小説新人賞の一次選考を通過できないのはなぜ?

2019年11月18日小説投稿と通過

小説投稿サイトが増え、世に出なかった「新人賞応募作」が読めるようになってきました。「なろう」さんや「カクヨム」さんで、投稿者さんの作品をよく読んでいます。

また、投稿者さんの中には、応募前(または後)に「下読みさんを募集」している方がいます。web上でのお知り合いが募集しているときは、できるだけ手を上げるようにしています。私がチェックするのは、誤字脱字、頭に入りにくかった文、矛盾している箇所です。これに簡単な感想を書きます。

投稿者さんから直接頼まれた作品で30作品以上、投稿サイトも含めると新人賞応募作を100以上読んでいます。その結果、「これは通らないんじゃないか」と思う作品の共通点に気づきました。

※もちろんプロじゃないので、鵜呑みにしないでくださいね。そして、「偉そうに!」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、個人的の感想としてお許しいただければ幸いです。

いろいろな情報が飛び交っていますが、「純文学」、「一般小説」、「ライトノベル」、「投稿サイト系」で分けて考えるべきだと思います。まずは、共通している点について書いてみたいと思います。

なぜ一次を通らないのか?

箸にも棒にもかからない「箸棒作品」はほとんどない。

以前は、応募作の大半が小説の体を為していない、まともに読めない「箸棒作品」であるとされていました。しかし、オンラインの投稿サイトを見ると「ちゃんと読める」「話も理解できる」作品が多いのです。おもしろいかどうかは別にして、「小説」らしい作品が多いと考えてもよいのでは?

実際、私が読んだ作品も「普通に小説らしく読める」ものがほとんどです。プロが読んだら「箸棒」なのかもしれませんが、シロウトが読む分にはとくに問題なく読めてしまいます。

それでも、まれに「これは……」と思う箸棒的な作品があります。問題なのは、本人がこれに気づけないことだと思います。というのも、文章(てにをは)はわりとまともだったり、ストーリーの欠陥だったりするからです。これらは、書いた本人では気づきにくい点だと思います。

本人の気づかない「箸棒作品」

文章はまともなのに読みにくい。

・装飾(比喩や描写)にこだわりすぎて読者に伝わらない。
・描写が少なすぎて、状況がわからない。
・誰の台詞なのかわからない。
・接続詞が多すぎる。
・読点が多すぎる(少なすぎるのも問題ですが)。

おそらく書いた本人は「わかっている」ことなので、自分で気づくのは難しいです。三ヶ月とか、半年おいて小説を読み直せと言われるのは、全て忘れて一読者の視点から読めるようにするため。時間が経って文章を振り返ると、「うわ……」と思うことがありませんか?

なお、一般文芸では、「トートロジー(同じ言葉を繰り返すこと)が多すぎる」、「視点のぶれ」なども気になります。

人称の選び方に失敗している。

「一人称で独自性を出して書いたらおもしろそうなのに、わざわざ三人称で書いてある」作品がけっこう多い気が。純文学やエンタメ系投稿者さんに多い印象があります。ライトノベルの作家さんは一人称が多いですし、内面描写が多くないせいか、気になることはほとんどありません。

どういう作品が問題かというと、心理描写を多用した三人称視点です。プロの作品にもあるので、三人称では心理描写を書くなといっているわけではありません。ただ、文章がうまい方を除けば、心理描写が多用されている三人称視点って逆に読みづらいです。「女生徒」(太宰治)を三人称視点に書き換えたらわかるんじゃないかと。

投稿者さんの中には、「三人称視点のほうが難しいから一人称に逃げたくない」とおっしゃる方もいるのですが、このような三人称視点の使い方はなんでもアリなので、逆に簡単なのではないかと思います。神視点の三人称は確かに難しいような気がするんですが……。

個人的には、「三人称のほうが上」とか、「一人称は簡単」とか、本当にそうだろうかと疑っています。人称に上下はないのでは?

小説に適した人称を使ってください!

そのストーリー、本当におもしろい? 読者に伝わってます?

