第18回『このミステリーがすごい!』大賞 隠し玉『犬の張り子をもつ怪物』

2022年8月1日小説投稿と通過,新人賞受賞作

19回のこのミス作品が3冊出版され、さあ読もうと思ったところで、去年の隠し玉を先に読むことにしました。いや、気になっていたんですよ、この作家さん。
あとがきは書評家の福井さんでして、「藍沢砂糖」さん、「藍沢すな」さんというペンネームで応募されていた投稿経歴が書かれています。いや、ほんとすごいですね。ビッグネームの最終候補に何度も残ってらっしゃる。

お名前に見覚えのある方も多いのでは?

 

作品のあらすじは?

前代未聞のホラーサスペンス!大阪市内の小学校で35名が虐殺される襲撃事件が起こった。犯人はアリアと名乗る女。彼女が鈴を鳴らすと、人々の体がひとりでに浮かび上がり、生きたままばらばらに引き裂かれる。その場にいた誰もがパニックになる中、警察官・夏木には見えていた。アリアの口から生み出された巨大な犬の張り子が、人々を嚙み殺し、蹂躙するさまが――。一部の人間にしか視認することのできない犬の張り子の思念物体を用い、人を殺したと自白したアリア。しかし、科学的に証明できない殺害方法をとった彼女を、裁くことはできない。「無罪になり出所したら殺戮を繰り返す」と公言するアリアを止めるため、夏木は彼女の犯行を証明しようと奔走するが……。

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上の通りなんですが、ミステリ、サスペンス色はものすごく薄く、ホラーテイストではあるものの怖くもないという……。ものすごく中途半端です。ミステリとしては推理部分がなく、サスペンスというにはハラハラも驚きもなく、ホラーというには怖くないという。

キモである「見えない凶器(思念物体)による犯行をどのように証明するのか?」というミステリ&サスペンス部分はものすごく薄いです。むしろ、思念物体に纏わる言い伝え等のほうがホラーとしてよく纏まっていたと思います。

このあたりが評価されたのでは?

ネタが九割じゃないだろうか

思念物体vs法廷という、この対立構造

武器が特定できないのに、どうやって罪に問うのか? この設定にはリーダビリティがあります!

法廷ミステリーである

法廷ミステリーは出版社が求めているジャンルではないかと個人的に思っています。ヒット率がものすごく高い気がするんですよね。数が少ないわりに、爆発的に売れた作品がかなりあるかと。映像化もしやすいと思いますし、法廷ミステリーがうまく書ければそこそこ良い線行くと思います。

犯人が美少女

映像化を考えると、かなり重要かと。神秘的な少女が惨殺を行うというのは、法廷ミステリーとして考えるならば正しい選択じゃないかなと思います。

読みやすい

読むのに時間がかかりません。読みやすいというより、分かりやすいです。三人称で書かれているんですが、テイストは一人称的です。作中人物の考え(……むしろ作者の?)が大量に漏れ出しているためか、思わせぶりになにかを隠したり、行間を読む必要がないため、ものすごくさくさく読めます。

個人的に引っかかったところ

引っかかりまくったので、どうしても「?」となった部分を並べてみようと思います。正直、もうちょっとどうにかできなかったんだろうかと思ったんですが、これ大幅な改稿があったみたいですね(あとがきより@福井さん)。で、改稿部分が金魚→張り子だったようで、この張り子にまつわる話は面白かったです。

が、あんな思念物体と因縁のある場所へ、娘は連れて行かないでほしかった。自分が親だったら、離婚案件だ!

人物造形、組織造形が2時間ドラマとしてもどうかなと思う

登場人物が人形か記号にしか思えない。なんというか、ネットの普通と一般社会の普通はまだ乖離しているよといいたい。

たとえばですが、アリア(主人公)は惨殺する際、ある少女を伴っていました。警察が突き止めて話を聞きにくるわけですが、少女はアリアを「神」のように崇めている。個人的には、惨殺現場見てもなお、「アリアに会わせて」といえる少女が記号にしか思えなくて。

あと、作者は学校に敵対意識でもあるんでしょうか? 私も学校は大嫌いでしたが、ここまで教師や集団の悪い面ばかり(しかも内容はステレオタイプ)だと、逆にリアリティがないような。

警察に対しても同様ですね。某警察官の造形とか……いや、こんな感情制御できない子が捜査官ってと思ってげんなり(女性がこのポジションに着く場合かなり優秀なはずです)。この捜査官が学生時代にやってしまった件(正義感)とか……。

公的機関になんか恨みがあるの? この辺のネタを出してくるならもうちょっと掘り下げてほしかった(というか、扱いが軽い)。

いじめが云々というんですが、いじめの掘り下げも薄いため、事件を起こしたアリア(少女も含め)がただのシリアルキラーにしか見えない。事件発生装置的な。正直、少女をシリアルキラーとして書こうとしたのか、悲劇の末に至った惨殺(アリアも被害者)を描きたかったのかさえわからないんですよね。少なくとも、後者には読めない。まったく読めない。

ネタバレに過ぎるので書けないんですが、弁護士さんもキャラとして個人的には受け入れられず。せめて、そこへ至るのが当然と読者に思わせてほしいです。

逆にいうと、やっちゃダメなキャラ設定大全集的な意味で、読む価値があると思われます。

ストーリーの核が見えない

個人的には、作者の書きたいものが明確でなければならないとは思っていません。作者の主張が激しいと煩く感じるタイプなので、あんまり主張してほしくないなと思うタイプの読者です。

一般的に「ストーリーの核が見えない」というのは、作者に言いたいこと(モチーフ、描きたかったことなどでもいい)がない、または技術的に書き切れなかったなどが原因ではないかと思います。

が、本作に関していえば、「作者(?)の主張が煩すぎて、さらに幼すぎて、なにをやりたかったのかわからない」感じでした。

一番の残念ポイントは、作者が主人公をどう描きたかったのか伝わってこない点かなと思います。

まとめ

アイディアやガジェットはすごい作者だと思うんですが、それが活かされていないなと思います。ちなみに、一般文芸をお書きの作家さんは、一読するのもありかと。いいところと悪いところがすごく分かりやすい作家さんだと思います。勉強になると思いますよ。

当初の応募作では思念物体は金魚だったようですが、先行のホラー作品(マンガやゲームなど)と被るため張り子になったようです。新たに張り子で作られたホラー部分はよかったですが、インパクトという意味では金魚だったんだろうなと思います。

本作は小説として云々より、映像化を視野に入れるべき展開・キャラかなと思います。そういう層に受け入れられたければ、もっと映像映えする思念物体を使えばよかったのにと思わずにはいられない。

犬の張り子と書かれてはいるんですが、どうにも赤べこの印象がまとわりついてしょうがなかったんですが……私だけでしょうか?