第8回(2021)新潮ミステリー大賞『午前0時の身代金』考察

2022年4月27日小説投稿と通過,新人賞受賞作

選考委員満場一致ってマジですか?

満場一致と聞くと、期待値が上がってしまって、「期待しすぎたな」となることはあります。ただ、この場合は「面白いけど、もっとすごいかと思っていた」という感じです。面白いが前提にあります。が、新人賞受賞作にしても本作はちょっと……って感じです(^_^;)

おそらく、ミステリーを読み慣れている読者であるほど、「え?」と凍りつく感じです。

作品のあらすじは?

クラファンで身代金10億円!? 前代未聞の誘拐劇に、新米弁護士が挑む! 選考委員激賞の新潮ミステリー大賞受賞作!
新米弁護士の小柳のもとに相談に訪れた女子学生が、その夜、突如失踪した。翌朝、クラウドファンディングで日本中から10億円の身代金を募るという前代未聞の誘拐事件が発覚する――! 斬新な設定、読者を翻弄する展開、抜群のリーダビリティ。デビュー作にしてエンタメ小説の面白さが詰まった、新機軸のノンストップ・ミステリー!

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誘拐物というのは、「いかに身代金を奪取するか」が面白いわけです。本作は、それをクラウドファンディングで集めようというのだから、「すごくおもしろそう」という思わせます。

とにかく、あらすじだけなら、2021年に発表された公募の中でもトップクラスの面白さだと思います!

このあたりが評価されたのでは?

身代金&クラウドファンディング

8割方これが要因だと思います。それこそ、このミスの『一兆円の身代金』みたいなインパクトがあってグッドです。

実際、私もあらすじを読んで買いだなと思いました。クラウドファンディングでお金を集めるのはいいけど、これをどうやって犯人が利益にするのかが気になります。株価操作や情報操作など、なんらかの仕掛けがあるんだろうとすごくわくわくしました。

弁護士が主人公(男)

表紙の絵が、あきらかに『元彼の遺言状』を気にしている感じで(テイストが同じすぎて、あからさますぎない?と笑ってしまった)。主人公が弁護士なのがプラスに働いたのだろうなと思いました。

主人公の上司が、手段を選ばない強い女性弁護士。元彼の主人公とちょっと被ります。ただ、午前0時の主人公は「男性」で、「頼りない」という真逆の設定になっています。そういう意味で、元彼に完全に被せていないのもグッドだったのでは?

また、強い女性弁護士と頼りない若手男性弁護士のタッグは、キャラクターのバランスからすればよかったんじゃないかと。

展開が早い

新潮ミステリー大賞にしては薄いかなと思いながら読みました。さくさく話が進んで、たいへんにスピーディーです。誘拐が起こるまでは、無駄な情報も多くわりとゆっくりだったのですが、誘拐が起こり、クラファンが立ち上がってからは早いです。

一気に話が進み、あっさり新たな事件が起こり、怖ろしく簡単に事件が解決する……?

個人的に気になったところ

展開が早いってよりも展開が意味不明……

なにがどうしてそうなったのか理解に苦しみます。いやもう、出てくる人たちが迂闊というか、考えなしというか……。次から次にめまぐるしく展開していくんですが、作者がラストに持っていこうと、人物やストーリーを力業で動かします。半分以降はもう、無理に繋げ、無理に押し進めって感じで。

犯行があまりに「ご都合主義」なのを嫌ったのか、黒幕がじつは動かしていた……みたいにもってくるんですが、その「じつは」がまたご都合主義というか、考えなしというか。

作者自身が整理できていないだけに思えました。

個人的に、ご都合主義はOKだと思っています。ただ、読者を納得させられるかどうか、そこが大事なだけで。それでいうと、本作は読者が「納得できない」タイプの、悪い方のご都合主義に感じました。というのも、解決編に無理があるからだと思うんですよね……。

その謎解きはアウトでしょ?

いやいやいや……。○○の頭大丈夫としか思えませんでした。そんな理由でクラファン誘拐を企てたのかと、今回、一番の驚きでした。いや、ほんと謎解き部分がひどすぎる。

正直、Whyの部分が「他に方法があるだろうよ!!!!」と目眩がしました。これ以外にない風な説明をしているんですが、絶対他にあるから。正直なところ、これフェイクの推理で、じつはってのがあるんだよね……と思ってたら、なかった(それとは別の追加ネタはあったけど)。

情報提供者がカモネギでやってくる

主人公のもとに、葱を背負ったカモ(情報提供者)がやってきます。どうしてやってくるのかは、一応説明がされているんですが……その説明が言い訳にしか聞こえない。本作の一番まずい点は、なぜに理由をつけようとはするのに、理由が言い訳じみて聞こえてしまう点だと思います。

最初に出てきた詐欺に引っかかった女性は?

前半途中までは思わせぶりに存在が出てきていたんだが、気がついたら退場していてびっくりした。

おわりに

出版前にもうちょっと整理できなかったんでしょうか。そもそも、ラストはご都合主義にご都合主義を重ねづけしている感じでした。

個人的には「どうやって身代金を奪うつもりだったのか」がわからなかったのが一番の消化不良かなとは思いますが。