自作に自信のある人の陥りがちな欠点1 冒頭編

小説投稿と通過

知人から下読み頼まれたり、公募コンテストの投稿作を読んだりしていると、「普通に読めるし、うまいけど受賞はきびしいかもな(または、受賞しても売れないだろうな)」と思う作品がけっこうあります。その中には非常にクオリティが高く、出版されているのと変わらない(というかそれ以上に読める)と思うものも。

だったら受賞させてくれよと書き手は思うでしょう。でも、自分が本を買うときのことを思い出してください。

好きな作家、話題になっている作品、知人から「面白かった」「あの作品ヤバイ」とすすめられた作品、あらすじを見て興味を惹かれた作品しか買わないでしょう?(イラスト買いは今回ちょっと棚上げさせてください)

穴がなく、それなりの作品に手が伸びますか?

一冊くらいは手を出したとしても、次もその作者の本を買いますか?

小説技術よりも、「これヤバイ」「手が止まらない」「他にはない」って作品を出版社が求めるのは当然なのです。

私は「公募で勝つこと」=「出版できるレベルの文章・内容の作品」ではないと思っています(そういうのが受賞することも多々あるんですけど)。

今回は、常々気になっている「おそらく本人が思うほどにはできてない」点についてまとめていきたいと思います。

※長くなったので数回に分けてお届け予定です(間はあくと思いますが……)。今回は、「冒頭」についてまとめてみました。
※エンタメ作品について書いています。純文学は、エンタメと違って「先を読ませる」必要が薄いですし、冒頭で善し悪しが分かりにくいと個人的には思うので。

下読み選考委員が「冒頭が……」っていうよね

何十作も続けざまに読んで気づいた

冒頭で引きつける作品が少ない。いや、ほんとびっくりするんですが、冒頭からするする作品に入っていける作品ってほんと少ないです。

おそらく十本に一本もないと思います。公募の一次通過の目安はだいたい1割前後ですよね(賞によっては2割、3割のところもありますが)。それよりも少ないということです。

おそろしいのは、書き手がその冒頭をとても工夫して書いている(と思われる)点。中には、「冒頭をすごく練った」、「冒頭から読者を引き込む作品だ」と自信を持ってらっしゃることもあります。

わからなくはないです。私も、大昔に友人同士で下読み交換をしていた頃には、どの冒頭もそれなりにできていると思っていました。もっと分かりやすくいうと、これほど力量の差が出ることに気づいてなかったです(友人・知人の作品だと読む意欲が高いので、冒頭をそれほど気にしなかったせいかもしれないですが)。

でも、複数の作品を大量に比べて読むとわかります。Webに上がった、同じ賞の応募作を20も30も続けざまに読んではじめて、確かに下読みさんが「冒頭が!!」と叫ぶよねと理解しました。

冒頭の重要性

異世界転生や転移、悪役令嬢ものなどの「なろう作品」が流行るわけです。あれらは冒頭を読む前に物語の筋が見えています。いうなれば、冒頭の前に「読者を作品に引き込んでいる」んです。

早い段階で物語の筋を読ませるのは大事なんです。その証拠に、一般文芸はログラインを重視され、ラノベはタイトルで語り(長文タイトルも減ってはきましたが)、ライト文芸は「○○もの」とカテゴリ分けをする。

今の読者の多くは、「我慢して読む」ことをしません。冒頭を含む前半が重要なのです。

冒頭ってけっこうテンプレ化してる

何十作品も続けざまに読んでわかったのは、冒頭のテンプレ化です。キャラクタや世界観、設定内容が異なるだけで、筋はわりとテンプレ化しています。

先にいっておくと、「テンプレを回避せよ」といいたいわけではありません。逆です。正しいセオリーだからテンプレ化していくんです。じゃんじゃんテンプレに乗っかっていいと思います。

