読者目線、意識していますか?
新人賞の受賞作というのは、数百~数千の中から選ばれます。なのに二作目が出ない、数作品で筆を折る作家さんも多いです。ときに、怨嗟の声としか思えない呟きや書き込みを発見することも。
出版業界も大変だなあと思います。ただ、このプロ作家さんの声って、投稿者さんにはすごくヒントになると思うんです。
ある作家さんの「自信作」と思われる作品を拝見しました。売上げはイマイチだったようですが、おもしろくないわけじゃないし、よくできている小説でした。ただ突き抜けた面白さがなく、読者層を狭める設定が用いられているため(これ作者が好きなんだろうと思います)、「人にはすすめにくい」と個人的には思いました。
そこで、ちょっと私なりに考えたことをつらつら書いて行こうと思います。
※記事中の例は私の拙い創作です。
ターゲットを意識していますか?
賞ごとに見ているポイントは多数あると思います。多くの賞で共通していると思われるポイントの一つがこれ。
読者が想定できるか?
ミステリは分かりやすいですよね。
江戸川乱歩賞:総合力、50代~以上の読書家をメインターゲットにできそう
このミス大賞:売れるか、一般受けしそうか
鮎川哲也賞:本格志向、本格好きの読者向け
みたいな感じかなと思っています。
ある程度の小説力があれば、あとは賞が想定しているポイントをクリアしているかどうかが重要だと思います。乱歩賞や鮎川賞に関しては想定した読者にウケるかどうか、このミスについては広い層に対して訴求力があるかということだと思います。
今回は「それ本当に読者が想定できていますか?」という視点で書いていきたいと思います。
売れ筋を外しても、読者の心は掴んで下さい
新人賞を取るなら、「新しいもの」「尖ったもの」「+アルファ」が必要という話はすでに耳たこだと思います。売れ筋であるなら+アルファ(独自性)が必要だという点については、そんなに異論がでないように思います。
問題は、売れ筋を外した場合です。「新しいもの」「尖ったもの」がある!と思っているのにうまくいかない方、いらっしゃいませんか?
売れ筋を外した結果、ターゲットが見えない
「他にはない設定・ストーリー」なのに落ちる……。
これが別作品で一次、二次通過している作者だと、「文章は書けているはず」「ある程度の小説の形になっているはず」と思うのは当然。そこに、オリジナリティがあり、尖っているネタを持ってきたのに、どうして? となるわけです。
まずは、そのネタが読者にウケるかどうかを考えましょう。「尖っている」のではなく、それを好む層がいないので今まで書かれなかっただけでは?
例)「シリアルキラーが凶行を重ねる小説で、最終的に捕まらずに終わる」ミステリ。敵役の警察(または探偵)の手を逃れて、犯行を重ね、狂気に酔うといった作品。
書き手:「今までに見たことがない」「イヤミスの傑作になるかも!」
読者 :「犯人捕まらない? は? 胸くそ悪いで終わった?」「え? シリアルキラー野放し?」
確かに今まで見たことがないし、イヤミスといえないこともないのだろうけど……。書き手の思いとは裏腹に「誰が読むの、これ」「面白がれる層がどれくらいいるのか……(不安)」となってしまいます。
推理バトルが他に類を見ないほどおもしろく、シリアルキラーの動機が万人に受け入れられれば、あるいはと思います(シリアルキラーに動機があるの? という点はスルーしてください)。ただ、そこまで書けるのであれば、探偵主人公の推理バトル、シリアルキラーは捕まるけれど「動機(的なもの)」で読者の心を掴む作品に仕上げたほうがよっぽど売れる気がします。この「万人に受け入れられる動機」で十分尖った作品になりますから。
ダークヒーローの作品が増えてきているので、万人向け動機があれば「シリアルキラー主人公の逃げ切りミステリー」もいける気はします。ただ、これを書き切れる作者がいったいどれだけいるか……というくらい難しいと思います。
けっこう多いんですよ。「これ、誰が読むの?」って尖り方。
売れ筋を外した上で、新しくないし尖ってない
書き手は「尖っているつもり」、「新しいつもり」でも、そうでもないというケースはけっこうあります。
よくあるテーマ・設定を外せば、確かに売れ線は外れているかもしれません。が、売れていないだけで既出のテーマ・設定もあります。出版したけど売れなかったとなれば、編集は逆にマイナスイメージを持つ可能性もあります。まずは既存作がないか確認してみてはいかがでしょうか?「売れ筋を外した」イコール「新しい」ではないことを知っておいてください。
さらに、「新しい」かもしれないが、「読者の心を掴まない」「尖っていない」設定というのもあります。書き手はアイディアを思いつくと「俺天才!」と思いがちなので、冷静な目で設定の検討をするようにしましょう。
売れ線を外すと、参入障壁が上がるんですよ!
