が、その力をぶつけ合う青春小説。才能とは、数学とは、どうして数学をするのか、なぜ戦うのか……少年少女それぞれに悩みがあり、それでも数学の魔力に惹きつけられてしまうのです。

1巻は前半が京らとの出会いとE2、後半が数学合宿になります。この数学合宿が面白い。キャラクターが大量に出てくるのですが、キャラ立て=数学へのアプローチといった感じで、「誰だったけ?」ということはほとんどありません。主人公と「オイラー倶楽部」部長の皇を中心に、物語がぐいぐいと引っ張られていきます。ピリッと引き締まった青春空間での数学勝負が青く美しいです。

この緊張は2巻にも続いていて、E2で繰り広げられる戦い、少年少女の葛藤が描かれていきます。また新たに出てくる二宮やダークマターが新風となって飽きさせません。

有名な数式や、数学問題が間に挟まれていますが、数学が分からなくても問題なく読めます。深い数学解説はほとんどなく、ただ、数学の才を持ち、数学に取り憑かれた高校生たちが、真摯に数学に取り組み成長する姿が描かれます。

天才が出てくる小説というのは、だいたい「孤独」とセットになる気がします。しかし、この小説はたくさんの天才が出てくるけれど、孤高ではあっても、孤独ではないと思えます。互いに繋がりあえる手段として「数学」「決闘」があります。数学世界に生きる少年少女を描いた青春小説。オススメです。

文体が少々ぎくしゃくした感じを受けることもあるのですが、これ自体が作者さんの味かなと思っています。

永遠についての証明 岩井圭也さん

永遠についての証明

親友の遺したノートには未解決問題の証明が――。数学の天才と青春の苦悩。

特別推薦生として協和大学の数学科にやってきた瞭司と熊沢、そして佐那。眩いばかりの数学的才能を持つ瞭司に惹きつけられるように三人は結びつき、共同研究で画期的な成果を上げる。しかし瞭司の過剰な才能は周囲の人間を巻き込み、関係性を修復不可能なほどに引き裂いてしまう。出会いから17年後、失意のなかで死んだ瞭司の研究ノートを手にした熊沢は、そこに未解決問題「コラッツ予想」の証明と思われる記述を発見する。贖罪の気持ちを抱える熊沢は、ノートに挑むことで再び瞭司と向き合うことを決意するが――。

数学の天才「瞭司」と主人公の「熊沢」との関係を描いた本作。第9回野性時代フロンティア文学賞受賞作です。
登場人物は三人(瞭司、熊沢、佐那)とも才能はあったのですが、瞭司が突出しすぎたところから悲劇的な展開となっていきます。とくに天才であるがゆえに自滅していく瞭司が生き様が辛いです。あまりに救いがなく胸が詰まります。そして、熊沢もまた苦しみながら親友の残した問に取り組んでいくのですが、誰に感情移入するかで作品の見方が変わってしまうように思います。

文章が上手く、表現力もありますし、小説としての構造も上手い。数学に興味がない人が読んでも、小説として充分興味をひかれる作品となっています。ただ上手いぶん、数学者である主人公たちの重苦しさが作中に乗っかっているので、全体のトーンがとても暗いです。

数の女王 川添愛さん

人間一人ひとりに「運命の数」が与えられている世界。メルセイン王国の王妃は、呪いで敵を殺しているという噂があった。王妃の娘で13歳のナジャはある日、数年前に死んだ最愛の姉ビアンカが、実は王妃によって殺されたという話を耳にする。数日後、ナジャはあるきっかけで、禁じられた計算を行う妖精たちと出会い、王妃の秘密を知ることになる――。

『精霊の箱 チューリングマシンをめぐる冒険』を書かれた作者さん。チューリングマシンでピンとこられた方も多いと思いますが、ファンタジー作品の中で「計算」と「コンピュータ」の基礎を学ぶという意欲作です。

『数の女王』でも、数学的トピックスがファンタジーに織り込まれています。数学というのが神秘的に描かれていて、魔術的で面白いです。数学を学ぶための本ではもちろんないのですが、随所に数学的テーマが取り上げられており、数学好きが楽しめる内容になっています。白雪姫を下地にしたようなファンタジー世界なのですが……。ファンタジー世界に数学がどう取り入れられているか(人に運命の数が与えられているとか、計算が禁止になっている国など、設定がおもしろい!)という視点でも楽しめますし、物語も教訓的ですが面白いです。

作者は言語学者とのこと。童話的ですので12歳くらいから読めそうですが、数学が苦手な人にとっては「普通のファンタジーがいい」となりそうな感じもします。

算法少女 遠藤寛子さん

父・千葉桃三から算法の手ほどきを受けていた町娘あきは、ある日、観音さまに奉納された算額に誤りを見つけ声をあげた…。その出来事を聞き及んだ久留米藩主・有馬侯は、あきを姫君の算法指南役にしようとするが、騒動がもちあがる。上方算法に対抗心を燃やす関流の実力者・藤田貞資が、あきと同じ年頃の、関流を学ぶ娘と競わせることを画策。はたしてその結果は…。

江戸時代に実在した和算の本「算法少女」をもとにした小説。 ちくま学芸文庫で2016年にアニメ化されています。和算をモチーフに、少女が強くたくましく進んでいく本です。少年少女はもちろん、大人でも楽しめる良書です。また時代小説、青春小説としても素晴らしいと思います。作中には和算も出ているので、「和算」に触れ、楽しむことができると思います。
また、数学が苦手でも(わからなくても)楽しめます。

