江戸川乱歩賞が燃えている

小説投稿と通過

ミステリーの最高峰とされていた乱歩賞が炎上しています。経緯を簡単にまとめておこうと思います。

乱歩賞の二次通過作品への選評が炎上

4月の下旬、第70回乱歩賞の選評が出ました。応募総数395編で、二次通過は21編。

乱歩賞ではこの二次通過作品へ選評が出ます。問題となった選評は次の二つ。

・「真面目につけたとは思えないペンネーム、減点対象」
・他賞含めた使い回し回数への言及

ペンネームで減点との記載

ペンネームへの苦言


がにまた 「彼女が時計を奪わなければ」

ミステリとして大きな穴はないが、過去の出来事の謎を現在から振り返って解明する構成を含め、設定がどうしても浅倉秋成の『六人の嘘つきな大学生』を連想させてしまうので損をしている。ネタバレと言っていい題名、真面目につけたとは思えないペンネーム、ともに減点対象。

https://tree-novel.com/works/episode/07464104c8c86babd54079b4a15575d7.html

X(twitter)などで見かけた問題点は以下の通りです。

・ペンネームで減点する意味がわからない(作品で評価しろ)
・ペンネームにケチをつけることへの疑問
・これをそのまま乗せた講談社編集への疑問
・そもそも江戸川乱歩だってエドガーアランポーからきているのに?
・最終に残った「あいうえお」さんはいいのか?

また、ご本人が「僕の幼い頃からのあだ名なんだけど。/X(twitter)」と記載されていることも、お伝えしておきますね。

「彼女が時計を奪わなければ」を拝読して

期間限定で著者が作品をカクヨムにアップされており、私も拝読しました。

まず、ペンネームの部分をのぞけば、選評自体は真っ当です。

就職選考の真っ最中(宿泊しての選考)に、社長が亡くなります。自殺として処理されたものの疑問が残る状況です。時が経ち、その場に居合わせた主人公(現在は社員)に、選考の参加者から手紙が届きます。上司に背を押される形で調査に乗り出すという話です。

個人的には選評と同じことを感じました。ちゃんと読まれて、しっかり判断がされていると。

『六人の嘘つきな大学生』と比べて落としたというのが本音なのだと思います。『六人の嘘つきな大学生』が面白すぎたため、これと比べられてはたしかに損です。

過去、乱歩賞はペンネーム「匿名希望」さんを最終選考に上げています。このとき、最終発表でペンネームの変更がありました。この点から見ても、ペンネームの減点で落とされたわけではないと個人的には思っています。

また、どの出版社でも欲しがっているのは「新しい才能」か「比較対象作を越える面白さ」です。もしくは「なんらかの組み合わせの妙」といったところ。その点、『六人の嘘つきな大学生』の圧倒的なリーダビリティや予想を裏切る展開というものは、この作品からは感じませんでした。

本作では、社長殺害部分にトリックが用いられます。本格の要素もあり、これはプラス評価ではと思いながら読みました。ただ、トリックに引っかかる点があったのが残念。キモの部分なので、本格好きな人はスルーできないかもと思いました。

※最終作品と比較することはできませんし、上記は一個人の感想でしかないことをお断りいたします。

ペンネームについて感じたこと

「あいうえお」さんに関しては、江戸川乱歩と同じ付け方です。つまり、編集も選者もペンネームに遊びを入れることを肯定していると思います。つまり、「江戸川乱歩だって云々」という批判は意味がありません。

では、なぜ、がにまたさんに苦言を呈されたのか。これについて私は回答を持ちません。

ただ、自分だったら「がにまた」は使えないと思いました。「がにまた」が意味ある言葉で、人によっては「いわれたくない言葉」だからです。

ご本人は、「あだ名だった」と好意的に捉えておられますが、世の中には「がにまた」を気にする方は大勢います。人をけなす意味で、この言葉を使う方もいらっしゃいます。この言葉をネガティブに捉える人は一定数いるはずです。

だからといって、「真面目につけたとは思えないペンネーム、減点対象」という書き方には問題があると私も思います。

ペンネームに苦言を呈されるのは仕方がないかなと個人的には思いますが、もっと別の書き方があったはずです。

ここから先はさらに個人的な雑感です。

プロになることを考えるのであればファンが躊躇せずに呼びかけられる名前にしていただきたいなと思います。後から変えればいいという話ではあるんですが、投稿段階からしっかりお考えになったほうがよいかなと。

というのも、何度も上位に残っておられる投稿者のお名前は覚えています。その方がやっとデビューしたとなれば、受賞作を買います。少なくとも、自分は応援の意味を含めて名前買いしてしまいます。

