まとめてみました! 2019年のミステリー系新人賞受賞作

2020年1月11日

多くの作家さんは何らかの新人賞を受賞してデビューしています。有名になる前の新人作家さんたちをご紹介します。まずはミステリー小説編。賞の年度ではなく、2019年に刊行されたデビュー作をまとめました。賞ごとのまとめはよくあるのですが、同年のミステリー新人賞のまとめはみないので。
新人賞をチェックするのは好きです。デビュー作でファンになった作家さんが売れると、「よっし!」と嬉しくなります。今年もライトからハード、ガチミスからミステリ風まで、いろんな作品が集まっています。数百冊の中から選ばれるには、尖ったなにかがなくてはだめなのでしょう。「なにこれ新しい!」という武器をもった作品も多いです。

第65回 江戸川乱歩賞『ノワールをまとう女』

著者:神護かずみさん/「NOIRを纏う彼女」を改題 発売:2019/9/19
1960年、愛知県生まれ。國學院大學卒業。化学品メーカーに三十五年間勤務。
1996年、『裏平安霊異記』(神護一美名義)でデビュー
2011年、『人魚呪』で遠野物語100周年文学賞を受賞

日本有数の医薬品メーカー美国堂は、傘下に入れた韓国企業の社長による過去の反日発言の映像がネットに流れ、「美国堂を糺す会」が発足して糾弾される事態に。
かつて美国堂がトラブルに巻き込まれた際に事態を収束させた西澤奈美は、コーポレートコミュニケーション部次長の市川から相談を持ちかけられる。新社長の意向を受け、総会屋から転身して企業の危機管理、トラブル処理を請け負っている奈美のボスの原田哲を排除しようとしていたものの、デモの鎮静化のためにやむを得ず原田に仕事を依頼する。
早速、林田佳子という偽名で糺す会に潜り込んだ奈美は「エルチェ」というハンドルネームのリーダーに近づくと、ナミという名前の同志を紹介される。彼女は児童養護施設でともに育ち、二年前に再会して恋人となった姫野雪江だった。

百合×ハードボイルド

作品はよくもわるくも「乱歩賞」という感じです。女性主人公のハードボイルドなので、うっすら桐野夏生さんの「顔に降りかかる雨」が思い浮かびました。それと遜色のない、現代ハードボイルド小説です。個人的には、乱歩賞の期待を裏切らない面白さだが、期待を超えるほどインパクトはないという印象です。とてもおもしろいんですが、一気読み必死!という感じではありません。
すでに作家として作品がある作者で、文章も構成もお見事。新人賞作品とは思えない安定感があります。

最近「百合」小説がちょっと脚光を浴びている気がします。主人公(女性)がトラブル解決のために向かった先で出会ったのは元恋人の雪恵という話。ストーリーの中心に存在する二人です。

第29回鮎川哲也賞『時空旅行者の砂時計』

著者:方丈貴恵さん 発売:2019/10/11
1984年兵庫県生まれ。京都大学卒。在学時は京都大学推理小説研究会に所属。

瀕死の妻のために謎の声に従い、2018年から1960年にタイムトラベルした主人公・加茂。妻の祖先・竜泉家の人々が殺害され、後に起こった土砂崩れで一族のほとんどが亡くなった「死野の惨劇」の真相を解明することが、彼女の命を救うことに繋がるという。タイムリミットは、土砂崩れがすべてを呑み込むまでの四日間。閉ざされた館の中で起こる不可能犯罪の真犯人を暴き、加茂は2018年に戻ることができるのか!?

タイムトラベル×本格推理

タイムトラベルを用いた本格推理もの。タイムスリップした先で、クローズドサークルで起こる見立て殺人の探偵役をつとめます。途中までは「THE 本格推理」といった感じ。ですが、後半は一転。事件の謎にはタイムスリップの設定が大きく関わってくるのです。無理なく本格推理とSFが融合しています。卑怯な飛び道具となっていないSF部分の設定もお見事です。個性的な本格ミステリ。おすすめです。

ただ、本格好きの書いた、本格好きのための、新しい本格小説。妻を救うためにタイムスリップするというストーリーは一般受けしそうなんですが、本格の謎をこねてさらにこねこねする感じなので、やっぱり本格好きのためだけの小説かなと思います。読者への挑戦状が嬉しい!