でも、応募者が様々な情報を得ることが簡単になったせいか、テンプレに乗って書いてくる人はとても多いです。その中で目立つには工夫が必要だといいたいんです。

いくつかテンプレと、その一例を挙げていきたいと思います。

主役(や準主役)が困っているシーンからはじまる

・お金がなくて困っている
・トラブルに巻き込まれる
・主人公に相談が持ち込まれる
・道に迷っている
・困っている→逃げ出すパターンもあるかな

事件やイベントが起こる

・殺人などの事件が起こる
・人外の絡んだ事件が起こり、架空の組織が出る
・文化祭などのイベントが開始
・遺産相続問題が持ち上がる

他の登場人物との出会い

・人事異動や転校、クラス替えで新しい環境へ
・主人公が後のヒーローまたはヒロインと出会う
・重要人物のもとを訪れる(探偵のもとへ依頼者が、皇帝が後宮の妃を訪れるなど)
・旅先で人と会う
・事件現場で友人を見かける

カットバックから入る

・過去の事件のカットバック
・トラウマになった出来事のカットバック
・過去の記憶(重要事項の断片)を出しておく。曖昧な記憶であることが多い。
・または未来の確定事項を描く

ポエム的なものから始まる

・文章表現力を見せたいのか感覚的な言葉の羅列をする(成功している作品はほぼないです)
・イベントの概要を伏せ、主人公の感情だけを書き込む

これらが悪いわけではない

他にもあるかと思いますが、最近よく見たなと思うものをリストアップしました。よく見る導入ですし、物語の立ち上げてとして間違った選択ではないと思います。

多くは「主人公の現状を読者に伝える」、または「インパクトのあるシーンを頭に持ってくる」を実践しようとしているのかなと考えます。読者が作品に入れるように心を砕いているのはわかるんです。

では、なにがまずいのか……。

書き方です。「現状(過去・未来)を伝える」だけでは退屈ですし、「インパクトがない」ことが多すぎるんですよ。以下で、具体例を挙げながら説明していきます。

いまいち引き込まれない冒頭

説明からはじまる

キャラクターの説明

次から次に登場人物が出てきて、その説明がされます。読者は「覚えられません!」としかいいようがない。

主人公のキャラがすでに立っていて、読者が物語の状況(ステージ)がわかる状態ならば、するする入っていきます。うまい人はうまい。そのため、人物の羅列からはじまる出版作品や人気作があるじゃないかといわれそうですが……。

今回、私が問題視しているのは「物語の面白さを読者が把握していないうちに始まるキャラ説明」です。

読者を引き込んだ上で、スマートな登場人物紹介ができている作品は本当に少ないです。

たとえば学園もの。主人公が立っていないうちから、ヒロイン(まではわかるけど)、友人、友人2、ヒロインの友だち、ついでにライバルのように、名前キャラが外見や属性付きで説明されても、申し訳ないけれど「覚えられない……」という感じになりませんか?

事件が起こるタイプの作品でもそう。事件を起こしたことに安心して「引きは充分」と思い込むのか、事件関係者、捜査関係者を次から次に説明されるケース。そんなたくさん一度に覚えられません。

また、殺人事件が起きた、爆発事故が起きただけでは「引きは充分とはいえない」んです。

まずは、物語のステージを読者が把握し、「面白そうだな」と続きが気になったところで、主要キャラを紹介してください。

世界観の説明

けっこう多いです。そして、だいたい「主人公(場合によってはその周りも)」の説明を含むので、ひたすら設定を読まされている気になってきます。

これに当てはまるのは、ファンタジーやSFの作品が多いです。

例 ボーイミーツガール系のファンタジー

倒れていた少年を父親が連れ帰る→少女は興味津々→目覚めた少年は全ての記憶を失っていた。

少年になにがあったのか、どうして記憶を失ったのかなど興味をそそりそうな導入です。でも、書き方次第では「それだけ」になってしまうんです。

たとえば、父親が連れ帰り、看病をする過程で設定を書き込んだとします。この国の荒廃具合を書き、水源がおかしくなって荒廃ている状況を書き、さらに今の王様が暴君だと書き……少年が目覚めたら記憶をなくしていた。「え?」と驚く少女(とその家族)。

先行きが読めますか?

むしろ、荒廃しているのは水がないせいで(さらに王様が暴君で水を分配せず中央に集めている)、少年は水源を守る(今は滅びたとされる)何とか族の髪色をしていて、でも痩せこけ、刀傷もある……でも助かりさえすれば水源への情報があるかも!!→と思わせたところで、目覚めたら記憶を失っていたという絶望。

このほうが先を読めるし、どうなるんだろう?と興味を持てませんか?

