角川文庫キャラクター小説大賞の考察 2020

2020年10月23日Web小説・書籍化,小説投稿と通過,新人賞受賞作

角川文庫キャラクター小説大賞はカクヨムから応募できます。そのため、Web応募された作品は、選考期間中に読むことができます。

今回(2020年)、一次通過作品がアップされたところで、カクヨムに投稿されている応募作品を読みました。チェックミスしている可能性もありますし、全てをラストまで読み切ってはいないのですが、個人的イチオシだったのが、『後宮の検屍妃』

受賞作が『後宮の検屍妃』だったので、どうして本作品をイチオシにしたのか、その理由を記せば、投稿者さんの参考になるかもしれません。個人的な意見で恐縮ですが、ちょっとでもお役に立てればいいなと思います。

※他の投稿作品もかなりレベルが高くて、おもしろかったです!

なお、翌年の2021年は一次が出る前から予想をやってました。わりと当ててると思うんですが、いかがでしょうか?

選考中の管理人の呟き

Twitterでも呟いておりましたので、一応後出しじゃんけん的なものではありません。

なお、角川キャラクター小説大賞もそろそろ最終がでるころかと思うわけで。一次でカクヨムに出ていた作品をちらちら読んでいたんですが、「後宮の検屍妃」がおもしろかった。

桂@BookclubKatura-2020年8月20日

また後宮ものかと思ったわけですが、ホラー&検屍という目新しさ。なによりいいのは、宦官が主人公各でかなりしっかりかかれているところ。恋愛ものに落ちないところも個人的にはよいと思うんだけど、キャラノベ好きな人にとっては逆にマイナスポイントなんかもと思ったり。

桂@BookclubKatura-2020年8月20日

お。角川文庫キャラクター小説大賞が発表。大賞は『後宮の検屍妃』でしたね。

桂@BookclubKatura-2020年10月16日

2020年のキャラノベ周囲のトレンド

ここ数年変わっていないのですが、売れ筋の路線がこのあたり。

・中華風ファンタジー(後宮ものを含む)
『後宮の烏』がかなり売れています。表紙もさることながら、「後宮+あやかし+ミステリ+ホラー」と売れ筋のエッセンスがちりばめられていることに注目。

・ライトミステリ
連作短編のミステリ小説や、かっとんだキャラクターのミステリがやはり多い。日常ものは根強い人気があります。

・料理がでてくるもの
食にまつわるキャラノベも多いです。「食+ライトミステリ」はかなり売れ線だと思っています。

売れるキャラノベとは?

読者はおそらく女性が圧倒的に多いと聞きます。ターゲット層を20代、30代の女性に設定すると、次の要素が必要だと思うわけです。

・イケメン(影のある男性だとなお可)
・女性に好まれるヒロイン(いい子すぎず、でも好感のもてるキャラクタ)
・中華風、食、恋愛、お仕事などなどのキーワード

なお、キャラノベのため次のような要素があればなお良いのではないかと。

・ストーリーは複雑過ぎず、終盤に「おっ」と驚くなにかがあるとよい。
・キャラクターが立っていること。
・流行りのジャンルに大量の本が出るので、+αが必要。

『後宮の検屍妃』がうまいなあと思った理由

文章とキャラクター

少女系ラノベで受賞経験のある作家さんのため、文章は読みやすく、上手いです。また、心情描写が丁寧に描かれているため、ヒーロー(宦官)のキャラクタがものすごく立っています。ヒロインはわりと類型的なキャラクターなのですが、特技が「検屍」ですから。のんびりキャラ+検屍という、この対比のせいかとても印象的です。

つかみがすごい

「死体が、赤子を生んでいる……!」

カクヨムより-https://kakuyomu.jp/works/1177354054889284044/episodes/1177354054889284170

亡くなったのは天子の妃。棺を暴けば、生まれることのなかった赤子が産まれていたという書き出しです。

「なぜだ! 棺に納めたときはたしかに妃ひとりだけであったのに!」
「そうだ、赤子は妃の腹の中、まだ七月で、産まれてくることなく身罷られた……まちがいなどない!」
 暴かれた棺のなか、無残な姿をさらして眠るのは、高貴なる女性の遺体。この大光帝国を治める天子が囲う、後宮のひとりであった女性だ。
 腐敗の進んだ妃の遺体、その股間には、納棺のさいには存在しなかった赤子が生まれ落ちていた。

カクヨムより-https://kakuyomu.jp/works/1177354054889284044/episodes/1177354054889284170

売れ筋の要素

・流行りの後宮もの
・ちょっとホラー的な要素もある
・恋愛ものに落ちそうな女官と宦官(が、恋愛ものに落ちない)。
・短編連作。最初の謎がラストまで引っ張られて、ストーリーが厚い。

売れ筋なのに新しい要素が

・流行りの後宮ものに、「検屍」をプラスしている。
・後宮ものなのに、宦官になるための具体的処置や、検屍の描写がかなり丁寧に書かれている。これが不穏な空気を出していてよい。
・ヒーローが宦官。恋愛ものに落とすには難しい役職。なのに濡れ衣を着せられて宦官になり、いまだ王の信頼があるという。これまでなら、参謀役で出てきそうなキャラクターがヒーローに配置されている。選考ではどう評価されるのだろうと思ったものの、個人的には「うまい」と思った点。

ということで、キャラノベに必要な要素を満たしまくっていると思ったんですよね。
○文章が読みやすい
○キャラクターが立っている
○つかみが大事!
流行りの路線(後宮もの)
「検屍」という新しさ
ヒーローが宦官という新しさ

賞レースの上では、ヒーローが宦官というのがマイナスに評価される可能性もあるかなと思いました(が、受賞しているところを見ると、プラスに働いたのではないかと)。

まとめ

これができれば通過するとは言いませんが、「文章が書けていて」「キャラクターもいけている」という投稿者さんは、「新しい要素」を入れるとよいように思います。それも、インパクトのある「新しい要素」。

流行りもの+目新しさは大事だと思います。

ただ、個人的には「流行り」を超越して、売れ筋になるような作品が世に出ることも期待しています!

※本作が出版され、「先行作品と似ている?」との指摘をAmazon等で拝見したので。個人的に、そこらへんに関することを考察してみました。創作している人と、ごくごく一般的な読者の視点の違いなどについて。