70回は一方的に知っているお名前の方が複数おられるんですが、その方たちがデビューしたら迷わず買いますよ。

タイトルに関して

アガサ・クリスティーの「そして誰もいなくなった」と比較し、ネタバレ系のタイトルだからって減点しなくてもという意見をお見かけしたので、個人的な所感を簡単に。

よいネタバレ系タイトル

・タイトルからストーリーが読めるためにリーダビリティが増すタイプ
・トリックが判明したあとでタイトルにヒントがあったとわかるタイプ
・犯人がわかって(事件が解決して)タイトルの意味が理解できるタイプ
・読み終えたあとで実は○○○だったとわかり、タイトルでそれを示唆しているタイプ

よくないネタバレ系タイトル

・あからさま過ぎる伏線になっているタイプ
・犯人(事件関係者含む)が最初から予想できてしまうタイプ
・トリックがあからさまになるタイプ
 ⇒すべてタイトルがあからさま過ぎるヒントになっており、リーダビリティを削ぐものになります

ネタバレ系タイトルといっても、よいものと、よくないものがあります。

「そして誰もいなくなった」はタイトルからストーリーが読めるためにリーダビリティが増すタイプです。

たいして、今作は「犯人(事件関係者含む)が最初から予想できてしまうタイプ」の典型です。これはひと言あっても仕方がないと個人的には思います。

使い回し回数への言及

選考委員が兼任しすぎている

「オフィーリアの遺言」

作品そのものの力強さはそれなりに感じられたが、プロ作家となるにふさわしいかという点には疑問符が付く。予選委員のコメントを集約すると、この作品が新人賞に投稿されるのは少なくとも三回目。題名こそ変更はあるものの、内容に変更はほとんどない。プロ作家として新作を生み出し続けることはできるのだろうか。また、他の賞で落選時に指摘された欠点も修正されておらず、他者の意見を取り入れて作品を改善する姿勢も見られない。こうした懸念を吹き飛ばすような圧倒的な何かは、この作品からは感じられなかった。まったくの新作での挑戦に期待する。

https://tree-novel.com/works/episode/07464104c8c86babd54079b4a15575d7.html

ペンネームへの言及がないので、こちらはタイトルと選評のみ引用します。

X(twitter)などで見かけた問題点は以下の通りです。

・個人情報はどこにいった?
・使い回しに関する選考委員の態度への疑問

個人情報はどこに?

本作品はおそらくこのミスへ応募から乱歩応募なのだと思います。このミスに選評があるため、選者は個人情報に当たらないと思ったのかもしれません。

が、タイトルは変更されています。そこをばらすのはどうなのかという意見が出るのは最もかと。

ただ、「個人情報保護法において「個人情報」とは、生存する個人に関する情報で、氏名、生年月日、住所、顔写真などにより特定の個人を識別できる情報(政府広報オンラインより)」なので、タイトルや作品にどこまで個人情報保護法が適用されるかは疑問があります。

ただ、投稿者は「作品が守られる」と信じて応募しているため、こうも選考委員の口が軽いと不安になるのかもしれません。

なんでそんなに使い回しを嫌うのか?

自分としては前からいっているように「作品単位」で判断してほしいです。使い回しだろうが、よい作品であれば上げ、受賞させ、読者に届けてください。

選者の言い分としては「プロなら量産する能力が必須」となるのでしょうが、読者からしたら知ったことではない。一、二作で消えていく作家もたくさんいるし、量産できても出版してもらえない作家も(おそらく)数多くいるはずです。

量産するってほんとうに必須の能力なんですか?

作家という立場を手に入れたことで、作品を書く意欲や時間が増す人だっているかもしれません。

ライトノベルは使い回しに寛容です。なのに、ミステリー(エンタメ)はなんでそんなに嫌うんでしょうか。

再応募に関する炎上は過去にもありましたが、編集や選者がこうも頑なな理由がわかりません。このミス受賞作には、鮎川賞の最終選考作品が多いです。そして売れています。

なにがだめなの使い回し。

まとめ

今回の乱歩賞の炎上では、「選考委員(編集を含め)が権威を振りかざしている」「上から目線で対応している」という印象を受けた人が多かったのではないかと思います。

乱歩賞はたしかに権威ある賞でしょう。だからこそ品格が求められるはずなのに、それを感じられなかったと残念がる方が多かったように感じました。

前からいっていることですが、もう少し選考委員を賞ごとに変えたほうがいのでは?と思った今回でした。

一部の凝り固まった選考委員、顔見知りの選考委員ばかりだから、新しい風や意見が入らないのではと思います。