女による女のためのR-18文学賞 オススメ作家ベスト5

2020年1月11日

新潮社主催している文学賞。応募者も女性、選考も女性という、女性限定の珍しい賞です。第10回までは「性」をテーマとした作品を募集していましたが、第11回よりそのしばりがなくなりました。
短編賞(原稿用紙30~50枚)のわりに、その後、活躍する作家さんが多くて有名な賞です。

とくに注目の作家さんのデビュー作やおすすめ本をご紹介します。

窪美澄さん(第8回大賞)

2009年 第8回R-18文学賞大賞 『ミクマリ』
2011年 第24回山本周五郎賞受賞 『ふがいない僕は空を見た』
2012年 第3回山田風太郎賞受賞 『晴天の迷いクジラ』
※2018年『じっと手を見る』、2019年『トリニティ』で直木賞候補。

『ふがいない僕は空を見た』(『ミクマリ』収録)

高校一年の斉藤くんは、年上の主婦と週に何度かセックスしている。やがて、彼女への気持ちが性欲だけではなくなってきたことに気づくのだが──。姑に不妊治療をせまられる女性。ぼけた祖母と二人で暮らす高校生。助産院を営みながら、女手一つで息子を育てる母親。それぞれが抱える生きることの痛みと喜びを鮮やかに写し取った連作長編。

R-18文学賞の受賞作を収録したデビュー作。短編連作の形式ですが、各話がしっかり絡み合っています。R-18の名にふさわしく、『ミクマリ』はアニメキャラのコスプレをして行為する高校生と主婦という驚く設定です。官能的な描写の多い『ミクマリ』からはじまりますので、最初はびっくりするかもしれません。『ミクマリ』は、「官能小説かと思って驚いた」というほど描写が多いのですが、高校生らしく軽やかな一人称なのでまったく重さを感じません。
本作は、軽快なのに、ときにグサリと胸をつく描写が混じり物語に引き込まれていきます。各話、不妊や貧困などテーマは重いですが、高校生の母親が開く助産院が全編通して存在感を示しています。窪さんの作品はどれもおすすめですが、この作品はまずおさえておきたいなということで、デビュー作にして、おすすめ本です。
永山絢斗さん主演で2012年に映画化。

『ふがいない僕は空を見た』

吉川トリコさん(第3回大賞・読者賞)

2004年 第3回R-18文学賞大賞・読者賞 『ねむりひめ』

『しゃぼん』(『ねむりひめ』収録)

あたしはいろんな男とセックスをする。友達の彼氏のナオキ、大きなバンに乗った三人組の男たち、ダンボールの屋根の下でホームレスの男とも……。でも一度しかダメ。あたしに何度も触れられるのは慎ちゃんだけだ。あたしは慎ちゃんが大好き。だから、この恋をセックスで汚したりなんかしない。快楽に溺れたりなんかしない――人を想う気持ちとセックスへのとまどいとが入り混じるせつない女心を描いた、第3回Rー18文学賞受賞作「ねむりひめ」のほか、3編を収録。

こちらがデビュー作。そして、オススメしたい作品は、次の『マリー・アントワネットの日記1 Rose』と『マリー・アントワネットの日記2 Blue』です。

『マリー・アントワネットの日記 Rose』

ハーイ、あたし、マリー・アントワネット。もうすぐ政略結婚する予定www 1770年1月1日、未来のフランス王妃は日記を綴り始めた。オーストリアを離れても嫁ぎ先へ連れてゆける唯一の友として。冷淡な夫、厳格な教育係、衆人環視の初夜……。サービス精神旺盛なアントワネットにもフランスはアウェイすぎた――。時代も国籍も身分も違う彼女に共感が止まらない、衝撃的な日記小説!

マリー・アントワネットの日記というより「blog」です。本音がだだ漏れの、普通の女の子な現代っ子(?)のマリーのblog。
おもしろすぎてびっくりしました。語り口はギャル風で、キャラクタは立ちすぎなほどに立っています。歴史を知っているからなおさら、キャラクタたちの本音にほろりし、「わかる~」と頷き、「それってどーよ」とつっこみ、読んでいて忙しい。おすすめです。

マリー・アントワネットの日記 Rose

宮木あや子さん(第5回大賞・読者賞)

2006年 第5回R-18文学賞大賞・読者賞 『花宵道中』

『花宵道中』(『花宵道中』収録)

