どうやっても一次が通過できない(一般文芸編)
「どうやっても一次通過できないんだけど、なんで?」と顔見知りに聞かれたので、自分なりに気づいた点をまとめてみようと思います。
その方の作品は、文章もよく書けていてるし、しっかり読めるものに仕上がっています。掴みもあり、ラストまで面白く読めるものが多いです。どこが悪い?といわれても、ここといえるはっきりした欠点はありません。
ではどうして落ちるのか? 簡単な話です。このレベルの書き手がごろごろいるんです。
いろんな方の投稿作品を読ませていただいた感じだと、応募作の5割はとりあえず読めるレベルにあるのではと思っています(割合は賞の大きさやジャンルにもよりますが……)。
では、一次通過する作品と落ちる作品の差はなんでしょうか?私の考えをまとめてみたいと思います。
※一般とラノベではかなり違う印象です。自分の知るかぎり、一般でいい線行くのにラノベでは一次落ちとか、ラノベでいい線いっても一般では一次も通過しないという人はかなり多いです。どっちもイケる人もいらっしゃいますが、少数派なので、各ジャンル毎に考察してみたいと思います。
ちなみに、純文学編はこちら↓から。
前提事項(一次とはいえレベルは高い)
一次落ち作品でも、普通におもしろく読めるものはたくさんあります。
そもそも最終通過経験者でも一次落ちすることがあります。過去には、最終までいった人やデビューした人とも多少の交流がありまして、最終直後に一次落ち、デビュー直前に一次落ちなんて話も聞いたことがあります。それくらい、一次のレベルは高いです。
たとえば、
・大きな瑕疵がない
・文章も普通にできている
・小説のお約束に添っている
・普通におもしろい
・別作品での最終や上位選考の実力者(俗に言うハイワナビってやつです)
これでも、落ちるときは落ちます。逆にいうと、このレベルの作品が多数送られてきていると考えたほうがいいです。
その中から、一般文芸だと通過はおよそ1割です。10本中1本と考えるといけそうな気もしますが、下読み視点で考えてください。一回に読むのが30本とすると、3本上げて、27本落とす(50本なら5本上げて、45本落とす)になります。
上位の実力者も多数応募してくる中、27本を蹴落とす力が作品にありますか?
賞によっては2割くらい取るところもありますが、さらに少ないところもあります。一次が難しいことは理解いただけたと思います。
でも、受賞作を読んで、既存の作家の作品を読んで、「なぜこれに負けるんだ」と考える方がいらっしゃるのもわからなくはないです。それなりに小説が書けていれば「何が違うんだ」と腹立たしく思うのも当然です。
ただ、選考している人たちが見ているのはそこじゃないんですよ。小説として形が整っているのは前提で(整ってないけどアイディアとか、なにかが特化しているというだけで通過することもある)、その先を重視している気がします。
競合が多いテーマ、素材を使っている
よくあるテーマ、素材を使っていませんか? テーマや素材に合ったキャラクターにすると、このキャラクターまでもが似てしまいます。すると、選考の箱に似たような作品が複数入ってくるわけです。
一般文芸(恋愛)
たとえばですが、「過去に誤解で別れた恋人が再会する」とか、「恋人を事故で失った人が新たな恋を見つけて幸せになる」とか、「妻とうまくいかない男が実は若い女性から一途に思われていた(夫とうまくいかない女が若い男性と恋に落ちる)」とか。それから、「親友と同じ人を好きになって、友を取るか、恋を取るかと悩む」とか、「婚活事情」とか。わかりやすいストーリーラインなので、ある程度の文章力があればそれなりに読めるものになるでしょう。
