小説の「人称」について。一人称、二人称、三人称の違い。

2022年6月15日小説の書き方

人称について個人的に気になっていることをまとめます。

人称の種類

一人称、二人称、三人称があります。また、三人称には一般に単一視点(一元視点)と神視点といわれるものがあります。それぞれの違いを表にします。なお、視点=カメラにたとえて説明しています。

一人称
概要「私は……」、「僕が……」というように、登場人物の目線から語られる物語になります。視点人物=主人公であることがほとんどです。
視点視点人物の目をカメラとする。視点人物の見えていること、知っていること、考えていることだけしか描けない。
二人称
概要「あなたは……」、「君が……」というように、視点人物の目線から別の人物が語りかける(または語られる)物語になります。視点人物の目線からある人物を描き出すため、相手に語り掛けるような小説が多くなります。
視点視点人物の目をカメラとし、特定の人物にフォーカス。一人称よりも他者の視点をいれやすい。
三人称(単一視点、一元視点)
概要「彼女は……」、「彼が……」というように、客観的視点から語られる物語になります。特定の登場人物の後ろに立って物語を描き出すような形です。客観視点を描きながら、登場人物(特定の1人)の内面描写も可能とします。複数の内面描写を入れる場合を多視点といいます。基本的に、彼女や彼を、私に置き換えても文章に破綻がありません。ほとんどの小説が、一人称の「私」を「彼or彼女」に変えただけのものといった印象。
視点登場人物の後ろ、または頭上にカメラがある。登場人物の視点からも描くことも、彼らの見えない視点から描くことも可能。
三人称(神視点)
概要「彼女は……」、「彼が……」というように、客観的視点から語られる物語になります。基本的に、登場人物の内面描写をほぼ入れません。入れる場合には、台詞のように地の文へ直接書き込んだり、神視点からの情報提供として描くことになります。神視点といわれる通り、登場人物を上から見て描く手法です。
視点登場人物の頭上にカメラがある。

ある状況をそれぞれの視点で描いてみる。

描き出す状況

「昼寝していたところ、物音で目が覚めた。」

一人称

チャイムの音ですっと意識が浮上した。だるい体を起こしかけたところで誰かの足音が聞こえた。誰かいたっけ。眠気には勝てずクッションに頬をつける。目覚めたときよりも容易く意識が落ちていった。

二人称

あなたはチャイムの音で目は覚めたのね。誰かの足音が聞こえたから、あなたは起き上がった。誰かが家にいたことに少しびっくりして、だけど眠気に負けてまた眠ってしまったのね。どうせ家族の誰かだと思ったのでしょう。

三人称(単一視点)

創子はチャイムの音で目を覚ました。体を気だるそうに起こしかけたところで誰かの足音がした。誰だろうと不思議に思ったけれど、眠気には勝てなかった。創子はクッションを抱きしめて目を閉じた。

三人称(神視点)

玄関チャイムが鳴った。眠っていた創子はぴくりと瞼を震わせた。微かに唸って体を起こしかける。部屋の外で足音がタタタっと響いた。創子は小さく息を吐いてクッションを抱きしめると、また目を閉じてしまった。

同じ場面の描写ですが、受ける印象はまったく違うものになります。描こうとしている小説の種類、ストーリー展開によって、人称を使い分けるのが大切です。

二人称は独特なのでわかりやすいです。また三人称(神視点)は、キャラクターと読者の距離が離れているため、大河ドラマのような作品や、ハイファンタジーなどにしか使えないかなとも思います。ようは、使いやすい作品というのも限られるということです。

そうなると、使い分けで困るのが一人称と三人称(単一視点)。実際のところ、これもしっかり使い分けるべきで、安易に「一人称のほうが書きやすい」とか「三人称のほうが好き」とか「三人称のほうがレベルが高い」(そもそも別に高くない)とかいう理由で選ばないほうがいいと思います。

とくに純文学を書かれている方々。文体、視点に工夫がある作品は、上に行きやすいと思います。独自の語り口をもった一人称とか、多少読みにくくても評価されます。場合によっては、読みにくいことこそが評価されることさえあるんですよ! 三人称にこだわるのはナンセンスですし、作風によっては三人称(神視点)で登場人物を突き放すなどもアリだと思います。人称の選び方からかなり重要なジャンルだと考えてください。

一人称と三人称(単一視点)の違い

主格が、私なのか、彼女(彼)なのかというのが大きな差になります。「彼は~」の彼を、私に変えても問題ないので、一人称を書ける人ならだれでも三人称(単一視点)を書くことが可能です。逆はなかなか難しいです。三人称(単一視点)を書けるならほぼ一人称も書けますが、うまい一人称がかけるとは限りません。というのも、一人称のほうが制約が多く、また文章から主人公のキャラクターを漂わせるほうがベターなため、三人称(単一視点)よりも扱い方はむしろ難しいからです。

もちろん、ほとんどの人がはじめは一人称のほうが書きやすく感じると思います(作文などで慣れているため)。そのせいか、「三人称のほうが難しい」とか「一人称に逃げるべきではない」という書き手さんが結構いらっしゃるのですが、うまく書こうと思うなら一人称はほんとうに難しいと思います。

一人称は語り口の上手さが問われるし、三人称は書き手の色を出すのがなかなか難しいように感じます。

一人称と三人称(単一視点)は、ともに内面・心情描写が可能です。

ですが、一人称視点では客観視点を描くことができず、主人公の知っている範囲しか描けないという制約があります。つまり、「(後になって知ったことだけれど)僕が寝ていたとき妹は……」というのはしにくいのです(私はしてもいいと思うんですが、否定するかたもいらっしゃる。見てきたように書くなと)。また客観描写が描けないため、出したい情報を適切に出せないことも多くなります(これを逆手にとって事実を隠した物語を書くと、叙述トリック小説などになります)。

しかし、三人称(一元視点)ではそれも可能。心理描写も可能。章ごとに視点も変えやすい。なんでもありな文体です。最初は三人称に戸惑うかもしれませんが、こちらのほうが書きやすいと思います。個人的には、誰が書いてもそこそこのレベルに達することが可能なのが三人称(単一視点)だと思います。初心者さんはまずはこれを試すことをおすすめします。ただし、こちらで一人称と同等レベルの特色を出そうとすると、逆に難しくなります。

繰り返しますが人称というのは物語にあわせて選ぶものです。どれを選ぶべきかよく考えることが大事だと思います。

どんな小説に、どの人称があうのか?

一人称

主人公の心情を描いた作品、主人公のキャラクターを出したい作品、主人公の誤解を利用した作品、叙述トリック(読者に誤認させる)、日記風、エッセイ風

傑作と思う一人称小説。『夜は短し歩けよ乙女』『マリー・アントワネットの日記』『消失グラデーション』

二人称

誰かに語りかけるような作品。過去をある人物を中心として描くような作品。

三人称(単一視点)

どんな作品にでもだいたい使える。主人公格の登場人物が複数いる作品、視点人物が変わりやすい作品、主人公一視点だが客観性を要する作品(例:警察小説)、主人公一視点だが視点人物のキャラクター性が薄い作品、客観性が必要とされる作品

三人称(神視点)

設定の説明が必要な作品(例:SF、ファンタジー、時代小説)。

おわりに

もう一つ、一人称、二人称、三人称(単一視点)で状況を書いてみました。同じ場面でも人称によって与える印象がかなり違うと思うんです。どの人称が合うのか、よく考えて選ぶことが大事だと思います。