再応募に関する議論がTwitterで巻き起こってまして

小説投稿の豆知識

関連した記事にちょっと追記はしたんですが、この問題には触れるつもりはありませんでした。が、議論が活発化した9月13日23時現在、twitterから問題のツイートが削除されているのに気づいたので、やっぱり触れることにしました。

Twitterやっていない方で「?」となってらっしゃる方もいるかもと思ったんですよね。私が把握している流れは次のような感じです。間違っておりましたら、Twitterやメールでご指摘くださいませ。

ちなみに、管理人はただの読み専です。ちょちょい入る私見は、一読み専の個人的な主張になりますことをご理解ください。

※Twitterしてないという方は、「ツイート」は書き込み、「リツイート」は書き込みを引用して広げること、「リプライ」は書き込みに返信することと思っていただければ、だいたい伝わるかと。

※今回、引用リツイートをされている方も多いのでリンク先でTwitter確認されてください。

はじまりはこれ

▼文学賞の下読みをしているのだが、編集者から連絡があり、何番のXは過去の某文学賞の最終候補作なのでボツにしたいと。作品名と筆名を変えているので検索にひっかからなかったが、下読み委員が「これ読んだことがある」ということで判明。作品名と筆名を変えて送ってよこすなんてタチが悪いよ。

▼2)最終候補になったら、その作品はいったん諦めなさい。あらたな作品を書いて挑戦すればいいではないか。いつまでも後生大事に抱えて、あちこち小さなところを直して送るのはみっともない。私は新作が書けません! といっているようなもの。受賞してから数年後、過去の作品を直して出せばいい。

twitter/池上冬樹さん-2021年9月4日

9月4日、この投稿からはじまるツイート(書き込み)でした。これに、反発する投稿者さんが続出。池上さんのツイートを芦辺拓さんなどが支持。これらがリツイートされ、じゃんじゃん広がっていきました。

この件は選考に当たる人々、出版社や僕ら作家が言い続けなければならないと思うが、絶対に納得しない人たちの反論が相次ぐ。水先案内人がそっち行ったら座礁するよと言い、医者がその民間療法だと死ぬよと言って罵倒されるようなものか。正しい助言をして叩かれている人たちを見るのがもうつらい。

twitter/芦辺拓さん―2021年9月6日

知念実希人さんも▼2)をリツイートして、「そう、これが正しい。」と参加。他にもこういうツイートが。

もう、落選作の再投稿は禁止と明記した方がいいんじゃないかなぁ……  それを書いていないと、他の文学賞で落選したことを理由で落としていいのかという問題が出てくるし。 どうせプロになったらある程度の量産は必要になるので、落選作は不可として量産できるかも評価対象にした方がいいと思う。

twitter/知念実希人さん―2021年9月4日

ただ、ここまでは一部の作家志望者さんが質問を投げかける、Twitter上で問題視する程度だったかと。

いつもより数は多かったので、Twitterをされている作家志望者さんはどこかで目にしていたのではないでしょうか。私はリストアップしている作家志望者さんがこれに言及していたことで気づきました。

よその最終だから落とすとか、量産できるかを評価対象にとか、個人的には「?」でして、読み専門の私は「面白ければなんでもいい」んだけどと思ったんでした。その人がその一冊しか書けなくても、その作品がよそで落とされていようとも。おもしろければ買って読むぜ!と。

問題を決定的にしたのはこれ

問題のツイート「 学賞の下読みをしているのだが~」には、多くのリプライ(質問や意見)がついておりまして、これにまとめてお答えするという形で、池上さんから長めのツイートが書き込まれました。今は消されているので、詳細はリンク先のtogetterでご確認ください。

▼5)出版社の横の繋がりは強くて情報交換が普通に行われると思ったほうがいい。守秘義務もあって全部教えるわけではなく(当然だ)、一点だけ、二次選考(最終候補)にあがった何々さんは、本名何々ですか? こっちにも応募してきていて確認したいと聞かれたら、業界の問題にもなるので皆協力する。

twitter/池上冬樹さん-2021年9月11日 今は消されているのでtogetterにリンク

正直ちょっと驚きました。最近の新人賞では、「本賞の目的以外には用いない」など、賞の選考を行う上で使用することはあっても、それ以外には用いないと明確にしています。賞によっては受賞作決定後(または一定期間の後)、破棄すると確約しているところもあります。

おそらく、多くの人が思ったはず。

『よその出版社に教えていいわけないだろ?』『個人情報保護法どこいった?』

と。で、これまで静観していた作家志望者さんたちまでツイートし、問題がさらに大きくなっていったと。これに大森さんが否定を返されています(もっとびしっと否定してほしかったけれど)。これ自体はたいへんありがたいものなんですが、やはり一部の方は「建前として」とか「あってはならない」という文言が引っかかったようです(まあそうだよなと思うけど。ここは大森さん、ありがとうございましたと言いたいです。これがなかったら、もっと混迷していた可能性も)。

昔はそういうこともあったかもしれませんが、いまはほとんどの公募新人賞に個人情報取扱い規定があり、賞に関わる事務にしか個人情報を使用しないと明記しているので、少なくとも建前としては、本名に関する情報を他社に洩らすことはない(あってはならない)と思います。

twitter/ 大森望さん―2021年9月11日

で、問題があまりに大きくなったせいか、問題のツイートが消されると。(9/13日現在)

色々な意見

再投稿不可って書いてあったの?