が、わりと皆さん「今は滅びた種族の末裔かも」という情報を中盤くらいまで秘密にしたりするんです。で、冒頭で「珍しい髪色だ」という伏線は入れて満足していたりもします。「髪色になにかあるんだろうな」という伏線よりも、「滅びた種族の末裔」という情報のほうが強いです。そして、読者は先を想像しやすくなるし、今後明かされるだろう謎をいくつも想定します。

情報を小出しにするのは確かにいい手法です。でも、情報を出し渋るのはあまりよくありません。

情報を隠しすぎて、読者が物語に興味を持てなかったり、ストレスを感じたりする導入になっている作品はけっこう多いです。情報の出し方には気を付けましょう。

また、設定の羅列はよくないと私は考えています。会話やストーリーの中でうまく説明するのがベストです。が、この手の指摘をすると、だいたい次のような返答が返ってきます。

・世界観が分かってないと作品に入っていけなくない?
・ここさえ我慢してもらえれば、続きには自信がある。
・説明すべきことが多すぎてどうしようもない。
・これでも説明部分は減らしている。

仰っていることは理解できます。ですから、基本は「そうだよね」とすぐに引くようにしています。以前、この点について「でも~、だけど~、いや諦めるなよ」と意見を交わしたこともありますが、今はしません。相手に届かないからです(届かないだけならいいけど、「こいつわかってない」的な認定をされて関係悪化することもあるんですよ)。

・これが自分の作風。
・それだけの世界観を作り込んでいるんだから仕方がない(という自信)。
・自分はうまく書けているし、出版作品にも冒頭で説明が続くものはあるという主張。

わかります。たしかにその通りですよ。難しいことを要求しているのはわかっています。

でも、「それだけの世界観を作り込み」ながら、「物語の流れの中で少しずつ世界が明らかになっていく」作品もあるんですよ。少しずつ明らかになる世界観に心が躍ってはまり込む作品が。

「そのようなトップクラスの作品と比べるな」といわれればその通りなんですが、あえて厳しい言い方をさせてください。

作者の都合など読者は知らない。うまく書けていない作者の言い訳でしかないんです。

逆の言い方をすると、ほとんどの人が「世界観(と登場人物の説明)で手間取っている」わけです。ここがうまい人は下読みや編集さんからプラス評価をされると私は思います。

ファンタジーやSFでは、世界の立ち上げがとても難しいのはわかります。でも、その説明部分で挫折する読者は多いんじゃないかなと思います。ここをどう処理していくのか、世界をどう立ち上げていくのか。諦めるのはもったいないと私は思っています。

もちろん、冗長な世界観の説明からはじまる傑作もあるのはあります。ただ、その手の作品はわりと長めです。大長編を読める読者は、世界観の立ち上げを許容できる人が多い気がします。ですが、(一部をのぞけば)新人賞は、およそ原稿用紙300~500枚が主流です。この枚数で書くとき、導入でもたつくのは本当にもったいないんですよ。

イベントは確かに起こっているが、それだけ

キャラのところでもちらっと書きましたが、殺人事件が起きた、爆発事故が起きただけでは「引きは充分とはいえない」んです。

これ勘違いしている方がけっこう多くて、指摘すると「冒頭で事件が起こってるでしょ?」といわれるんですが……今どきの作家志望者さんは冒頭を重視しているので、イベントを冒頭に持ってくる作品って多いんですよ。つまり、それだけでは目立てないんです。

何十作も読んで思ったのが、

・イベントを冒頭に持ってきた作品がけっこう多い
・イベントが起きただけで興味を引かれない作品が多い

ということです。正直、驚きました。「死体を転がすだけじゃだめだな」と。

例を挙げていこうと思います。

例 イベントの処理方法

①事件が起こる

事件が起こり、警察が介入するだけでは興味を引けません。なんらかの「引き」が必要です。事件へのヒントをチラ見せしたり、次に狙われるのは自分(や自分の周囲)かもしれないといったサスペンス性を入れたりすると興味が持続します。

・工事現場で集団リンチにあった遺体が見つかる→その相手が元カレで、直前に意味不明のメールが送られてきていた
・友人が線路に突き落とされる→次は私かもしれない

②イベントが起こる

災難が起こる、文化祭などがはじまるシーンでは弱いです。起こった→その後が重要です。

・住んでいたアパートが火事になり、上司が「しばらくうちに泊めてあげるよ」という→家を訪れるとその娘が元カノでした→しかも別れた理由は俺が悪い
・文化祭がはじまり実行委員長を押しつけられる→そこに犯行予告が

