角川文庫キャラクター小説大賞の考察2『後宮の検屍女官』
発売前、『後宮の検屍妃』が受賞しそうだと思った理由をまとめました。
『後宮の検屍女官』に変更して発売され、即重版がかかっているようです。が、Amazonレビューなどで、『薬屋のひとりごと』をはじめとする、中華風後宮が舞台の先行作品との類似を指摘する方がけっこういらっしゃるなぁと。
いや、わからなくはない。私も主人公が、猫猫(マオマオ)と被るなと思いましたし。さらにヒーローが宦官ですからね。ただ、正直なところ、そんなに似ている印象はないです。ライト文芸の範囲で中華ファンタジーを書けば、このくらいは仕方がないよねと思います。
※7/18追記
私は『宋の検屍官』を拝読していないですし、『宋の検屍官』の川田弥一郎さんが公式見解を出してらっしゃらないのでなんともいえないんですけど。一部でトリックが「似ている」との指摘があるようですね。同じ参考文系を使用しての作品なので、どちらも読んでみないとなんともいえないんですが……。個人的に、小野はるかさんの対応に「……」という感じです。
一次選考が発表時に作品を見ていて、これは売れるだろうなと思ったのがこの『後宮の検屍女官』だったんですが。
ということで、今回は既存作品と設定などが似ているケースについて、考察してみたいと思います。
柳の下にドジョウは数匹
製造・販売に関わっている人は知っています。「柳の下にドジョウは何匹だっている」のだと。出版だって同じです。あやかしでヒット作品が出れば、読者は似たような作品を求めます。Web小説にも、流行りの設定ってありますよね?
そのため、創作をしている人、していた人は、似ている作品に対して目が厳しい。が、読者目線でいえば、「気に入った物語があれば、似たような小説を探す」んですよ。
ある後宮ミステリにはまれば、同じ後宮ミステリで、さらに好みのキャラクターが出ている作品を選びます。いってみれば、「作品Aに似すぎて無理」と感じる人もいるでしょうが、創作をしない読者からすると「作品Aに似ていて面白い!」となるわけです。
創作をされる方は、自分も一読者と考えないほうがいいです。読み専の人にも類似作品に厳しい方はいらっしゃいますが、後者のような「類似作品、嬉しい!」という読者も多いんですよ。その点は意識されたほうがいい。
どのくらい差を出せばいい?
私は中華風の後宮作品をそんなには読んでいなくて、ちゃんと読んでいるのは「薬屋のひとりごと」「後宮の烏」くらいなんですよね。そのため、本作品が他中華作品にどれくらい寄せているかはわかりません。
が、おそらく類似を指摘する多くの人が「薬屋のひとりごと」を上げているように思います。
まず、主人公のキャラクターは確かに似ています。仕事はどちらも侍女ですし、性格もかなり。ただ、持っているスキルが違います。猫猫(薬屋)は薬学、本作の桃花は検屍。薬学と検屍がどちらも医学カテゴリーであることを指摘する声もありますが、やはり「検屍」を持ってきたのは大きかったと考えます。
また、ヒーローがともに宦官。(以下、ネタバレのため白文字)
ただし、薬屋の壬氏は宦官のふりをしていただけです。ところが検屍女官の延明は本物の宦官です。正直この違いは大きいと思います。
どちらも後宮ミステリであるため、後宮で事件→スキルを使って事件解決の流れはもう致し方ないかと。
個人的には、延明のキャラクター造形が壬氏と異なるため、桃花と猫猫に類似があっても、作品として区別できているのではと考えます。二人の関係性や、周囲との関係性が、かなり雰囲気違います。
冤罪で宦官になり、名誉は回復してもまだ宦官で居続ける。そのあたりの、延明の状況描写、心理描写がわりと多いんですよね。作品が延明の視点で書かれているのもよかったと思います。
賞によっては、「似ている」として落とされる可能性も否定はしませんが……。正直、当初のタイトルは「検屍妃」だったので、桃花を妃にしておけば、ここまでいわれることもなかったのでは?と思いますけど。
……妃が検屍をしていたら、それはそれで批判浴びていたかもしれないとも思いますが。
キャラ文芸に関していえば
ある程度の売れ線に寄せてくるのは当然だと思っています。
新しいものを選んでほしいというのであれば、角川キャラクター小説大賞よりも、まだノベル大賞のほうがチャンスはあるかもしれません。ノベル大賞のほうは、売れ筋を外した結果、迷走しているようにしか思えないんですけれどね……。
