「俺の傑作は受賞作より面白い」と思っている方へ

2022年4月17日小説投稿と通過

「数百~千の作品が送られているのに、受賞作あんまり面白くないな……(^_^;)」と読者の私も思うことがあります。正直なところ、新人賞作品を読んでも、辛口になりそうだから感想書くのやめておこうってことがたまにあったり。

そのため、投稿者している方が、「下読みが悪い」「選考委員がおかしい」「編集者が読めてない」となるのはわかります。すごく分かるんですが、自分の作品を冷静に判断できている投稿者もほとんどいないと感じています。

というのも、感想を頼まれてお送りすると、明らかな矛盾点の指摘は受け入れてもらえることが多いのですが、それ以外の指摘はけっこうスルーされます。作品は作者のものなのでスルーしていただいてもちろん問題ありません!

ただ、一次を通過しない、一次で足踏みしている場合は、矛盾点とか誤字脱字を以外の問題点があると思った方がいいので、人の意見を受け入れなくてもいいのですが、こんな意見を貰うということは「自作には問題があるのかもしれない!」という目線で読み直しては?と思います。

場合によっては反論がきます。おそらく、アイディアや設定(ミステリではトリック)に絶対の自信があるのだろうと思われます。作者の考えが知れて私はとても有意義で、とてもおもしろいですが、自分の作品を根底から見直せないならば、上にいくのはなかなか難しいのかもと思うことがあります。

ということで、「自分の作品は傑作」と思っている方へ向けて書いてみたいと思います。

※知人から、「お前、俺の心を折ろうとしてる?」と来たので……、先に謝っておこうと思います。申し訳ない。ただ、知人は出す直前は「俺天才」っていってるけど、結果が出る頃には「俺程度」になるので……折れるまでが仕様では?と思われます。

傑作が送られてくることは(たぶん)ほとんどない

実際のところ、断トツにレベル違いの作品が送られてくることはめったにないんだと思います。だから最終選考会で票が割れるのだろうと。2作受賞も同様の理由があると思います。片方がレベル違いの傑作であれば、おそらく1作しか受賞できないはずです。たまたま2作も傑作が来たケースもあるとは思いますが、まあ少ないだろうな。

つまり、送られてきた中から……

・出版できるレベル
・まとまりのよい作品
・瑕疵があっても面白い作品(新しさのある作品)
・書き手が小説の書き方を分かっている→書ける書き手

の作品を最終選考へ挙げているんだろうと。キャラ文芸やライトノベルは「うちのレーベルにあってるか?」も強く影響する気がします。

いうなれば、その出版社(レーベル)で出ている本の出版レベルを満たしている(手直しで満たせる)ものが最終に上がってきていると考えたほうがいいです。

プロ作家の出版レベルと考えれば、新人賞受賞作にも納得できます。ただ、読者はその中でも段違いに面白い作品を待っているわけで……求められているレベルが高すぎるのかもしれません。

読者目線を考えて書けている人はほとんどいない

多くの作家志望者の方の作品を拝見していて感じるのは、読者置き去りのケースが多いってことです。

言葉では、「おもしろいと思ってもらえるものを書く」とか、「刺さる人に刺さる作品が書きたい」とか、読者を意識している感じはします。でも、だいたいのケースにおいて、「読者=自分」なんですよね……(^_^;)

それのなにが悪いの?と思われるかもしません。自分が読みたいものを書く、自分の書きたいものを書く……いいと思いますよ。

・自分の読みたい「テーマ」
・自分が面白いと思った「ネタ・トリック」
・自分が書きたい「感動・エモさ」

ここらへんまではいいんです(作家になれば売れるか売れないかってところも考える必要があるでしょうが、新人賞ではおいておきましょう)。

ただ、新人賞における「読者目線を考えて書く」って、たぶんそういうことじゃないです。

・その書き出しで読者の気を引けますか?
・文章読みやすいですか?
・状況が分かりやすいですか?
・無駄な文章、設定、場面を入れて、読者を飽きさせていませんか?
・キャラのかき分けできてますか?

って話で(たぶん)書き方の問題なんです。作者は分かるかもしれませんが、読者は無の状態から小説世界に入り込むわけです。わかりやすくないとつまらなく感じるんですよ……。展開が遅くても飽きるんですよ……。そこらへんを考えて書いている人って少ない気がします。

作者の思いが強すぎて、キャラへの思い入れが強すぎて、読者おいてけぼりってけっこうあるので。

どこかで見たような

設定、トリック、キャラ、なんなら内容が……どこかで見たような作品になっていることが多いです。

パクりとか、似すぎているとかいっているわけじゃありません。単に、よくある作品になっているだけです。受賞作にもそういうの多いなあと思います。ならば応募された作品にもそういうのが多いのだろうと思われます。つまり、「書き方が上手い」とか、「今の売れ線だから」とか、「新しい要素がちょっとある」作品を最終に上げるしかないんだろうなと。

本人がいくら「新しい」「これヤバイ」「こういう作品がないから俺が書いた!」と思っていても、意外と似たような作品はあるんです。

ライト文芸・キャラ文芸についてはいうまでもなく……(ほんと多いです)。で、そこを脱却しようと、今度は読者の共感が薄そうな設定をもってきていたり……。

ミステリの投稿者は、わりとトリック(+謎解きロジック)に自信のある方が多いです。「これどやー!」って感じで出してくるかなと思います。でも、とくに目新しくはない、またはトリックに無理がありすぎることが多いです。ついでにいえば、トリックありきの物語になっているので、読者置いてけぼりってことも多いです。そして、そのトリックがとくに目新しくないため、読者は最後まで置いてけぼりです。

エンタメの方は、逆に筆運びが上手い方が多いです。ネタに対して「どやー」感も少ないのですが、プラスポイントを持っている作品も少ない感じです。そのため、どれが選考を通過するか読みにくいです。そして、筆運びが上手いゆえに、自分の作品に対して自信を持っている方も多い印象です。

ちなみに、既存作に似ていない=荒唐無稽な作品を書けという話ではありません!

2021の小説すばる新人賞は、シャチの話です。水族館や、海辺が舞台となった「イルカとの心温まる話」自体はよく見ます。が、本作は、このイルカがシャチになっている。しかも、海洋学者があるミッションに挑むと……私はこの手の作品を見たことがなかったので、あらすじだけでわくわくしました。しかも、展開が「はやすぎ!」ってくらいにはやいです。

カテエラは明らかにある

小説すばる新人賞に、エログロホラーを送ってもたぶん落ちます。キャラ文芸的なライトミステリーもたぶん難しいかなと思います。逆に、ポプラ新人賞は、キャラ文芸的なライトミステリーを取るようになってきました。が、こちらもエログロホラーはたぶん無理です。

横溝正史ミステリ&ホラー大賞なら、エログロホラーもありかもしれません。しかし、おそらくライトミステリーは厳しいと思います(ホラーテイストならあり得るかも)。同じくミステリの鮎川哲也賞は本格の傾向が強いです。

キャラ文芸・ライト文芸・ライトノベルはレーベルごとのカテエラがあります。同時に、一般文芸で選考通過するようなものが、ことごとく落ちている気がします(ちなみに、知人で一般エンタメで一次、二次をだいたい通過しているような人が、ことごとく一次落ちしたケースも知ってます。エンタメ作品の一次、二次通過作を使い回しても、新作を書いても落ちたといってました。他にも、一般で最終に行った人がキャラ文芸で苦戦していたり)。

自分の作品に絶対の自信がある方は、他の賞へ出して見るのもアリだと思います。