小説新人賞の一次選考を通過できないのはなぜ?-その2-
「普通に小説らしく読める」のに一次選考を通過しない作品がけっこうあると個人的には思っています。以前、このあたりが通過できない理由じゃないかなと思い、まとめました。
要は次の三点です。
・読みやすいか?(文章がちゃんと書けているか)
・ストーリーは本当におもしろいか?
・ストーリーやテーマが読者に伝わっているか?
既存作品に似ているとか、流行りのテーマで選考上不利だったいうこともあるでしょう。
今回は、これら以外に気になったことをまとめておこうと思います。
最終とか、その手前まで行く人でも一次に落ちる。
リアリティがない
リアリティがなくて、どうして最終まで行くのか?と思われた方。その通りなんですが、行くんです。メインのネタがすごければ。
「メインのネタがすごい+文章が読める+話に齟齬が少ない」は、けっこういい線行きます。文章もうまくなくていいので、すっきりわかりやすければいいです。では、どこにリアリティがないのかといいますと、次のような部分です。
・専門ネタ(IT系、役所関係、学校関係、病院関係など)
・キャラクター(登場人物みんな美形とか。すぐだまされるとか)
・とんでもSF(で、設定がガバガバなもの。「ないわ……」と思うのあるよ)
・行動原理(なんでそうなった!ってケース多いよ)
そうなんです。最終どころが、受賞しているケースが非常に多いように思いませんか?
こういう人はだいたい他の作品でも同じ傾向にあります。別の作品で(または使い回しが)一次に落ちた場合は次のような点でダメだったのでは?と思っています。
・ネタがしょぼかった。または売れそうにないと判断された。
・リアリティを重視する人が一次の選考者だった。
・たまたまその筋に詳しい人が選考者にいた。
逆に言うと、メインのネタってほんと大事なんだなと思います。
相性はバカにできない
これ、事実です。実際、私の友人は児童文学系で最終まで行っていますが、一般文芸は一次で落ちまくりました。少年系のライトノベルも一度出したことがあったはずですが、こちらも一次とか二次くらいだったかと。おそらくですが、理由はこれ。
いい話すぎる。大団円、勧善懲悪。最初から最後まで安定して全部うまくいくからドキドキしない。
ストーリーもよく練られているんですが、「そんなうまくいくのか……?」となることが多かったんですよ。おそらく一般文芸ではご都合主義に取られるか、毒がない(目立たない)と思われたのか。その点、児童文学が向くんだろうなと思ったんですよね。児童文学だってハラハラドキドキは必要ですが、子どもが読むことを考えて書くべきものです。ある程度の大団円、勧善懲悪はプラスになるんだろうと思います。
総合力が高い
よく、「何度も最終に残ってダメなら受賞は難しい」という話を聞きます。が、自分の知る限り、最終に何度も残るような人は、だいたいデビューしている気がします。すべてではないんだろうけど。
ただ、そういう人が売れるとは限らない(むしろ売れない人がけっこういる)。乱歩賞はちょっと例外な気もしますが。あれだけ最終に残った人がどうしてと思うことも多いです。
ただ、正直なところ、デビュー作を読んでも、「面白いけど、二作目はいいかな」と思うことは多いかなと思います。どこが悪いかといわれると、とくにないんですよ。キャラクターもいいし、ストーリーも面白くわかりやすいし、文章も悪くないし……。何一つ悪いところなどないのに、第二作を待ち望むということがないんです。
個人的には、次のどちらかかなと思っています。
①リーダビリティがないせいかと。続きが気になるとか、キャラクターにほれ込むとか、そういうことがあまりないように思います。わりと想定内のキャラクターが、そこそこ面白い展開をするという作品が多くて、「なんだこれ! すげえ!」ということがわりと少ないです。
②ネタがすごく新鮮な作品の場合、話の展開に無茶があるように思います。要はご都合主義か、ラストが力業すぎるか。
つまり、高次選考に何度も残るような方は、クリティカルな武器があと一つあれば一気に売れっ子まで行けそうな気がしています。
一次をまったく通過できないという方も。
話が進まない。
文章がある程度かけていて、キャラクターも立っているのに通過できない。ならば、話の進みが遅くないかチェックしてみてください。
朝起きて、ごはんを食べて、学校へ行って、友達と会って、ようやくヒロインと会う……長いですから!ってことです。
朝起きるシーンは本当にいりますか? ごはんが重要な小説なんですか? 通学路でヒロインと会えばよかったじゃん? っていうか、その友達のほうがヒロインより目立ってるから!ってことになっていませんか?