流行りのジャンル・ネタというのは、読者が作品に入り込みやすいです。さらに先の展開も読みやすいので、うまく裏切られたりするとそれだけで絶賛されます。物語の参入障壁がないんです!
しかし、新しいジャンル・ネタでは、読者は勉強からはじめる必要があります。既視感のない完全創作の異世界ファンタジー、さらに主人公たちは謎の武器を使って戦う……すぐに物語に入っていけますか? 前半で心が折れる読者のほうが多いと思われます。
名作『進撃の巨人』が、最初の場面(巨人が現れてからの一連のパニック)のない小説だったとします。主人公が「団に入って、巨人を駆逐してやるー!」から始まった場合、オリジナル設定についていけず心が折れる読者は少なくないのでは? 立体起動も絵があるから分かりやすいですが、あれを文章で表現すると・・・・・・中々難しい気が。
オリジナリティの世界設定というのは、それだけで読者には敷居が高いです。ただ、それを超えるとハマる読者が多いと思います。読者の気を引く努力をしてください。
また、オリジナルの世界設定というのは次の危険をはらんでいることを忘れずに。
・オリジナリティが実はない
・オリジナリティはあるが世界設定に矛盾が多い
・オリジナリティはあるが無駄な世界設定が多い
・オリジナリティはあるが世界設定を活かせていない
複雑な作品であればあるほど、この罠に陥りがちです。気を付けてください!
よそのジャンルを研究。上手に売れ線を外そう!
ちなみに、一般文芸で流行ったテーマをライトノベルに落とし込んだり、ライトノベルの流行りをうまく一般文芸に取り入れることは、アリだと思っています。そのジャンルにおいて新しく、尖っていればいいのです。ただ、他ジャンルから移植するときは、テーマの解釈の仕方が重要です。そのまんま落とし込んでもダメですよ。
半沢直樹シリーズはいわゆる「ざまぁ」小説ですが、ラノベでも流行っているでしょう? ある種の「俺TUEEE」ともいえるかも? テーマというのは、描き方を変えれば他ジャンルでも通用するのです。
マンガや映画の売れ筋を、小説に落とし込むのもアリですね。ただ、「映像が有無」というのは大きいです。マンガ、映画、ゲームのすべてで「バイキング」や「大航海時代」などをモチーフにしたヒットがあるのに、小説(@日本)で流行らないのは絵があるかどうかが大きいと考えています。
そのジャンル+時代背景で読者つきます?
例)「あやかし」+「人外と男主人公のバディ」+「江戸時代」
「しゃばけ(あやかし+男主人公)」があるので、流行りに乗っていると思われそうですが……、一般文庫で歴史物が好きな(または抵抗がない)層を取り込めるかどうかが鍵です。その層に訴求できないなら、江戸時代を持ってくるのはむしろ悪手だと私は考えます。
つまり、一般ジャンルで受け入れられる作品(時代小説として人気になる作風)でないなら、時代背景を再度考えなおすべきだと思います。
たとえば、ライト文芸(キャラ文芸)には「江戸」が来ていません。江戸のムーブメントを起こしたいと考えるのなら止めませんが、そうでなければなかなか厳しい。ライト文芸は女性がターゲットです。江戸好きな女性は一般文芸の時代小説を手に取るでしょう。ライト文芸+江戸好きという層は、今のところ少ないとみるべきです。
ターゲット層を意識せず、好きなもので書いてしまっていませんか? どの層に売るつもりなのか、よく考えてみましょう!