③すでに事件・イベントが起こっている

事件が起こって、探偵や警察(特殊警察)が出動するだけでは弱いです。

・事件が起こり、探偵に依頼する→殺人事件なら次は私の番かもと依頼者が恐れているとか、汚職などであれば自分が犯人として疑われいるが証拠(偽)があって捕まりそうとか明確に
・妖怪が街中で事件を起こし特殊部隊が出動→主人公は妖怪をよく知っていて、あいつがこんな事件を起こすはずがないと考える

①「遺体が見つかる」「線路に突き落とされる」だけではリーダビリティは持続しません。読者の読む意欲を継続させるには、「引き」が重要なんです。

②のような場合、「元カノが判明するまで」、「犯行予告が届くまで」にページを割く作品がけっこうあります(たとえば火事が起こってその夜はネカフェに泊まって、困っている描写を入れて、同僚に相談していたら上司に聞かれてしまって……と余計な流れを入れるような。さらにすごいのになると、このあと上司の家に行くまでにさらにページを割く。いらないですから)。読者が「え?」となる部分まで、一気に情報を出していったほうが興味を引きます。

③の場合、なにが起こったかをまとめるだけで終わってしまうことが多いです。それだけでは「引き」が薄いんですよ。

情報の出し方に注意しましょう!

カットバックやポエムは使い方に気を付けて

プロローグにカットバックを入れる

よくあるカットバックは……

・恋人や家族を失ったシーンから入る
・未来で恋人や家族を失う暗示シーンから入る
・過去に誰かと出会った回想(あいまい)から入る
・過去に遭遇した事件の回想(あいまい)から入る
・ライバルとの邂逅シーン

インパクトのあるシーンだったり、後の伏線になるシーンをプロローグにもってくる方は多いです。

重要なのは、「インパクトのあるシーンを入れた」=「読者の興味を引けた」と思い込まないこと。いまはこの手の作品はけっこうあるので、これだけでは興味を引けたとはいえません。この後が重要です。

プロローグのあと、さらに「読みたい」と読者に思わせる工夫が必要です。

たとえば、幼い頃にモンスターの襲来で家族と家を失ったシーンをプロローグで描きます。そこから、孤児院で大変な目にあい、逃げだしたところで善良な夫婦に引き取られ、さらにその夫婦をモンスターで失う……のようにするのはオススメしません。主人公の不遇が書きたかったのだろうし、同じ悲劇を繰り返すことで主人公のモンスターへの憎悪をかき立てたかったのだろうと理解はします。

が、主人公が「どうなっていくのか」がわかるまでにページを割きすぎなんです。もっとはやく、読者に続きを「読ませる」ことが重要です。そして、読者の想定を超えた方向に成長していくなどの工夫が必要なんです。

短いポエムはいいけれど、ポエム調の長い導入は読者がついていけないかも

冒頭に短く印象的なポエムがあるのはいいと思います。

ただ、それがあまりに長く、重要な伏線を隠しているとなると……読者としてはつらいものがあります。ポエム調なので分かりにくいうえに、感覚的すぎて合う・合わないもあります。

作者は満足感があるのか導入に自信を持っている方が多い印象です。でも、多くの読者はおそらく作品に興味をもてません。

よほど上手い書き手でなければ、やめたおいたほうが無難です。

まとめ

ほかにもいろいろ気になりましたが、うまい冒頭を書けている作者ってほんとうに少ないです。うまく書けていると思っている方も一度見直しをしてみてはいかがでしょうか?

また、「~~だから仕方が無い」「プロの作品だって~~だ」と思っている方。わかります。が、それってご自分のスキル不足を理解しているから出る言葉ですよね。もう少しがんばってみませんか?

最近、プロの作品が低レベル化しているとは私も感じます(というか、脚本のト書きのほうがましなのでは?という作品、日本語としてどうなんという作品も珍しくなく、作者に対してというより「編集者、えー汗汗汗」と思うことが多い)。ですが、そこと比べても仕方がないと私は思います。

書くのは苦しい作業だと思いますし、できていない点を自覚するのも辛いと思います。でも、そことぜひ向き合ってください!