・よく見る題材、設定、ストーリー。なのに+αがない。
・設定やストーリーに矛盾が多い。
・設定集になっている(SFなら読みたいけど)。
・ストーリーの展開が遅い。ストーリーがない。(純文学は除く)
・時系列が複雑すぎる。

既存作品に似ているのはOKじゃないかと思っています。「あやかし」とわいわいする話だったり、「極貧生活」の話だったり、「介護」をテーマにしていたり。ただ、+αがなくてはだめと思うし、そもそも既存作品と比べられるので不利です。また、同じようなテーマの作品が多く集まれば、作品が目立たないかもしれません。

目立つなにか(+α)が必要なんです。

それから、時系列が飛ぶ作品。うまく描かれたものはすごく面白いです。どんどん小説に引き込まれていきます。ただ、多くの作家さんは書きこなせていない。

読んでいて混乱するならまだしも、どの時系列の話なのかわからないということも。

「読み手に読解力がないからだろう」と思われる人もいらっしゃるかもしれませんが、私はごくごく一般的な「読み手」です。普通一般よりは、(たぶん)読めるほうだと思います。つまり、多くの読者は、投稿者さんが求める「読解力」を持ちません。時系列が飛ぶ作品を書く方は、十分に注意してください。

どうすれば一次を通過できるのか。

個人的に、一次選考を通過するだけなら「運」もあると思います。一次選考を通過するだけなら……。

読者に分かりやすく伝わる物語を書く

・文章が一応書けて、描写が適度にある。
・時系列が整理されている。
・ストーリーがある。
・キャラクターがかき分けられている。
・他より目立つ+αがあるとなおよい。

であれば通過しているなと思います。

物語やテーマが読者に伝わっていますか? 小説に勢いがありますか? 

ある程度の技術は必要だと思います。ただ、「立派な小説を書く技術」ではなく、「読者に伝える&読者を乗せる技術」を身につけることが大事だと思います。最低限の技術があれば、上手くなくてもよいのでは?

そのストーリー、本当におもしろいですか?

正直にいうと、これが結構難しいのではないと思っています。

ようは、そのネタは「新しいですか? 尖っていますか? オリジナリティがありますか?」ということです。読者に「読みたい!」と思わせるネタが必要なのです。

純文学に限っていえば、ストーリー性がない作品も多いので、「そのテーマ、本当に尖ってますか?」または「その文体と描写力で、読者の感性を鷲掴みできますか?」ということになります。

ネタが本当におもしろいのか、よく精査して書いてください!

ストーリーが、読者におもしろく伝わっていますか?

テーマとあらすじが同じでも、書く人によって違う作品になると思います。つまり、書き方があるんです。

いろんな創作本がありますが、「起承転結」に添っているけれど面白くない、「三幕構成」っぽいけどイベントがしょぼ過ぎるという感じで。創作法に添っていても落ちるときは落ちるよねと思わないこともない。

ただ、「起承転結」や「三幕構成」などの創作技術で共通しているのが、「ストーリーに緩急を持たせること」だと思います。山あり、谷ありでなければならないし、ストーリーが動かなければならないのです。個人的には次の3点が大切だと考えています

・つかみ(1行目ではなく、冒頭の数十枚でストーリーが読めるか)
・なかば(中だるみしたところで、ストーリー急展開や転換があるか)
・ラスト(ラスト付近。最も盛り上がるところでストーリーがうまく着地するか)

読む側としては、「つかみ」が面白いと読む気になります。次に、「なかば」で興味を引かれると読書が停まりません。最後に、「ラスト」がよければ「この作品最高!」となります。

小説技術でいえば、もっといろいろあるんでしょうが、まずはこの3点をチェックしてみてください。

・冒頭でストーリーが展開し、読者が続きを予想できますか?
・中だるみしないように、新しい山や谷が現れますか?
・ラストで読者が「おもしろかった!」と納得できますか?

読者をストーリーに乗せることを意識してください。純文学や一部の文芸小説をのぞけば、出だし30枚ほどで読者にストーリーを読ませる(予想させる)必要があると思います。ミステリ小説で「さっさと事件を起こせ」といわれているのと同じです。

誰かに読んで貰うのが一番

一番いいのは、誰かに読んでもうらことです。それも「ためになる苦言」をいってくれる人に読んで貰うほうがいい。

投稿サイトのコメント欄を見ていても、「苦言」は千差万別。「難癖」としか思えないものから、「同意しかねる」もの、「完全に同意できる」ものがあります。個人的には、複数の人から「苦言」が被ったものは直したほうがいいと思います。

頑なに「自分のスタイルがある」とか、「読んだ人の読解力が信用できない」という投稿者さんもいらっしゃいますが。否定はいたしません。それで突き抜ける人もいるかもしれない。でも、「通過」を目指すのであれば、他の方の意見を取り入れるべきだと思います。

問題は、読んでくれる人がいない、さらに苦言を呈してくれる人がいない、ってことかもしれませんね……。

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