第22回日本ミステリー文学大賞新人賞『インソムニア』

著者:辻 寛之さん 発売:2019/2/19
1974年富山県生まれ。埼玉県在住。

PKO部隊の陸上自衛官七名。一人は現地で死亡、一人は帰国後自殺。現地で起きたことについて、残された五名の証言はすべて食い違っていた──。

自衛隊×本格ミステリー

インソムニアとは不眠症のことです。
南スーダンを彷彿とさせる、架空の国「南ナイルランド」でのPKO派遣にまつわるミステリー。架空の国で起こった事件になっていますが、現実社会で起こった問題と思い起こさせます。

自衛隊の「駆けつけ警護」による活動がクローズアップされています。駆けつけ警護で戦うことになるのですが、メインはその後。帰国してからの彼らと「謎」を追う作品です。ものすごく考えさせられる社会派ミステリーです。リーダビリティもあってぐいぐい読ませますし、自衛隊についてもしっかり書かれています(ただ私は自衛隊について詳しくないです!)。自衛隊を描いた社会派ミステリーかと思っていたら、後半は本格小説になってきます。こちらもかなり魅力的です。

「日ミス」らしい安定したミステリーです。

第5回新潮ミステリー大賞『名もなき星の哀歌』

著者:結城 真一郎さん 発売:2019/1/22
1991年6月、神奈川県生まれ。東京大学法学部卒業。

裏稼業として人の記憶を取引する「店」で働く銀行員の良平と漫画家志望の健太。神出鬼没のシンガーソングライター・星名の素性を追うことになった悪友二人組は、彼女の過去を暴く過程で医者一家焼死事件との関わりと、星名のために命を絶ったある男の存在を知る。調査を進めるごとに浮かび上がる幾多の謎。代表曲「スターダスト・ナイト」の歌詞に秘められた願い、「店」で記憶移植が禁じられた理由、そして脅迫者の影…。謎が謎を呼び、それぞれの想いと記憶が交錯し絡み合うなか辿り着いた、美しくも残酷な真実とは?

ファンタジー×ミステリー

「記憶の売買をができる店」を中心に物語が展開していきます。「記憶の売買」にまつわるストーリーは読ませますし、謎が明かされていく過程もいいです。ただ、ミステリーとして考えると、ご都合主義的な部分も多いと感じてしまいます。ファンタジー要素の万能感がちょっと(なんでもありすぎる)。ミステリーとして読まなければまだしもですが、内容はファンタジーよりもミステリを前面に出しているのでちょっとアンバランスな気もします。
ガチミステリーを求めていなければ、とてもおもしろい作品だと思います。

第17回『このミステリーがすごい!』大賞『怪物の木こり』

著者:倉井眉介さん 発売:2019/1/12
1984年、神奈川県横浜市戸塚区生まれ。帝京大学文学部心理学科卒業。

良心の呵責を覚えることなく、自分にとって邪魔な者たちを日常的に何人も殺してきたサイコパスの辣腕弁護士・二宮彰。ある日、彼が仕事を終えてマンションへ帰ってくると、突如「怪物マスク」を被った男に襲撃され、斧で頭を割られかけた。九死に一生を得た二宮は、男を探し出して復讐することを誓う。一方そのころ、頭部を開いて脳味噌を持ち去る連続猟奇殺人が世間を賑わしていた。すべての発端は、二十六年前に起きた「静岡児童連続誘拐殺人事件」に――。

サイコ×ミステリー

作者は同時期の第64回江戸川乱歩賞(受賞作『到達不能極』)でも最終候補に残っていました。そのため、このミス大賞での受賞の言葉が面白すぎます。

作品は一言でいってしまうと「乱歩賞」じゃなくて、「このミス」(むしろ隠し球)だよね!という感じ。展開がスピーディーで、「やっちまった感」のあるサイコサスペンス。読者を選びます。本当に選ぶ。なぜこれが大賞なんだ!という本読みさんも多いですが、私はどちらかといえば納得しています。というのも、勢いがあって一気読みできるから。そして、これを出せるから「このミス」だよねと思うのです。