恋愛をテーマにしたのはそこそこ多いと思います。よほど突き抜けるか、キャラクターに感情移入できるかしないと一次で落ちると思います。
突き抜けるっていうのは、ちょっとした設定を足すくらいじゃ難しいと思います。
たとえば、親友と同じ人を好きになった的なのだったら、親友とのデスバトルに持っていくくらいしないと目立たないかも?(恋愛というよりホラーかサスペンスになりそうですし、需要があるかは謎ですが。ただ、『婚活島戦記』がこのミス隠し球で出ているので、このくらい突き抜けたほうがいいと思います)。
設定を足すで最初に思いつくのが「記憶喪失ネタ」。一時期流行ったし、売れたのせいか、記憶喪失を絡める人も多い印象です。でも、既に出し尽くされた感じがします。使うならよほどのネタでないと公募では厳しいかもしれません(記憶喪失ネタを使うとだいたいご都合主義になりますし)。
恋愛ジャンルは不倫も多そうですが、よほどうまく書かないと突き抜けることはできないと思います。とくに、やたらもてる既婚男性(女性)が主人公のものは、ご都合主義小説が多くなりがちだと思います。ご都合主義の作品は、キャラクター造形がうまく、ストーリーが面白くなければ、読者は鼻白んでしまうとも思います。
恋愛ものって、たぶん書き手にとってはすごく満足のあるネタだと思うんです。感情移入して書くと思うので、二人がハッピーエンドになるととてもカタルシスを感じるでしょう。
しかし、書き手の感じたものを、読者が感じられないことが多いジャンルだとも思います。視野が狭くなっていないか、独りよがりになっていないか、よく見直してください。
一般文芸(恋愛以外)
最近だと、LGBTをテーマにしたものとか多そうな印象です。これも通り一遍物だと目立たなくなると思います。
また、差別はいけないといったあまりに道徳的なもの、自分はこう思うという強い主張は足を引っ張る気がします。というのも読みたいのは小説なんです。テーマに対してどう考えるかは読者に委ねたほうがいいです(作者の意見や考えを書くなといっているわけではなく、それを物語に落とし込まなければいけないという意味です)。そうでないと読者は考えを押しつけられたように感じ、小説を楽しめません。
つまり、前半ではAに感情移入していたけど、後半でBの本心を知り、そういう考え方もあるのかと思考が揺さぶられたとか。
LGBTって「こういうもの」だと思っていたけど、「そういう人もいるのか」と目から鱗だったといった感じとか。押しつけられたのではなく、読者が自分なりの回答に至るように持っていったほうがいいかと。ただ、純文学でおおよそ書ききられてしまっているので、「新しい」を見つけるのは難しいと思われます。
正直、いじめ、夫のモラハラ(妻のモラハラ)、貧困なども多そうな気がしています。この系統は描写やネタがテンプレ化している気がします。そこで目立つのは難しいです。同じ箱に似たようなものがあれば、目立つものがないとしてすべて一緒に落選箱にいきそうな感じがします。
あと、一般エンタメに多いのが「すごくうまいんだけど、響かない小説」です。
どういうのかというと、田舎から都会に出てきた人が、都会の暮らしに疲れて田舎に帰ります。で、その過程で過去とか現在の思い出が公差し、雄大な田舎の景色に癒やされる(またはなにかを掴む)とか。他にも、不倫に疲れて田舎に帰ってきた人が、家族、友人と触れあい、なにかをはじめることで前向きになるみたいな作品です。あとは、過去を見つめ直す系の作品。
