新人賞受賞作って別に尖ってないよね?という話

小説投稿と通過

新人賞の選考に関わる編集者や下読みが公言する「こういう小説がほしい」についてですが、

・尖った作品
・前例のない作品
・他にはない特徴をもった作品

のようなイメージがあります。ようは「新しい」ことが重視されているように感じます。

ただ、新人賞受賞作ってとくに「新しくない」し、「尖っていない」ことのほうが多いです。少なくとも自分が交流していた投稿者さんの多くは「新しいものがほしいっていうけど、そこまで新しい作品ってないよね。どうしたら選考を通過できるのかわからない」という悩みを抱えていました。

そこで今回は、編集の求める「新しい」「尖っている」について個人的に考察してみようと思います。

自分的に、の罠

編集者が「新しく、尖った作品を求めている」というので、「新しい作品」、「尖った作品」を目指して作品を作りをしている方は多いと思います。ですが、自分の知る限りでは、失敗しているケースもけっこう多いです。

失敗といってもパターンがいくつかあります。典型的なものは次の通りです。

本人は新しく尖っているつもりでも、先行作品が思いつく

先行作品と丸かぶりということは少ないですが、キモとなる部分がかぶることは多いです。

純文学のテーマ、エンタメのネタなどはよくかぶります。自分が思いつくことは周囲も思いつくと考えたほうがいいです。

以前、仲間内で読み合いをしている際に、一人が面白いネタの作品(一般エンタメでSFチックなガジェットを使う)を出してきました。べつの人が「じつは去年の賞に同じようなネタで応募して一次通過だった」と話し、さらに自分が「似たようなネタで十年以上前に賞を取ってて、数年前に映画化されてた」と発言し、皆が絶句したことがあります。

そのため、自分では「新しい」「尖っている」と思っても、そうでもないことは多いのです。

解決策

使い方が重要だと思います。ネタは一緒でもどう料理するかが重要かと。

今年の乱歩賞受賞作『殺し屋の営業術』は、主人公が凄腕営業マンで、不運な遭遇から殺人請負会社に入社し、生き残りをかけた「命がけの営業」を行うという作品です。

殺し屋×営業という組み合わせのセンスがすごいですよね。殺し屋というのはすでに手垢がついているネタですが、営業と組み合わせることで「新しい」し、「尖った」ものになりました。

また、組み合わせ以外にも、どう解釈するかでネタは新しくなります。これまでにない解釈の仕方、方向性、ラストに持って行ければ、それだけで「新しい」と読者は思うのです。

既存作がなくても、その設定では売れない

よく聞くのが「刺さる人には刺さる」という言葉です。その場合、既存作がないのではなく、刺さる人が少なすぎて商品化(書籍化)できなかった可能性を考えましょう。

プロの作家さんでも、「刺さる人には刺さるはずなのにプロットが通らない」とX(Twitter)に書き込んでいるケースがあります。でも、そのジャンルだとその設定が刺さる人は1%もいないんじゃないかなと思うことが多いです。

たとえば、ライト文芸でスチームパンク。絶対にだめとはいいませんが、ライト文芸の層がスチームパンクと聞いて「待ってた!」にはならないです。さすがに刺さる層が薄すぎると思います。

ライト文芸仕立てにすれば面白いはずと思われるかもしれませんが、読者はあらすじや帯で内容を判断します。ライト文芸で「スチームパンク!」とあっても手に取ろうとする読者は少ないでしょう。

わかりやすくいうと、ライトノベルの文体で純文学を書いて応募するくらいの難しさがあると思います。なお、ライトノベルの文体で純文学を書いた場合、ライトノベルよりも純文学の賞に出したほうが通過率は高いかもしれません。文体が面白いと認められればの話ですが。

解決策

思いつきません。ただ、新人賞のほうが冒険を認めてくれるので、ダメもとで新人賞に出すのはありだと思います。

尖った結果、読者を失う。

「尖った」に力を入れた結果、意味不明な設定になり、読者はだれもついていけないという作品です。

少年ジャンプ漫画賞さんのアカウントで「これだ!」という内容を投稿されていました。

Q:投稿作について、よく「読者のほうを向いて描く」や「あなたの作品は読者を向いていない」などと言いますが、この言葉はわかるようでわからない感じがします。(以下略)