流行りの時代背景
一般文芸だと、あまり時代背景の流行り等を意識する必要はないと思います。むしろ、大量に出ている歴史・時代小説の新機軸を打ち出せるかどうかです。戦国武将、大名、幕末の志士、幕末以降の道を切り開いた女性、有名どころは大御所が本にしています。新しいヒーロー・ヒロイン像を打ち出せるか、有名人の新たな顔を描けるか、これが重要です。
でも、女性向けラノベ・ライト文芸なら時代背景はよく考えたほうがいいかと思います(男性向けラノベは流行りの時代背景ってどこだろ……?)。
現代を除いた女性向けラノベ・ライト文芸では、「平安」、「明治・大正」、「中華風(時代じゃないけど)」あたりが売れ筋といえるでしょうか?
平安時代のファンは一定層いますし、広い年齢層から支持を貰える可能性が高いです(コバルト・ビーンズで過去に流行っているため、その世代は十分ターゲットになりうる)。また明治・大正は売れている恋愛マンガが複数あります。『わたしの幸せな結婚』が売れ出したとき、私は真っ先にそれらのマンガの購買層を考えました。その世代の小説好きが手に取る可能性は高く、マーケットが既にあったと考えていいと思います。中華風は『十二国記』と『薬屋のひとりごと』があるので、マーケットは大きいですし、設定を知っている読者が多いので参入障壁が低いです。
というように、時代設定を選ぶ際にはマーケットをよく考えてみてください。
取り扱い注意な西洋中世
個人的に扱いが難しいと思うのが「西洋ファンタジー」と「西洋中世」。あまり売れる印象がないんですよね。
一般文芸でたまに当たることはありますが、しっかり時代考証された上で、小説としてもおもしろく、よく知られた時代背景(登場人物)を使っていることが多いように思います。
ラノベ・ライト文芸(キャラ文芸)では、さらに難しい気がしています。
なろう等のWeb小説では西洋をベースにした異世界が流行っています。だから、中世ヨーロッパも需要があるはず!と思う方がいらっしゃるかも。ただ、この時代が受けるのは「貴族制」「騎士」「ドレス」などのガジェット(道具・仕掛けなどの意味)だと思います。そうなると、どうしても西洋ベースの異世界に負けてしまうのだろうなと。
つまり、この時代にリアリティを求める人は一般文芸や歴史書を手にするのでは?(そもそも歴史書がおもしろい)。かといって、アイテムに引かれる人にとっては、西洋ベースの舞台装置がおもしろく感じるんだろうなと思うんですよね。
中世ヨーロッパの中途半端なファンタジーは、ターゲットがどっちつかずになって伸び悩みそうな気がしています。
「書き手」と「読者」の目線は違う
多くの書き手さんは、「自分の好きなことを好きなように書いて、受賞して、売れたい」というのが本音だと思います。
実際、自由に好きなことを書いて、それが評価されている人もいらっしゃるようです。よほど力があるか、好きなことがたまたま流れに乗ったかだと思います。たまたま流れが来たに関してもパターンがあって、「その作品が新たな流れを作った」ケースと、「たまたま来ていた流れにハマった」ケースがあるかなと思います。
で、たまたま流れに云々というと、「運」だよねと思われそうですが、必ずしもそうとはかぎりません。すでにスタンバイされていた(下地があった)ところに最後の一押しをした、来ていた流れを二番手三番手の力となって押し上げたケースも多く、来るべくして来た作品もけっこう多い印象を持っています。
また、SNSを拝見していると「自分の作品はおもしろい!」「自信作!」「自分の作品が好き!」という方が多い印象です。とても素晴らしいことだと思います。
でも、「自分の好き・おもしろい」=「読者が多い・人気」ではないんです。自分の好きを詰め込んで書いたものだから、自分が好きなのはあたりまえくらいに思ったほうがいいです。その上で、もっと冷静に作品を見つめて、「これに読者がつくだろうか」と考えてみてください。
大昔に書いていて、今は読み専となった私の印象ですが、「書き手」と「読者」の意識はけっこう違いますよ。
それを意識した上で、読者がおもしろいと思うものを書いてください!
自分がおもしろいと思う作品を書くのは構わないんです。ただ、ちょっと設定を変えるだけでマーケットが広がるのにと思うことが多々あります。もう一度、作品を見直してみてはいかがでしょうか?