田舎の描写が上手く、主人公の感情変化もうまく、カットバックを上手に入れるだけの実力もあって、小説としてはたいへんよくできています。が、面白くはないんですよね。そうなると、同じ箱に目立つ作品がなければ上がる可能性はあっても、緩急のあるエンタメが複数あるとか、珍しい視点で書かれた小説が入っているような箱では落ちるんじゃないかと思います。
べつにテンプレネタが悪いわけじゃないんです。同じような小説が送られてくる中で目立てますかってことなんです。
一般文芸(歴史・時代小説)
歴史ジャンルは全体的にうまい方が多いですし、歴史のストーリーが下地にあるので物語性もあります(そういう時代・主人公を使うからだと思います)。
そのため、なんらかの新しい解釈とか、いままでにない主人公キャラという特徴がないと上位には上がりにくいかなと思います。
また、このジャンルの方の中には、あまりに淡々と(論文みたいな)書き方をする方がいらっしゃいます。文章自体はうまいといって差し支えないのですが、盛り上がりも淡々としてしまって面白さが今一つな作品も多いです。
一般文芸(ミステリー)
おそらく書き手は手に汗握るサスペンスとか、アイディア秀逸な本格ものを書かれているのだと思います。本当にそうなっているか要確認です。「推理部分がいまいち(無理がある、ご都合主義すぎる)」か、「どこかで見たネタ」が多いです。
トリックに無理があってもデビューしている、または売れている作品さえあるので、「なぜ自分のがだめなんだ」と思うのはわかるんですけどね。無理はあるけど、ネタとしておもしろい、これだけおもしろいなら気にならないと読者が判断できるかどうかが重要です。
軽微なものはある程度許されるでしょうし、世界観(や設定)で許される瑕疵もあるでしょう。ですが、重大な瑕疵、または多くの読者が納得できないだろう瑕疵だと、一次は難しいと思います。正直、瑕疵のないミステリーはなかなか難しいと思うので、どこまで詰めていけるかが重要かなと思います。
また、サスペンスはうまく書かなければ手に汗は握れません。まず「魅力的な謎」を用意すること。そして、先が気になる展開にすること。この二つを揃えないとダメです。だいたいどっちもできていない(または魅力的な謎ができていない)ことが多いかなと思います。「死体(事件)を転がしておく」=「魅力的な謎」ではないことを理解してください。
ミステリの書き手は力業(または思い込み)でラストに持っていくことが多いので、本人は「傑作、すごいネタ」と思っていても、読者にしてみれば「無理がありすぎる(ご都合主義)」となるケースがほんと多いです。
ついでにいうと、薄味のミステリーの応募も多いようですが、読者は濃いのを求めています(それを出版社も理解していると思います)。ある程度の濃さは必要です。
ページをめくる手が止まらない
続きが気になるように書けていますか?
これができている作品はそう多くないです。とくにまずいのが、恋愛小説とミステリー(とくにサスペンス)でできていない作品。この2つは、ストーリー展開が魅力でなければ一次通過は難しいと思います(恋愛小説に関しては、極普通でもキュンキュンできるなら可能性はあると思います。ただ、大手出版社の一般公募ではちょっと厳しく、どちらかといえばライト文芸やWebの賞のほうが有りかなと思います)。
先ほど、ミステリーでは「死体を転がす」=「魅力的な謎」ではないと書きました。恋愛小説でも同じで、掴みが大事だからと「はやい段階でヒーローとヒロインを出会わせておく(または、過去に出会っていたカットバック的なものを入れる作品」が多く、それで作者が安心してしまっている感じします。安心してはだめです。
死体を転がしたから、二人が出会ったから「つかみはOK」と思い込んでいませんか?