A:作者の自己満足「だけ」で描いているか、読者を楽しませることを強く頭に入れて描いているか、の違いかと思います。(中略)自己満足が暴走し、『かましてやる』精神があまりに強く出すぎて「どの読者も喜ばない展開。確かに見たことないし、悪い意味で読者が驚くけど…」は「読者の方を向いていない」残念な終着点です。(以下略)あくまで私見なので、これとは違う分析もあると思います。

少年ジャンプ漫画賞 さん

マンガについてのQ&Aですが、創作全般に関わる内容も多くとてもためになります。

本投稿は主にラストをどう持ってくるかなど「展開」について書かれていますが、ネタやキャラ設定でも同じことがいえると思います。尖ることに必死になりすぎて、だれも求めていない作品になるのは本末転倒です。

解決策

人の意見を聞きいれることが大事だと考えています。

自分では気づきにくいんですよ。ですが指摘しても、「でも尖った内容になってる」といわれるとこちらも何もいえなくなります。複数の人に同様の指摘を受けた場合は、冷静になって「読者が面白いと思うか?」をよく考えましょう。

どうすれば「新しく」「尖った」作品になるのか

どうすればはわかりませんが、一つだけたしかなことは「出版社が求める新しさや尖りは、作者が考えているそれとは異なる」ということです。

簡単にいうと、出版社が求めているのは「売れる」こと。

求められているのは、殺し屋×営業のような、読者が喜びそうなアイテムを掛け合わせて新しくしたものです。映画『レオン』もそうでしょう。殺し屋×少女という掛け合わせの妙です。

もしくは、新解釈。セクハラといえば男性が女性にするものという認識があるとすれば、これを逆転させるのです。女性から男性へのセクハラ。すでに既存作があるような気もしますし、解釈としてはすでに古い気もしますが、こういう逆転の発想は「新しい」といえます。さらに男性が「女性から言い寄ってくるならいいじゃん」「男がそれを訴えるの?」という無理解に苦しめられるなど、女性とは違う視点での苦しみも描けます。

編集のいう「新しい」「尖っている」はこういうものであって、決して「既存作がなければいい」とか「ニッチな作品がほしい」と思っているわけではないのです。独りよがりの新しさ、尖りではだめなのです。

正しく「新しい」か「尖っているか」のチェックリスト

必ずしも下記を満たす必要はないと思いますが、プロット段階で意識してチェックしてみましょう。

・設定、テーマを読者がすぐに理解できるか?
 新しく、尖った設定でも、読者がすぐ理解できなければ意味がありません。2、3行のログラインで説明できるのがベストです。

・設定、テーマは読者が共感(許容)できるものか?
 殺し屋×営業は、自分の命がかかったためにダークサイドに行きます。だからこそ読者は許容できるし、前半で主人公を受け入れられるのです。

・設定、テーマがストーリーに溶け込んでいるか?
 ストーリーがその設定(やテーマ)が原動力となって動く話になっていますか。設定やテーマが強引すぎると、作品として評価されません。

・キャラクターの行動原理が設定、テーマに振り回されていないか?
 設定やテーマを推進するために、キャラクターが謎行動をしていませんか。またキャラクターの行動原理が一貫していますか。状況に合わせて都合よくキャラクターを動かすのはNGです。

・倫理観を無視しすぎていませんか?
 ホラーやゲーム性の強いものだったとしても、倫理観を完全に無視することはできません。設定、テーマによっては倫理観を無視する必要もあるでしょうが、読者が不快を感じるだけのものはアウトです。

まとめ

では新しくなくていいのか?というと、それは違うんですよ。ここが難しくて、新しいものを出版社は求めています。ですが、新しければいいわけではないのです。

簡単にいうと、出版社が求めているのは「売れる×既存作がない」です。

まずは読者がいることが前提になっており、読者が一定数ついている上で、この作者にしか書けないと思う作品を欲しています。読者目線を意識して、新しいものを目指していきましょう。