第34回(2021)小説すばる新人賞『コーリング・ユー』考察

2022年4月15日小説投稿と通過,新人賞受賞作

すでに実績ある作家が書いたのではと思えるような作品です。正直、新人賞受賞作とは思えない出来でした。

ここまで「出来の良い」エンタメ新人賞作品は久しぶりに読んだかもしれません。いやほんとうに上手いと思いました。エンタメ度も高ければ、『小説すばる』らしくもあり、スケールも大きいです。

作品のあらすじは?

海洋研究所に勤めるイーサンと飼育員のノアのもとに、国際バイオ企業からある依頼が舞い込んだ。世界環境を救うかもしれない微生物を収めた貴重なキャニスターを、シャチを訓練して海底から回収して欲しいという。

間もなく訓練用の仔シャチが到着。イーサンはセブンと名付けられたそのシャチが愛情深く、他動物と言語によるコミュニケーションが出来ることに気づく。しかしここに来る前にいた海の世界では、セブンはカイという名で、好奇心が災いし、従姉のエルと共に人間に捕獲されたのだった。

ある日、外洋での訓練中、離れ離れになったエルが苦境にあることをクジラから聞いたセブンは、心配のあまり不調に陥る。その様子を見たイーサンは、苦心の末、セブンの不調の原因を突き止め、ミッション終了後にシャチたちを故郷の海に帰すことを決意する。果たしてセブンは無事ミッションを遂行することが出来るのか――。

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このあたりが評価されたのでは?

そもそも完成度が高すぎる

これがデビュー作とは思えない完成度です。とにかく上手い。いやマジで上手いと思う。

文章も上手いですし、登場人物も魅力的で、ストーリー展開がスピーディー。とにかく続きが気になって手がとまりません。別段、なんらかの謎があるわけでもないのに飽きません。

ストーリーがいい

展開がスピーディーです。「シャチの捕獲」からはじまり、「ミッションの提示」、「シャチとの交流」、そして「ミッションに挑む」という感じなので展開は分かりやすいくらいに予想通りです。が、それぞれのエピソードの中にも困難だったり、感動だったりがあって、エピソード自体がたいへんに魅力的になっています。

また、メインストーリーに絡んでくるもう一つのストーリーが秀逸です。メインストーリーは「ミッションを達成できるのか?」で、もう一つが「「苦境にあるエル(離ればなれになったいとこのシャチ)はどうなるのか?」というものです。互いの物語がうまく相互補完しながら、面白さをアップさせています。

最近の新人賞作品にはめずらしく直球のいい話

最近はどうにも内向きな作品だったり、ジェンダーを絡めたり、暗かったりと、読んだあとに晴れ晴れとする作品が少ない印象です。小説すばる新人賞は、比較的明るい話が好まれるといいますが、ここ最近の受賞作を見ている感じここまでわかりやすくいい話なのはなかった気が。

本作はめずらしくド直球の感動話。非常に素直に「シャチと人との交流」「シャチとシャチの絆」「海洋動物たちの絆」が描かれています。そしてそれらが陳腐に感じない!! むしろ分かりやすく直球なところがいいです(おそらく書き方が上手いのだと思います)。とても清々しく感じる作品でした。

泣くような話ではないけれど、「よかった」と思える感動作です。

わかりやすい明るさ・いい話は、最近の新人賞では逆に目立つのでは?と思いました。

海洋冒険小説ってだけで目立つ

そもそも、海洋冒険小説なんてほぼ送られてこないと思うので、それだけでインパクト大。しかも、この部分にとてもリアリティがあります(実際のリアリティは私には分からないけけれども)。

また、シャチの輸送や飼育等についても丁寧に説明、描写されていて、とても面白く読みました。

また、ラストのミッションへの挑戦パートで、困難の設定に○○○を使ってあったところがすごくよかった。たしかにありそうですし、シャチやくじらへの影響がいわれています。上手いなと思いました。

キャラクターがよい

かき分けが素晴らしいので、「こいつ誰?」ということがありません。キャラクターがしっかりイメージできるような描写、性格設定がなされています。主人公の好感度も高いです。悪役的な登場人物も含めて(小説的にデフォルメされていますが)とても人間らしいです。

個人的に気になったところ

ほぼないです。ご都合主義と取られる設定はけっこう多いんですが、この作品に関してはあまり気になりませんでした(リアリティを追求される方はものすごく気になると思いますが)。

引っかかったのは、「セブン(シャチ)が天才過ぎる点」と「エルを救う部分がうまく行きすぎな点」くらいかな。

セブンが天才過ぎるのはもうしょうがない気がします。作中でも「歴史的ブレイクスルー」と書かれているので、まあアリかなと思います。こんなシャチがいないともかぎらないので。

「エルを救う部分」のほうが、かなりうまくサクサク進むので……そんなあっさりいくんかいとちょっと思わなくはなかったんですが(笑)、まあ、ありそうといえばありそうな話なのでこっちもOKかなと。

おそらく制限枚数には余裕があったと思うので(あるよね?汗)、全体的にもうちょっと書き込んでもという気持ちもあるんですが、短いことで展開がスピーディ-になったともいえるので、これはこれでよかったのかもという気もしています。

おわりに

小説すばる新人賞への応募を考えている方は、これは読んだ方がいいと思います。最近のエンタメ系新人賞の中ではとても目立つ作品だと思いました。

とにかく総合力が高すぎます。次の作品がとても楽しみです。