瀧井さんのように、その賞の応募規定がどうだったのかを気にされている方も多かったように思います。

その新人賞の応募規定にちゃんと「再投稿不可」などと明記されていたのか気になる 個人的には、最終選考に残るくらいの作品なら、たまたまの運で落ちた可能性もあるので一度くらいは別の賞に再投稿してもいいのでは、と思う まあ、「この人はこれしか書けないのでは」とは思われるだろうけど

twitter/瀧井朝世さん―2021年9月6日

再投稿禁止を明記してほしいとする意見が多いんですが……

Twitterを中心に、「明記してほしい!」という意見がかなり多かったように感じました。

最近は、メフィスト賞、文學界新人賞などは再投稿を明確に禁止しています。逆に、このミスは再応募に関する見解が明確になっています(リンク参照のこと)。簡単にいうと、そのまま応募せずブラッシュアップしてねと。

私個人としては、この意見には消極的で……。A賞が再投稿禁止と明記した場合、A賞にまず出して、ダメなら再投稿OKのB賞にという流れが出てくる可能性があります。一歩間違うと、どこも再投稿を禁止しはじめるのではないかなぁ……と。一部の賞が禁止すると、最初に本命に出したいけど、あっちは再投稿だめだし……と悩む方も出てきそうだなぁ。

読み専の私としては、よそで落ちた作品が受賞→むっちゃおもしろかった!という経験が何度かあるので、再投稿禁止が多数派になるのは、是が非でもやめてほしい。マジで、やめてほしい。

個人的には、再応募OKを明記してほしいと思います。今回のようなケース、つまり、最終選考で落ち、別の賞で出版された作品は実際にあってすごく評判がよいことも! ちなみに、このミスの『甘美なる誘拐』(新潮ミステリ最終→このミスの文庫グランプリ)とか、『ニキ』(小説すばる最終→ポプラ)とか。『ニキ』は複数の知人が推してるんですよね。

再応募OKとする編集者さんや書評家さんのツイート

ある賞で一次選考以上を通過し落選した作品を別の賞に使い回すことは「予選委員(または版元編集者)の心証がよくない」とか、「本人のためにならない」(新しい作品をどんどん書くべき)とかの理由でやめたほうがいいと言われがちですが、応募規定になければ、べつだんやましく思うことはありません。

この話題もいままでに何度も蒸し返されてて、大森は昔からずっと再投稿容認派ですが、版元編集者および予選委員の間では、どちらかというと否定的な意見のほうが多いような印象なので、これは少数意見かも。

賞の運営側には、他社で落とされた作品に授賞するのは沽券に関わるみたいな気分もあるかもしれないが、評価する側としては、「どっちの判断が正しいか、本にして読者に訊いてみようやないか!」みたいな気分もある。もちろん、こっちが落とした作品があっちで出て、不明を恥じることもあり得ます。

twitter/ 大森望さん―2021年9月11日

ワ・)ライトノベルではよく「他社でいいとこまで行ったのが受賞」とかあって全然違いますね。

ワ・)なんだったら、タイトルもPNもキャラ名も違うやつを今、読んでて、「これ、前に読んだやつだな、面白かった記憶……」という状態だったので、タイムリー♪ 普通に今回の選考として読んでます。 #GA文庫大賞

twitter/サトさん(GA文庫編集部)-2021年9月6日

余談

ちなみに、このミスの応募要項に「※ご応募いただいた個人情報は、本賞のためのみに使われ、他の目的では利用されません。※また、ご本人の同意なく弊社外部に出ることはありません。」の文言が入っていまして。2文目の「本人の同意なく~」って前からありました?

まとめ

さすがに今回の池上さんのツイートは、「おおい、出版社(;゚Д゚)」となった方も多かったかと思うのですが、まあ、たぶんもっとましなのだと思いたいです。

多くの落選作には、やはり落選するだけの理由があるとおっしゃる下読みさんたちの意見、すごくよくわかります。正直、「投稿作品としてレベルが高い」としても、受賞に値するかというと別だとも思いますし(投稿作の中ではましでも、既存の本と比べると……)。

ですが、どうしたって選考の目からもれてしまう傑作もあると思うんですよ。それを逃さないためにも、出版社の皆さん、下読みの皆さん、選者のみなさん、頑張ってください!

おもしろい作品が、尖った作品が、今までにないような作品が、私好みの作品が、なんでかはまっちゃう作品が読みたいんです。

売れる作家、たくさん書ける作家が欲しい。編集さんの本音はそうかもしれません。

読み専の私としては、一冊しか書けなくてもいいから、それが超傑作なら世に出てくれと願います。