つまり、乱歩賞の受賞作をはじめ、「文章が端正な安定感のあるミステリー」を好きな方は、間違っても読んではいけません。文章も平淡で、視点もめまぐるしく、使っているSFガジェットにはあきれます(「そんなのありなの? しかもこれミステリ!」みたいな)。登場人物もマンガやテレビ的です。

ただ、この作品は「全てのバランスが正しい」と思うのです。軽さも、文体も、登場人物も、SF部分も、ストーリー展開も、「ライトなサイコサスペンス」と考えればうまく纏まっています。そして、一気読みできます。さくっと読みたい読者さんへおすすめです。

第17回『このミステリーがすごい!』大賞からの刊行

優秀賞『盤上に死を描く』 井上ねこさん

71歳の老婆が自宅で殺された。片手に握っていたのは将棋の「歩」、ポケットに入っていたのは「銀」の駒。その後、名古屋市の老人が次々と殺害されるが、なぜか全ての現場には将棋の駒が残されていた。被害者の共通点も見いだせず行き詰まるなか、捜査一課の女性刑事・水科と佐田はある可能性に気がついて――。事件が描く驚愕の構図とは?被害者たちの意外な繋がりとは?

詰将棋×見立て殺人

「このミス」最年長65歳での受賞!と帯に。年齢は正直どうでもいいんです、宝島さん。
本格推理小説。最初は「このミス」というより、「鮎川賞」っぽいのかなと思いながら読み始めました。が、ううん、個人的には「鮎川賞」っぽくなかったという結論。将棋が全編に関わってくるのですが、私はまったく指さないのでうまく乗れなかったです。将棋をモチーフとした見立て殺人なんですが、「本格」としてのおもしろさは今ひとつといった感じです。

隠し球『クサリヘビ殺人事件 蛇のしっぽがつかめない』越尾圭さん

動物診療所を営む獣医・遠野太一の幼馴染で、ペットショップを経営する小塚恭平が、自宅マンションでラッセルクサリヘビに噛まれて死んだ。
ワシントン条約で取引が規制されている毒蛇が、なぜこんなところに?死に際に恭平から電話を受けて現場に駆けつけた太一は、恭平の妹で今は東京税関で働いている利香とともに、その謎を解き明かそうとするが、周囲に不穏な出来事が忍び寄り……。

ワシントン条約×サスペンス

サスペンス小説で、謎解き部分はほとんどないです。
出だしのつかみは、受賞作と隠し球、私が読んだ4冊の中で一番。ちなみに文章力やガジェット(本作ではワシントン条約や動物)の使い方も一番レベルが高かったんじゃないかと。かなり期待をして読み始めました。最後まで裏切られることがありません。おもしろかったです。人間関係や記者の存在がご都合的な気もしますが、端正な作風なので荒が目立っただけかなと思います。ただ、端正な分、出だしの勢いが薄れて中盤は失速した印象。

問題はラスト。私はおもしろく読めましたが、これをどうとらえるかではないかと。ああ、確かに「このミス」だとそこで納得してしまいました。ちなみに、ラスト以外はむしろ「お仕事小説」×「乱歩賞」的な雰囲気です。

隠し球『偽りの私達』日部星花さん

高校二年生の土井修治が綴った手記。そこに描かれるのは、七月十七日から七月八日に時間が巻き戻っているという信じがたい現象だった。果たしてこの現象は、都市伝説として囁かれる“まほうつかい”が引き起こしたものなのだろうか。ループの原因は、学校一の美少女・渡辺百香が校舎の階段から転落死したことにあると考えた土井は、なぜ彼女が死ぬことになったのか調べ始めるが…

ループ×ミステリー

現役高校生デビュー!
ということで、あまり期待をせずに読み始めました(読む前から偏見が入っている)。流行りの「キャラクター小説」として読むならおもしろかったですが、ミステリー読みさんたちはたぶん受け入れにくのではないかと(人によっては気にならないと思うんですが)。なんでもありのファンタジー要素、キャラクターが弱い(というか記号?「天才」といわれてもそう思えなかったり)、文章が平たん(決して下手なわけではない)など、気になる部分がたくさんあります。

