これだけは読みたい! ミステリランキング3冠作家は4名だけ

2020年12月16日

毎年、国内ミステリと海外ミステリのランキングが発表されています。ミステリランキングといえば、この4つ。

宝島社「このミステリーがすごい!」(このミス)
文藝春秋「週刊文春 ミステリーベスト10」(文春ミス)
原書房「本格ミステリ・ベスト10」(本ミス)
早川書房「ミステリが読みたい」(早ミス)

国内ランキングで3冠を達成した作家は3人、作品は5冊だけです。
また、4冠を達成した作品はありません。ミステリファンなら、この5冊は絶対におさえておきたい!

今回のでよくわかりました。本ミスを取ると早ミスが取れず、早ミスが取れると本ミスが取れない……。4冠はなかなか厳しいですね。

本格好きにはおなじみの、辻真先さん。とうとう来た!

『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』(2020年刊)

<3冠>
「ミステリが読みたい!」
「週刊文春 ミステリーランキング10」
「このミステリーがすごい!」

昭和二四年、ミステリ作家を目指しているカツ丼こと風早勝利は、名古屋市内の新制高校三年生になった。旧制中学卒業後の、たった一年だけの男女共学の高校生活。そんな中、顧問の勧めで勝利たち推理小説研究会は、映画研究会と合同で一泊旅行を計画する。顧問と男女生徒五名で湯谷温泉へ、修学旅行代わりの小旅行だった―。そこで巻き込まれた密室殺人事件。さらに夏休み最終日の夜、キティ台風が襲来する中で起きた廃墟での首切り殺人事件!二つの不可解な事件に遭遇した勝利たちは果たして…。

Amazon/「BOOK」データベースより

本格ファンの間では人気の辻真先さん。御年88歳? ご年齢を聞いてびっくりしました。同時に、なぜ本格ミステリ・ベスト10だけが取れなかったのかと、そっちもちょっとびっくりしました。やっぱり本格の方なので、取ってほしかったなぁ。ちなみに、本ミスは4位です。

本ミスの1位は『透明人間は密室にひそむ』(阿津川辰海さん)。こちらはまだ読む機会がなく。かなり気になっています。まだ、お若い作家さんなんですね。カッパ・ツーのご出身なので、本格ごりごりの方とお見受けします。(話が逸れました……)

『たかが殺人じゃないか』は、昭和24年を描いた作品ですが、文春を取るのがわかるようなリアリティのある情景描写です。本格でありながら、社会派でもある。作風は違いますが、米澤さんの『王とサーカス』のほうの系統だなと思います。だからこその、本ミスではなく、早ミスなのかもしれませんが。米澤穂信さんも、このミス・文春・早ミスでの3冠なんです。

ちなみに、『容疑者Xの献身』と『屍人荘の殺人』がこのミス・文春・本ミスの系譜になります。どうも、本格ミステリで支持されると、早ミスを落とすというのが続いていますね。なかなか4冠が出てこないのはこの辺に理由があるのかもしれません。

今村昌弘さん デビュー作にしてミステリランキング3冠!

『屍人荘の殺人』(2017年刊)

<3冠>
「このミステリーがすごい!」
「週刊文春 ミステリーベスト10」
「本格ミステリ・ベスト10」

「ミステリが読みたい」は2位だったので、4冠まであと一歩でした。
一番すごいのは、これがデビュー作(第27回鮎川哲也賞の受賞作)だったことです。
そして、その勢いのまま第18回本格ミステリ大賞まで受賞しています。
ミステリ界が震撼する出来事でした。

『屍人荘の殺人』のなにがすごかったのか?
実は、半分くらいまでは「読むんじゃなかった」と後悔しました。それくらいつまらなかった(個人的な意見です。ごめんなさい)。読みやすくはあったのですが、キャラクタはライトノベルのテンプレ仕様で、超存在の○○○が出てきてからのパニック具合もごくごく普通。

が、後半は驚きが怒濤のように。すごすぎる!!!
おそらく、本格ミステリを読み慣れている人のほうが、驚きが大きいのではないでしょうか。○○○の使い方がいろんな意味で秀逸ですし、伏線の回収もお見事。分かりやすいのに凝ったトリック。そしてとてもフェアな推理小説です。

米澤穂信さん 驚きの2年連続3冠達成!

『満願』(2014年刊)

<3冠>
「このミステリーがすごい!」
「週刊文春 ミステリーベスト10」
「ミステリが読みたい」

「本格ミステリ・ベスト10」は2位。
切れ味鋭いブラックな6つの短編集。全作品のレベルが高くて、外れがありません。どれもラストで「おおっ」となります。本格推理というよりサスペンス的なので、驚くのが正しい読み方です。

本作は山本周五郎賞も受賞しており、もともと人気のある作家さんでしたが、さらに知名度を上げました。
この作品が気に入ったかたは、『儚い羊たちの祝宴』がオススメ。ただ、『満願』がすごすぎて、読者を選ぶ『儚い羊たちの祝宴』がダメというかたもいらっしゃるかも。

『王とサーカス』(2015年刊)

<3冠>
「このミステリーがすごい!」
「週刊文春 ミステリーベスト10」
「ミステリが読みたい」

「本格ミステリ・ベスト10」は3位。
本作は『さよなら妖精』(2004年)の登場人物である太刀洗万智が主人公となります。『さよなら妖精』のときは高校生でしたが、本作では元新聞記者のジャーナリストになっています。『さよなら妖精』を読んでいなくても問題なく読めます。

「ネパール王族殺害事件」(実在の事件)で揺れるネパールに、万智はたまたま居合わせてしまいます。
取材した王宮警護の軍人が殺害され、その謎を追いながら、ジャーナリストとしてのしての使命と倫理の狭間で揺れる姿が描かれます。
この作品、じつは「すごくいい!」という人も多いのですが、「いまいち」という声も意外に多かった気がします。作品のテーマも描き方もすごくいいのですが、ミステリ部分は弱く、ストーリーの展開が鈍い。ジャーナリズムの正義を問うという難しいテーマを、エンタメ作品にはめ込んだ手腕は流石の一言。ただ、いつもの切れ味鋭い米澤作品を期待していた読者は、少々肩すかしだったかもしれません。

このシリーズはテーマが深いです。『さよなら妖精』(第1作)、『真実の10メートル手前』(第3作)もぜひ。個人的には『さよなら妖精』がもっとも引き込まれたかも。3作のどれから読んでも大丈夫なのですが、『さよなら妖精』からいくのが一番かなと思います。

東野圭吾さん 初の3冠達成!

『容疑者Xの献身』(2005年刊)

<3冠>
「このミステリーがすごい!」
「週刊文春 ミステリーベスト10」
「本格ミステリ・ベスト10」

当時、「ミステリが読みたい」はなかったのです。刊行は2007年。つまり当時の主要ミステリランキング全てで1位を取っての3冠です。もしかしたら、4冠があり得たかもしれない驚異の作品
本格か否かの論争を巻き起こしたミステリファンなら絶対に読むべき一作。

ガリレオシリーズの第3作。最初から犯人がわかっている倒叙ミステリ。ですが、ラストまで読んだときの驚きは忘れられません。読みながら、「おかしいなぁ」と思っていた部分が、一気に繋がっていくのにしびれました。伏線がわりとあからさまなんですが、それでも謎を解けません。
緻密に計算された東野圭吾さんらしいミステリだと思います。

容疑者Xの献身