もちろん、「朝起きて、ごはん……」というのは一例で、それくらい突っ込みどころの多い冒頭の作品って結構あるんです。
話の展開が遅いものは、エンタメ・ラノベ・キャラ文芸では不利です。「続きが気になる」というのが重要なんです。
話が進みすぎる。
前半はいいんです。が、中盤ショートカットの、突然終盤という作品がときどきあります。なぜ、そのラストになったのか、主人公の行動原理がまったく理解できないケースです。
たとえばミステリ。冒頭で魅力的な謎が提示され、それに沿って推理が進んでいきます。が、いきなり犯人と対決になって、犯人がべらべら犯行方法、動機をしゃべりだすといった感じです。
たとえば一般文芸。冒頭で三角関係が出来上がります。ライバルがいい子過ぎて、勝てないと思う主人公。が、中盤過ぎていきなり、ライバルの悪行が出るわ出るわ……ライバル蹴落として大団円。いや、ライバル完全に二重人格だからそれ、みたいな感じです。
たぶん、書くのに使れたのか、締め切りに間に合わないのか、エピソードが思いつかなかったのか……。話が飛びすぎると、読者は置いて行かれます。前半だけすごく良くて、「後半意味不明!」になっていないか、ご確認ください。
話が出落ちになっている。
「話の展開を早く」、「読者の興味を引いて」と言われて、エピローグ(または衝撃的なシーン)を冒頭に持ってくる作品。個人的には嫌いではありません。が、この手法が効果的であるケースは決して多くはないと思います。というのも……
①インパクトのあるシーンを頭に持ってきたことで興味が引けたと安心し、前半に面白くない展開が続くケース。おそらく書き手は後半になれば面白くなるから我慢して!と思って書かれているのでしょうが、その後半が独りよがりであることも多いのでご注意を。まずは、前半から面白くなるよう検討してください。
②シーンにインパクトはあるものの、ストーリーにインパクトがないケース。
③インパクトのあるシーン……になっていないケース。これもあります。ありきたりシーンになっていないか確認を!
それぞれに、例を挙げてみますね。たとえば、ミステリで冒頭に「恋人が殺されたシーン」を持ってきたとします。
①恋人が殺されるというシーンを中盤以降に据え、そこまでひたすら彼女と付き合うまでの日常を描く。彼女が殺された中盤以降、彼氏が開眼して探偵を務める。中盤から始めればよかったんじゃないの?となります。彼女を落とすまでが後々伏線になっていればいいのですが……。その伏線がしょぼかったら読者は納得しません(しょぼい伏線の例:彼女を取り合ったライバルAが犯人だった)。
②恋人が働くホテルで密室殺人が起こり、主人公は捜査に乗り出します。捜査を進めていくのですが、彼女も中盤で犠牲になってしまいます。彼女が亡くなったことで、開眼する主人公!……これ、冒頭に彼女が亡くなるシーンがいりましたか? 逆に冒頭があったことで、読者は「恋人まで犠牲になった!」という驚きがないわけです。
③「どうして君が犠牲に……」と、亡くなった恋人を抱きしめて泣く主人公。挙げ句、雨が降っているとかね。わりとありきたりなので、冒頭に入れるべきなのかよく考えたほうがよいのでは。そもそも、いきなり始まっても、読者が主人公たちに感情移入や、愛着を持っていない場合、あまりインパクトがあるシーンとはいえません。
①と②に関しては完全に出落ち、③に関しては出落ちにもなっていないという……。結構あるんですよ!
設定に無理がある。
例が思いつかないんですが、「この設定おもしろいけど、基本的におかしいよな」ってことが結構あります。
簡単にいうと、「夜伽はしないのに後宮にいる妃(どっかで見たことありますね)→後宮に入れる必要ないよね?」みたいな感じでしょうか。「夜伽をしない妃(あげく帝と結ばれてはいけない妃)」というのは結構なパワーワードで、悲恋やロミジュリ的で受けそうなんですが、「どうして後宮に入れた!」となるわけです。この理由付けがない限り、設定に無理を感じてのめりこめない。
そういう感じといったらお分かりいただけるでしょうか? 設定が面白くても、突っ込みどころ満載の作品が結構あります。本人はちゃんと設定できているつもりなことが多いので、誰かに見てもらうのをおすすめします。
ちなみに、なろう作品などは、設定に無理があってもわりと書籍化しているので、ウェブ主催の賞に出すのもありなのかなと思わないでもないです。
まとめ
ある程度書けていたら、あとは運も大きいかなと思っています。一次はもちろん、その上も。
流行りのテーマがあれば一番いいのだけが上がるでしょうし、似たような作品があれば片方は落とされる可能性が高い。ラノベやライト文芸はレーベルカラーがありますし、ミステリもレーベルによって許容度や欲するものが違っていると思います。
言い訳が難しいのが一般文芸かと。なんでもありな分、レーベルカラーがとは言いにくい。ただ、一般文芸の優劣を決めるって、結構難しいと思います。結局、読み手や編集部の好みを完全に排除することができないと思うんですよね。
めげずに書き続けることも才能なんだと思います!