とても丁寧に描かれている半面、江戸時代の本をもとにしているせいか、ちょっとお行儀がよろしすぎる気もします。そのせいで小説としての盛り上がりには欠けるかもしれません。

博士の愛した数式 小川洋子さん

博士の愛した数式

僕の記憶は80分しかもたない。

「ぼくの記憶は80分しかもたない」博士の背広の袖には、そう書かれた古びたメモが留められていた──記憶力を失った博士にとって、私は常に“新しい"家政婦。博士は“初対面"の私に、靴のサイズや誕生日を尋ねた。数字が博士の言葉だった。やがて私の10歳の息子が加わり、ぎこちない日々は驚きと歓びに満ちたものに変わった。あまりに悲しく暖かい、奇跡の愛の物語。第1回本屋大賞受賞。

「数」や「数学」への執着と愛情が、物語へのエッセンスとして丁寧に描かれていきます。博士は数学者で、「80分しか記憶が持たない」ことが物語を牽引していきます。博士と私、私の息子が触れあい、交流していくとても優しい小説です。博士が「私」の息子を「ルート」と名付けるところが印象的です。

とても淡々とした小説ですが、「小川さん」ならではの優しく、繊細で、美しい日本語で纏められています。ところどころにちりばめられた「数学」がとても美しくて、作品をとても印象深いものにします。数学が苦手な人にこそ読んでいただきたい作品です。

今さら紹介する必要もないほど有名な作品。
映画化もされ、そちらも素晴らしかったです。

ペトロス伯父と「ゴールドバッハの予想」  アポストロス ドキアディスさん

新刊がどうも見つからないので、図書館か古書店をオススメします。

ペトロス伯父と「ゴールドバッハの予想」

「2より大きいすべての偶数は、二つの素数の和で表わすことができる」これが、200年もの間、証明されたことのない難問「ゴールドバッハの予想」である。ギリシャの田舎に隠棲するペトロス伯父は、かつて天才的数学者だった。その伯父でさえ証明できなかった難問こそが「ゴールドバッハの予想」であった。そんな伯父は一族から「嫌われ者」あつかいされているが、甥のわたしだけは彼を敬愛している。だから、伯父は「ゴールドバッハの予想」と苦闘した過去をわたしにうちあけたのだ。その闘いは、若き日の伯父が留学したドイツで幕を開けた…。数学の論理と美が思考を刺激し、学者の狂気の人生が心をうつ。数学の魔性に惹きこまれた男の数奇な人生を紡ぎ出す稀代の物語。

数学が好きな人は、ぜったいにはまるのではないかと思われる良書。小説というよりはノンフィクションっぽい作品です(実際、なかばノンフィクション的という話)。ハーディやラマヌジャン、チューリングなども出てくるので、数学好きさんの心がくすぐられるはずです。

とにかく、このとんでも伯父さんが面白い。数学に取り憑かれた人たちが繰り広げる、数学の世界の話です。数学に取り憑かれるといことがどういうことなのか、リアルに描かれていると思います!(本当にリアルなのかはわかりませんが、ノンフィクションに思えるほどリアルです)。そして、それがものすごく面白いです。惹きつけられれます。

「博士の愛した数学」がしばしばこの本と比べられるのですが、あちらが小説に数学をエッセンスとしていれたとするなら、こちらは数学(者)を小説に落とし込んだという感じです。数学(者)ありきで書かれた作品になると思います。

円周率を計算した男 鳴海風さん

こちらも……新刊がどうも見つからないので、図書館か古書店をオススメします。

円周率を計算した男

鎖国下の江戸時代、日本でも全く独自の方法で円周率の計算に躍起になった男たちがいた―算聖とうたわれた師関孝和との葛藤を経つつ、ついに円周率の公式を明らかにした天才算術家建部賢弘の苦闘の生涯…。歴史文学賞受賞・日本数学会出版賞受賞の表題作「円周率を計算した男」、大酒飲みの奇才算術家に振り回される平野忠兵衛夫婦の大晦日の夜を描いた「初夢」ほか、「空出」「算子塚」「風狂算法」「やぶつばきの降り敷く」の六篇を収録。

江戸時代の算術家(数学者)を描いた短編集です。和算がしっかり描かれた歴史小説で、物語としても素晴らしいです。算術家たちの苦悩や数学にかける思いも描かれていますが、決して変人ばかりではなく、普通の人間として描かれているところがいいです。当時の天才算術家たちがたくさん出てくるので、和算好きさんにオススメです。また歴史小説としてもレベルが高いので、歴史小説が好きな方にもオススメできます。

和算というと、『天地明察』が話題になり、たしかにとても面白かったのですが(天地明察は、キャラクターが秀逸ですし、和算や暦の歴史をなぞる物語としてはとても素晴らしかったです)。ただ、数学という意味ではちょっと……挟まれた作問のうち間違ってはいけない問題が病題であるなど(読んだのはハードカバーの初版なので、直されている可能性も)、和算への理解という意味ではこちらの「円周率を計算した男」のほうがよかったなと思っています。
もちろん、『天地明察』もオススメです。和算を有名にしたのは『天地明察』だとも思っています。

おわりに

熱く澄んだ数学の物語を読みたい人は『青の数学』を、リアルな数学者の物語を読みたいかたは『永遠についての証明』をオススメします。また、数学者と人の交流、数学の柔らかさに触れたい方は、『博士の愛した数式』がオススメです。ファンタジー小説が好きな方には『数の女王』、和算に触れたいかたは『算法少女』をオススメします。