今の書き手(とくにハイワナビ)はそのくらいの対策を練って作品を作ってきます。そのため、死体を転がしただけとか、主人公が出会っただけでは、弱いんです。これらは最低限の作法でしかない。
二人を出会わせる
落とし物に気づいて追いかけるとか、電車で痴漢にあったのを助けてもらうのようなありきたりな出会いでは、続きを読もうと思えません。
出会っただけではなく、これからどんな物語が繰り広げられるかを読者に想定させる(そして裏切る)、または、どんな物語になるのか想定できない(けれど気になる)ようにもっていく必要があります。
その点、『君の膵臓を食べたい』は、出会いのインパクト、そして想定通りの物語に引き込み読者が退屈に思い始めたところで裏切るという、とんでもない快作でした(賛否あるのは知ってますし、公募で落ちたという噂も聞いていますが、タイトルのインパクト、ネタ、読者への裏切りなど、投稿者が見習うべき部分がたくさんある作品だと思っています)。
つまり、普通に出会い、普通にモダモダし、なんかうまくいってラブラブになるというストーリーでは、読者の興味は引けないのではと考えます。
死体を転がしておく→ 死体を転がし、物語を推進する魅力的な謎を用意しておく
「夜道を歩いていたらビルから男が落ちてきた。自殺かと思われたが、自分は屋上に人影を見た」では弱いです。むしろ、このあとの持っていき方が重要です。
・翌日から自分が狙われる(犯人は誰だ。自分は魔の手から逃げられるのか)。
・それが自分の妻(夫、恋人、子ども)かもしれない。
・すぐに警察が来たがビルに人気はなかった(密室)。
・落ちてきた男が友人で、自分が警察に疑われる。友人からは、謎のメッセージが。
といった「謎」を用意しておかなければなりません。事件を冒頭で起こすのは誰でもやっています。それだけでは足りないんです。
文章力で競うのは難しい
一般文芸の書き手は文章のうまい人が多いです。周囲に多少うまいと言われる程度では、強いアドバンテージにはなりません。
また、文章は書くほど上手くなりますし、編集も自分が育てるくらいの気持ちでいるとおもいます。そうすると、ネタとか、視点の面白さとか、勢いとかを重視するのだと思います。
つまり、文章に自信を持っている人は、文章以外のところに力を注ぎましょう。武器が文章一つではなかなか厳しいです。
上手いひと思っている人たちの多くが……
・つるつる読める
・語彙力があって同じ言葉が続きで出ない
・表現力がある(ごく一般的な)
・地の文が書けている
・情景描写と感情描写を合わせられる
のような、小説技術的な面に注視している気がします。申し訳ないんですが、これができている人はたくさんいます。マジで多いです。そうなると、上手い下手はある程度好みってことになってしまいます。
文章だけで特別目立つような書き手は、段違いなんです。多少書けるレベルを超えて、感性が抜けてます。その人たちと文章で張り合うのはかなり難しいです。そして、そのレベルの文章が書ける人たちでも、ストーリーの面白さ、ネタの新規性、よほどの完成度がなければ、上位にいっても最終まではいけません(または最終で落ちます)。桁違いって人でも取れないのを見てきたので、文章が書けるは武器の一つくらいに思ったほうがいいです。
一次通過するには?
一次はほぼ落ちないとか、何度も上位通過しているハイワナビの方がいます。どうして彼らは上に上がれるのか?
私が知る限りでは、次のどれかに複数当てはまる感じです(ある程度の文章力、最後まで書き切れていること、大きな瑕疵がないなどは前提条件とします)。
・総合力がある。
・ネタがいい。
・視点がおもしろい(人称ではなく、着眼点)
・小説の売りが明確。
・キャラクターがいい。
・続きが気になる。
・独特(この作者にしか書けない世界)。
・デビューしたら売れそう(なネタ、ストーリー、キャラ、世界観)。
・明確な武器がある。
普通によくできているレベルでは、数百作の中で目立てないんです。自分が「目立つ」ポイントを見つけてください。ハイワナビの人たちは、1つではなく、2つ、3つと複数の武器を持っています。
公募とはそれだけの武器を持っても賞は取れない怖ろしい世界なんです。一次を通過することが難しいのも当然といえば当然。低いレベルで「できている」ではなく、数百の中で目立てるかどうか、本になったときに売れるかどうかを考えましょう。
まとめ
厳しいと思いますが、「普通」では一次は通りません。文章力がしっかり書けている、創作のルールを守っている、ある程度の面白さがあるでは通らないと考えてください。
自分では自分の欠点になかなか気づけません。読める読者から意見をもらってください。褒め合って、なぐさめ合うのは創作を続けていく上で重要だと思います。心が折れたら書けなくなります。でも、何故落ちるのかに向かい合うことが、上へ行くために重要だと自分は考えています。
率直で、的確な意見を出してくれる読み手はほぼいません。私自身が、いいたいことの半分もいえずにお茶を濁すことが多いです(気心知れた相手は別にして)。
「いい読み手を見つける」ことが一次通過の最短距離ではと個人的には思っています。