それを上回る美点は、構成力やトリック、それから高校生活の描写。ただ、構成力に関しては、高校生の冠を外すとこのレベルの作家はたくさんいらっしゃるので。ラストのどんでん返しや動機の面で「そうきたか!」という驚き(動機が凄すぎる)もあり、おもしろい作品ではあるんですけれど……。

正直、もっとライト文芸によせた表紙(キャラクタの表紙)のほうが、本作をおもしろく感じる読者に届くんじゃないかと思いました。表紙が地味過ぎて、タイトルも地味なので、目立たない。かといってガチのミステリ読みさんや、一般的なエンタメ好きの方には、ご都合主義やキャラクタが引っかかってしまう可能性があります。

おもしろいんだから、もっと売れる表紙にしてくれればいいのに! このミス(しかも隠し玉)なのに!!

隠し球『勘違い 渡良瀬探偵事務所・十五代目の活躍』猫森夏希さん

通夜のため実家に帰った八尋竜一は、久遠という少女に「おじさんの思い出を教えて」と請われた―。小学生のとき「サルスベリの木の下には死体が埋まっている」という噂をきっかけに、江戸時代から続く探偵事務所の十五代目・渡良瀬良平と行動を共にするようになった竜一。中学に入ると転校生の北川雪子も加わり、三人で様々な事件に挑んでいく。そして、話を聞き終えた久遠が語る真相とは?

隠し球『キラキラネームが多すぎる 元ホスト先生の事件日誌』黒川慈雨さん

元ナンバーワンホストの皇聖夜こと上杉三太は、コネで小学校教諭に転職し、一年生の担任になった。キラキラネームの子ども達に囲まれて学校生活をスタートした三太だったが、奇妙な事件が舞い込む。近隣で動植物が傷つけられる事件が多発。犯行がエスカレートしていくなか、容疑者として三太のクラスの児童・公人が挙がる。三太は探りを入れるが、そこには思わぬ真相と感動が待ち受ける!

サプライズ『名もなき復讐者 ZEGEN』登美丘 丈さん

八戸で水産加工場を営む佐藤幸造のもとに、突然「女衒」を自称する男が現れ、偽装結婚を持ちかけてきた。相手は、病気の夫の治療費をまかなうため、中国から出稼ぎにきている李雪蘭。彼女は歌舞伎町の風俗店で働いていた。幸造は迷いつつも、男の話を承諾するが…。一方、偽装結婚を取り持ち、女たちの世話をする裏で、女衒は妻を自殺に追い込んだ男たちへの復讐を続けていた―。

大賞U-NEXT・カンテレ賞サプライズ受賞作品「その男、女衒」をサプライズ刊行。

第11回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞『幻の彼女 』

著者:酒本歩さん 発売:2019/3/19
1961年、長野県生まれ。東京都在住。早稲田大学政経学部卒。経営コンサルタント。
2016年、かつしか文学賞優秀賞受賞。

ドッグシッターの風太に一通の喪中はがきが届く。以前交際していた美咲の訃報だった。まだ32歳なのにと驚く風太。ほかの別れた恋人、蘭、エミリのことも思い出し連絡を取ろうとするが、消息がつかめない。彼女たちの友人、住んでいた家、通っていた学校…三人はまるで存在しなかったかのように、一切の痕跡が消えてしまっていた。友人の雪枝、裕一郎とともに謎を追う風太。辿り着いた驚愕の真相とは…前代未聞、必涙のラスト!!

