山本周五郎賞・三島由紀夫賞とは? 直木賞・芥川賞との比較!
小説・文学の世界で有名な賞といえば、「直木賞」「芥川賞」「本屋大賞」の三つではないでしょうか?
実際には、他にもたくさんの賞があります。その中でも、直木賞・芥川賞と比較されやすい新人賞が、新潮社の山周賞(山本周五郎賞)・三島賞(三島由紀夫賞)です。
直木賞、山周賞が大衆小説、芥川賞、三島賞が純文学に与えられることが多いです。
今回はこれらの賞を比較してみます。
賞の比較
主催・後援 | 文藝春秋社 | 新潮社 |
賞の名称 | 直木賞・芥川賞 | 山周賞・三島賞 |
創設年 | 1935年 | 1988年(※) |
選考 | 年2回(7月・1月) | 年1回(5月) |
賞の概要 | おそらく日本で一番有名な文学賞。菊池寛によって創設された。 | 直木賞・芥川賞に対抗すべく作られた文学賞。山周賞が大衆小説、三島賞が純文学より。 ※三島賞は1987創設 1988年に第1回とするのが正式。 |
ご覧の通り、明らかに直木・芥川賞に対抗すべく立ち上がった、新潮社の文学賞です。
芥川賞と三島賞に限って言えばわりと棲み分けがされている気がするのですが、山周賞のほうががっつり対抗馬という形です。
おもしろエピソードもあるので、次は文学の傾向で比較してみます。
芥川賞と三島賞
賞の名称 | 芥川賞 | 三島賞 |
賞の正式名称 | 芥川龍之介賞 | 三島由紀夫賞 |
対象作家 | 新人 | すべて |
受賞対象 | 純文学。雑誌からのノミネートも多い。 | 文学の前途を拓く新鋭の作品(小説、評論、詩歌、戯曲)。基本的には小説が受賞。 |
個人的な見解 | ・新人賞受賞作がそのまま受賞することもわりとある。同時に、作家歴が長い方も受賞するようになってきたが、三島賞に比べれば新人といえるうちに受賞する人がほとんど。
・直木賞以上に経歴がユニークな方が多い印象も(歌手、お笑いタレント、学者、バンドマンなどなど)。 |
・基本的には小説が受賞している。雑誌掲載作品から単行本まで、新人から大家まで受賞社は幅広い。2016年受賞の蓮實重彦さんは80歳で受賞! ・候補者も含めると、芥川賞と作家被りの多い時期もあったが、独自路線は相変わらず。 ・第1回では12作が候補に残り、票が割れまくったとか。その後は5作品程度で安定している。 ・エンタメ作家が取ることもある。 |
直木賞と山周賞
賞の名称 | 直木賞 | 山周賞 |
賞の正式名称 | 直木三十五賞 | 山本周五郎賞 |
対象作家 | 基本は中堅以上 | すべて |
受賞対象 | 基本的には単行本 | |
個人的な見解 | 12~5月と6~11月で候補作を選ぶ。 山本周五郎賞を取っている作家も候補者になる。 |
前年4月から当年3月までの間で候補作を選ぶ。 直木賞作家は候補にあがらない。 |
直木賞と山周賞のエピソード
epi.1 山本周五郎とは?
時代小説・大衆小説で有名な山本周五郎さん。実は、直木賞の長い歴史において、唯一、受賞後に直木賞を辞退した作家です。受賞辞退作は『日本婦道記』。
辞退理由はいろいろ言われていますが、公式でのご本人の理由としては「もっと新しい人、新しい作品に当てるべき」とか。
また、「日本婦道記」は『婦人倶楽部』で連載していたものであり、これをまとめた改訂版『小説 日本婦道記』が出版間近であったことなどが上げられています。
新潮社が、直木賞対抗の賞に、山本周五郎の名を冠したのは流石としかいいようがない。たぶん、やる気に満ちていたのだろうと思われます。(いいぞ、もっとやれ! 最近大人しいぞ!)
epi.2 直木賞より、山本周五郎賞といわれた時期も
本好きさんの間では、直木賞よりも、山本周五郎賞のほうがよい作品を出すといわれた時期もありました。それこそ、立場逆転くらいの勢いで、山周賞のほうが「あてになるよね!」と。
いつ頃かといいますと、1993年、1994年がとくに!
このときの受賞作がこちら。
1994年 久世光彦 『一九三四年冬―乱歩』(第111回直木賞候補)
「なんでその作品で直木賞を落としたの!?」と驚くような作品を2作、ひょいとすくい上げたんだとか。その後も、『安徳天皇漂海記』(宇月原晴明 第135回の直木賞候補)なども、SF、ファンタジーファンから絶大な支持がありながら、直木賞落ちした作品です。
これ以外にも、直木賞をとっていないことに驚くような旬の作家を、旬の作品で拾い上げてきた手腕はお見事としかいいようがない!
1989年 吉本ばなな 『TUGUMI つぐみ』
1992年 船戸与一 砂のクロニクル』
2008年 伊坂幸太郎 『ゴールデンスランバー』
2011年 窪美澄 『ふがいない僕は空を見た』
2014年 米澤穂信 『満願』
2018年 小川哲 『ゲームの王国』【上下】
直木賞がほとんど受賞させない、ファンタジー・SF分野からも定期的に受賞作が出るのは嬉しいです。
が、どうも昨今の評価では、山本周五郎賞を取ったあとに、直木賞的な流れがあるのも事実。さすがに、宮部さん、久世さんが受賞した一時期ほどは盛り上がっていないように思います。
直木賞が直近半年の作品から受賞作を出してくるのに対して、山周賞のほうは5月に一年間の作品から選ばれるので、直木賞のほうが話題性はあるよねと思います。5月というのは個人的に中途半端。
年末恒例のミステリランキングのように、年度ごとにわかりやすく受賞作品を出すほうが話題にはなりそうな気もするんですが。やはり年末進行中は難しいのだろうなぁとも思います。
直木賞・山周賞のW受賞の作品は?
2004年の熊谷達也『邂逅の森』のみです。
山周賞は、直木賞受賞作家を候補に入れないので、W受賞させるのはなかなかに難しいものがあります。
山周賞受賞決定が5月(前年4月から当年3月)のため、山周賞受賞後の直木賞(上半期)を受賞する必要があります。つまり、直木賞の上半期は12~5月に刊行された作品から選ばれるため、12~3月に刊行され、かつ両賞の候補にならなければならないというわけで、そもそも該当する作品がかなり少ないのです。
逆にいえば、直木賞から拾い上げて、山周賞を上げることは簡単なのですが、ここしばらくは直木賞も「これをなんで落としたの?」があんまりないので。
まとめ
ということで、山本周五郎賞・三島由紀夫賞を、直木賞・芥川賞と比較してみました。
どちらが上かと言われるとなかなか難しいのですが、知名度、話題性ともに「直木賞・芥川賞」に軍配が上がるかと思います。