どんな男に抱かれても、心が疼いたことはない。誰かに惚れる弱さなど、とっくに捨てた筈だった。あの日、あんたに逢うまでは――初めて愛した男の前で客に抱かれる朝霧、思い人を胸に初見世の夜を過ごす茜、弟へ禁忌の恋心を秘める霧里、美貌を持てあまし姉女郎に欲情する緑……儚く残酷な宿命の中で、自分の道に花咲かせ散っていった遊女たち。江戸末期の新吉原を舞台に綴られる、官能純愛絵巻。

短編集で、それぞれ主人公が違います。各話で登場人物が重なっていますが、物語としてはほぼ独立しています。ただ繋がっている登場人物を別の側面から読むことになるので、短編を読むごとに物語が深まっていきます。各話のストーリーもスピーディーで、物語が勢いよくドラマチックに描き出されていきます。

この作品、とにかく書き出しが秀逸。哀しく、美しく、そしてあやしく、ぱっと映像や色彩が飛び散るような文章です。一気に引き込まれます。

遊女の切なく、哀しい恋の物語6編。安達祐実さん主演で映画化。マンガ化もされているのですが、絵の感じが作品によくあっていてこちらもおすすめです。校閲ガールシリーズの作者でもあります。

町田そのこさん(第15回大賞)

2016年 第15回R-18文学賞大賞 『カメルーンの青い魚』

『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』(『カメルーンの青い魚』収録)

とれた差し歯が思い起こさせるのは、一生に一度の恋。もう共には生きられない、あの人のこと――。どんな場所でも必死に泳いでいこうとする5匹の魚たちを、とびきり鮮やかな仕掛けで描いたデビュー作。

R-18文学賞には珍しい、仕掛けのある作品を書くエンタメ作家さんです。軽やかで、愛嬌のある文体で、印象的な場面を描き出します。登場人物はみな苦しさを抱えているのですが、それを重く描き出すのではなく、さらりと描き出しています。キャラクターの描き方も秀逸で、どんな人物なのかが、説明ではなくエピソードから立ち上がってきます。冷たい水の中をいきぐるしくてもひらりと泳ぐ魚たち。たしかにそんな印象を持ちました。

ネタバレになるので詳しくは書きませんが、ラストでひょいと作品の印象が変わってしまうような仕掛けがあります。あとから読むと「なるほど」と思うキャラクターの描き方が素晴らしいです!

夜空に泳ぐチョコレートグラミー

彩瀬まるさん(第9回読者賞)

2010年 第9回R-18文学賞読者賞 『花に眩む』
2017年『くちなし』で直木賞候補。

『あのひとは蜘蛛を潰せない』

ドラッグストア店長の梨枝は、28歳になる今も実家暮し。ある日、バイトの大学生と恋に落ち、ついに家を出た。が、母の「みっともない女になるな」という“正しさ”が呪縛のように付き纏(まと)う。突然消えたパート男性、鎮痛剤依存の女性客、ネットに縋る義姉、そして梨枝もまた、かわいそうな自分を抱え、それでも日々を生きていく。ひとの弱さもずるさも優しさも、余さず掬う長編小説。

タイトルが目を惹きます。
作風は地味なのでじわじわ人気が出ているものの、目立つ作家さんではありません。2017年、直木賞にもノミネートされています。丁寧で、繊細な文体で、女性の息苦しさを描き出します。静かで、優しい小説です。本読みさんの評価は非常に高い作家さんだと思います。

あのひとは蜘蛛を潰せない

『くちなし』

受賞作の『花に眩む』は電子文庫のみです。人に植物が生え、それがエネルギーを吸って繁っていきます。それが老化を表すという幻想的な世界が描かれています。ただ、幻想的な作風は一般受けしないだろうという編集さんのアドバイスから、ずっと封印していたようです。作家としての知名度が上がってきた今、ようやく解禁! 『花に眩む」と同じように幻想的な世界の小説が、ここで紹介する『くちなし』です。直木賞候補にもなりました。人間に虫が寄生したり、人間が産卵したりする、不思議な小説です。表題作の「くちなし」からして異様。不倫相手に別れを告げられて、要求した慰謝料は「腕」。ぞっとするけれど、幻想的で美しい小説です。

まとめ

短編ながら、その後に活躍している作家さんがとても多い賞です。一番有名なのは窪美澄さんではないでしょうか。すでに2度、直木賞にノミネートされています。この他にも一木けいさんや、雛倉さりえ(16歳のときに応募した『ジェリー・フィッシュ』で最終選考に残り、その後デビュー)など、多くの注目すべき作家さんが出てきています。
総じて文章力が高く、短編とは思えない深みのある作品が多いです。賞の名前のせいで敬遠しているかたもぜひ!