第39回 横溝正史ミステリ&ホラー大賞「大賞受賞作なし」

優秀賞、読者賞はホラー作品のような印象です。

第9回アガサ・クリスティー賞 『月の落とし子』

著者:穂波了さん 発売:2019/11/20
1980年5月31日生まれ。千葉県在住。2006年に第1回ポプラ小説大賞を受賞している(別名義 方波見大志さん「削除ボーイズ0326」で受賞)。

それは人間の進歩を証明する、栄光に満ちたミッションのはずだった―。新しい時代の有人月探査「オリオン計画」で、月面のシャクルトン・クレーターに降り立った宇宙飛行士が吐血して急死する。死因は正体不明のウィルスへの感染…!?生き残ったクルーは地球への帰還を懸命に試みるが、残酷な運命に翻弄されて日本列島へ墜落する―致死性のウィルスと共に…。空前絶後の墜落事故!そして未曾有のバイオハザード!極限状況の中で、人間は人間自身を救い希望を見出すことができるのか。

『削除ボーイズ0326』も読んだような気がします。受賞当時、とても話題になっていたはず。満を持して、別名義での再受賞です。
今作もSF作品で、まずは月に降り立った宇宙飛行士2人が急死、シャトルに残っていたクルーは2人を残していけないと月へ着陸、遺体を回収します。その結果、ウイルス感染していることが判明。どうして感染なんてと疑問に思いながら、地球へ帰還するのですが日本の市街地へ墜落してしまい、未知のウイルスが解き放たれるというストーリーです。畳みかけるように次から次へ問題が起こる本作は、確かにノンストップパニック小説!!

すごくおもしろいんですけれど、スケールが大きいわりにストーリーはわかりやすく、あっさり。たぶん、ところどころに「そんな浅はかな(またはご都合主義な)」と思うような軽さがあるせいかなと思います。リアリティのある説明や描写が多くイメージはしやすいんですけれど読みにくかった点もマイナスです。おもしろいんですけど! なんとなくバランスの悪い印象を受けました。

たぶん、最初のほうが数字が大量に出てきて目がすぺってしまい、そのせいで印象がよくないのかもしれません(電子書籍で読んだせいかも?)。たとえば、「アポロ11号」の11が縦に1、1と並ぶんです。大量に出てくる数字が算用数字で書かれているため、縦読みだとちょっと読みにくいなぁと思いました。

第9回アガサ・クリスティー賞 『それ以上でも、それ以下でもない』

著者:折輝真透さん 発売:2019/11/20
生年月日非公表。東京都在住。著書に『マーチング・ウィズ・ゾンビーズ』(2019年/第4回ジャンプホラー小説大賞金賞)

1944年、ナチス占領下のフランス。中南部の小さな村サン=トルワンで、ステファン神父は住民の告解を聞きながらも、集中できずにいた。昨夜、墓守の家で匿っていたレジスタンスの男が、何者かによって殺されたのだ。祖国解放のために闘うレジスタンスの殺害が露見すれば、住民は疑心暗鬼に陥るだろう。戦時下で困窮する村がさらに混乱することを恐れたステフィン神父は、男の遺体をナチスに襲撃された隣町に隠し、事件の隠蔽をはかる。だが後日、ナチス親衛隊のベルトラム中佐がサン=トルワンを訪れ……。

重っ! ということで、重いです。無力な神父がひたすら苦悩しています。ナチス占領下時代のフランスなので、重いのも当然ですね。ただ、文章がすっきり端正なので、読んでいるときは重ぐるしさを感じません。

「匿っていたレジスタンスのモーリスを、誰が殺したのか?」
という謎が最初のほうで明かされ、ラストまでそれを引っ張ります。よくあるミステリの構造ですし、ミステリとしてはシンプルな解答でしたただ、ナチス占領下で、親衛隊の中佐が訪れている町ですから、人間心理などのサスペンス的な要素も加わり読ませます。

内容に反してするする読めてしまうのは、登場人物が多いための書き込み不足かなと思います。良作ですが、ミステリとして読むとちょっと弱いかなと思いました。

2019年出版のミステリー系新人賞受賞作のおすすめ

2019年のオススメは、本格好きさんには『時空旅行者の砂時計』(鮎川賞)良質のミステリーをお求めなら『インソムニア』(日ミス)か『ノワールをまとう女』(乱歩賞)です。わたしはまだ読んでいないのですが(ごめんなさい完全に見落としていました)、『幻の彼女』(副ミス)もおどろきの仕掛けがあるとか。はやく読まなくては!と思っています。