ウェブに上がった角川キャラクター小説大賞の1次通過作品、ノベル大賞の3次通過作品を読んだところ、売れ線をはずした上でおもしろい作品というのは……残念ながらめったにお目にかかれない(というか、どうしてこれを受賞させなかった!!!という作品にはまだ出会えていない)。
そうなると、売れ線を外した上でそこそこおもしろい作品よりも、売れ線のおもしろい作品を取るのもわかるんですよね。
売れ線を外した、もったいない作品について
売れ線を外した作品について、ちょっと個人的に思ったことを書いておきます。
売れ線を外した作品には、だいたいどれかの欠点があります。
①読者に受けない設定である。
②読者に受けそうな設定だけど、設定の面白みが消えている。
③読者視点を考える前に、そもそもストーリーに問題がある。
①読者に受けない設定である。
まず、「誰得?」という設定がけっこう多い。たぶん、創作者さんのモエなり、好きな(尖っていると思う)ものなんでしょうが、「読者の視点」がない。過去に私も書いていた時期があって、それをやめて読者一本になって気づきました。創作者の視点と、(中程度~軽度の)読者の視点はやはり違います。
作者が書きたいものをお書きになって結構です。ただし、キャラ文芸で賞を与えて売り出すことを考えれば、ある程度の読者が見込めるものを選ぶのは当然です。
そして、この読者目線が理解できない作者の作品は、ストーリーが独りよがりのものも多いです。いや、ほんと多いからね。
※今度、独りよがりの実例、これ言い出したらダメだと思うなを書こうかな……。
②読者に受けそうな設定だけど、設定の面白みが消えている。
流行りではないが、そこそこ読者を見込めそうな設定の作品。で、当たれば跳ねそうな気配もあると。
・設定が難し過ぎる。
売れ線が流行っているのは、それがわかりやすいからです。分かりにくい設定にしてしまうと、読者はついてきません。
・舞台装置が使えないので、冒頭が重要。
売れ筋は、舞台装置が「読者に物語りの筋」を読ませます。後宮+ミステリとくれば、ある程度、どんな筋になるか読者は読めるでしょう。出だし30ページのリーダビリティが薄くても、読者のわくわくは消えないんですよ。が、売れ筋でないと、冒頭で読者を掴むことが重要です。
・キャラクターの関係性
売れ筋に寄せると、キャラクタの関係性もそれに寄ります。つまり、読者が好むキャラクタ相関がだいたいできあがっているわけです。が、売れ筋を外したら、それに合う+読者の好む相関関係を作らなければなりません。
③そもそもストーリーに問題がある。
売れ筋を外そうと、ストーリーまで独特にした結果、失敗というケース。意外と多いです。売れ筋にはテンプレがあるので、それに乗せるとストーリーもある程度組み立てられてしまいます。一からというのはなかなか難しいのかもしれません。
ただ、一番失敗ケースが多いのは、おそらくミステリ。最近は、キャラ文芸+ミステリ性が求められるため、ミステリを頑張っておられる作者が多い。
……そのミステリ部分がちょっと酷すぎます。
角川キャラクター小説大賞ではないんですが、Webのキャラ文芸の賞を取ったある作品を読んだんです。ミステリー部分が酷すぎて「え?」となったんですが(ついでにキャラクターが「いつの時代の人?」というくらい古くさくてさらにびっくり)。受賞作でも、ミステリ部分はこんなものかと呆然としました。
ミステリをちゃんと書けている作者って、本当にいないんだなとしみじみ思ったんです。
逆にいうと、ミステリ部分がうまく書かれている作品は、多少の瑕疵があっても上に行くと思います(場合によってはカテエラということもあるでしょうが……)。
第6回のキャラクター小説大賞受賞作
イラストは綺麗なんですが、表紙の女の子と桃花のイメージのズレが……皆さんはいかがでしょうか?
まとめ
新たな売れ筋なるような作品を、出版社は確かに求めています。でも、それだけの力強い作品というのが、なかなか見つからないというのが本音ではないかと……。
そうなると、売れ筋に寄せた作品(ただし+αがある)を取りたくなるのは理解できます。
オリジナリティを必死でひねり出している作者さんが、売れ筋迎合作品を嫌うのは当然だと思います。が、読者のほうが迎合しているんですよね。