第三期カッパ・ツー『バイバイ、サンタクロース』考察
正式なタイトルは『バイバイ、サンタクロース: 麻坂家の双子探偵』です。
定期の賞ではないので知る人ぞ知るといった賞です。阿津川辰海さんを排出した賞として知られています(第一期カッパ・ツー)。
なお、作者の真門さんは創元社の「第19回ミステリーズ!新人賞」の受賞者。2冠です。
ミステリーズ!新人賞の受賞作『ルナティック・レトリーバー』も読みましたが、ガチガチの本格。トリックがわかりにくく、理解できるまでに時間を要しました。遅れてやってくる「そういうことか!」の衝撃。私の理解力が乏しいのか、説明がわかりにくいのかは、作品を読んでご判断ください。
※その後、ミステリーズ!受賞作を入れた短編集『ぼくらは回収しない』も読みましたので、こちらも感想も本記事に追加しました。
というわけで、注目していた作家のデビュー作です。期待通りの本格小説でした。
同時受賞の『あなたに聞いて貰いたい七つの殺人』の感想は↓
作品のあらすじ
特別に優秀な児童が通う帝都小学校で、群を抜く知能を持つ双子の兄弟、圭司と有人。刑事を父に持つふたりはミステリが大好きで、身の回りに起こったさまざまな謎に挑戦する。桜の葉は何故ちぎり落とされた?雪上の奇妙な足跡の鍵を握るのはサンタクロース?密室殺人現場からの脱出経路は?トリック解明にロジカルに迫る圭司と、犯人の動機や非合理な行動に興味を持つ有人。6年生の冬、そんなふたりの運命を大きく変える事件が待っていた―新人発掘プロジェクトから誕生した、Z世代による本格ミステリの新解釈!
紀伊國屋書店
計6作の短編連作。「最後の数千葉」「消えたペガサスの謎」「サンタクロースのいる世界」「黒い密室」「誰が金魚を殺したのか」「ダイイングメッセージ」の六本です。
メインの語り手は有人。探偵とワトソンを混ぜたような立ち位置で、メイン探偵は圭司のほうになります。この双子がとにかく小学生っぽくないです。そのわりに、やたらと小学生っぽい部分もあり、アンバランスさに笑ってしまいます。
実在の小学生にも子どもっぽくない子はいるからなと、本作の語り口と推理力を受け入れられれば面白く読めると思います。あと、圭司のエキセントリックな性格を受け入れられるかも重要です。
ある意味では、これらすべてが本作の「納得材料」になっていると思います。そのため、これを受け入れられない方は、おそらくこの作品は合わないと思います。
このあたりが評価されたのでは?
しっかりした本格
これに尽きると思います。本格らしい本格でとてもよかったです。
伏線がうまいです。これは伏線になりそうだなと思いながら読むと、実際に伏線になっていることがほとんどでした。ただ、その伏線がどのように使われるかは、探偵が推理するまでわかりません。推理パートを読みながら、「伏線なのはわかっていたけど、こう来たか」とわかる感じです。うまいなと思いました。
ロジックもしっかりしていて、短編とは思えないほど読み応えがあります。
有人が推理し、さらに圭司がひっくり返すという構成が多く、本格の定番といった感じで好印象です。
本格の闇鍋的短編集
短編が6本もあるので、闇鍋的なおもしろさもありました。ようはバラエティに富んでいるということです。
犯人当て、密室……(あまり書くとネタバレになるので)など多種多様で飽きません。
おすすめは「サンタクロースのいる世界」と「誰が金魚を殺したのか」です。自分としては、この2本がとくに好印象でした。金魚のほうは展開が面白かったのですが、サンタクロースは推理部分よりも全体のバランスがすごくよかったです。サンタクロースは親子や友達との関係が丁寧に描かれていたので、短編として見るとこれが最もうまいなと思いました(ミステリーズ!の最終候補になった作品なのでは?)
双子のキャラクター設定
これに関しては賛否があるかと思いますが、作品を通して考えるとこれしかなかったというハマり具合です。
有人:弟。優しい。人の気持ちを考えて推理。わりと兄の言いなり。
圭司:兄。傍若無人。人の気持ちより理論。
簡単にいうと、性格のいい有人と、性格の悪い圭司という対比です。
※あまり書くとネタバレになりそうなのでここまでとします。
個人的に気になったところ
「ダイイングメッセージ」が書き急いでいる感じがした
ラストの短編ですが、これは書き急いでいる感じがしました。犯人の動機は納得できますし、そこにいたる過程がとても丁寧に描かれていたことに気づき驚きました。
引っかかったのは、この章で亡くなる少女です。かなり唐突でしたし、そのような選択をした理由を考えるとさらに納得がいかないため、事件を作るための唐突な事件という印象になってしまい、非常に残念でした。
また、このトリックなのであれば、視点をもう少し工夫されてもよかったかもしれません。もっと驚きが増した気もします。
この章ではさらに事件が起こります。物語の集大成といった感じで、犯人の動機部分に説得性があったため、もっと丁寧にページをさいて書かれてあってもよかったのではと思いました。
「最後の数千葉」がさすがに古すぎる気も
「ああ、また一枚……」
「最後の葉っぱが散るとき、私も一緒にいなくなっちゃうんだわ」
冒頭のほうの台詞を抜き出してみました。これ、入院中の小学校3年生である桜の台詞です。描写も含めて、小学校3年生な感じがしませんでした。そこは我慢したとしても、あまりにクサくて……このせいでしばらく積ん読本となっていたくらいです。
作者はZ世代と聞いてさらに驚きました。そのくらい、第一章はちょっとないなと思う古くささでした。
圭司のキャラクター設定
これしかなかったのだろうなと察するものはあるのですが、圭司のキャラクターが受け入れられない人は一定数いると思います。
腹黒キャラとも違うのです(腹黒は較的受け入れられることが多いキャラ設定だと思います)。圭司は腹黒というより、傍若無人で、無礼で、人に噛みつきもするというキャラクターです。人の気持ちが理解できないというよりも、理解する気がないというタイプのため、反感を持つ人は少なくないでしょう。
小学生だから表面を取り繕えなかったわけでもないです。なにせ思考力が大人なので。読んでいて圭司を小学生だと思えないため、さらに反感に繋がる気もします。
個人的には納得のキャラクター設定なのですが、一般受けするためにはもう少しなんとか……という気もしています。
『ぼくらは回収しない』との比較
オススメがどちらかというなら、『バイバイ、サンタクロース』のほうです。本格度はこちらのほうが高く、連作短編なので長編としての読み応えもありました。また、内容もバラエティに富んでいてよかったです。
ただ、『バイバイ、サンタクロース』のほうは後味が非常に悪いです。さらに、探偵役のキャラクターが万人受けするものではないです。そのため、後味の悪い作品が苦手な方は『ぼくらは回収しない』を選ぶのがベターかと思います。
『ぼくらは回収しない』のほうは、作品によってかなりレベル差があるように感じました。よい短編もあるのですが、あまりに無理やりな(推理だったり、動機だったり)作品があり、それがとても残念でした。
時間をかけてでも、質の良い作品だけを集めて出版されていれば、『ぼくらは回収しない』は本格好きの間でもっと話題になっていたのではと思います。
まとめ
自分は「サンタクロース」の章から俄然面白くなったと感じました。
一般的なエンタメ(とくに感動ものやライトミステリ)が好きな方は、キャラクター設定や事件の動機に引っかかりを覚えるかもしれません。
でも、本格好きで、ロジックや伏線重視の方にはかなり面白い本だと思います。