表現力・描写力について、もうちょっと詳しくしてみた

小説投稿と通過

先日、文章力についてまとめてみました。その中で、「その表現・描写は、本当に効果的ですか?」としてポイントを上げたんですが、「具体的には?」と聞かれたので……もうちょっと詳しくまとめてみました。

描写力・表現力、マイナス要素になりえます

たとえば、以下のような問題を抱えている方、かなり多いように思います。

①読者に伝わっていません。
②過剰すぎて、くどいです。
③ありきたりな表現を過剰演出。
④表現ではなく、好きな言葉選びになっています。

これらすべて、ご本人は気づきません。そして、私はこれらの指摘をしたくありません。なぜなら、作者はすごく、ものすごーく自信を持っているため、下手すると関係性を悪くする可能性があるからです。

①読者に伝わっていません。

「人のセックスを笑うな」は、わかりやすく上手い表現も多くて、作家志望者さんには勉強になるんじゃないかと思います。ただ、冒頭文。この冒頭を読んで、私はしばらく悩みました。

ぶらぶらと垂らした足が下から見えるほど低い空を、小鳥の群れが飛んだ。生温かいものが宙に浮かぶことが不思議だった。

「人のセックスを笑うな」冒頭より

ぶらぶらと垂らした足って、何の? 鳥の足? え? 飛ぶとき、鳥の足ぶらぶらしないけど。……どういうこと!? となったんですよね。でも、ここで作者が表現したいと思っていることはなんとなく理解できました。加えて、「生温かいものが~だった」の言葉がすごく威力があって、そのまま読み続けることに。

本作は文藝賞の受賞作です。この後は、非常に丁寧でわかりやすい表現・描写が続くためするする読めてしまったんですよ。この作家さん、表現面白いなーって、すごくよい読書でした。

が、これくらい意味不明の表現を大量に続ける書き手さんが、実際にいらっしゃいます。

②過剰すぎてくどい。

表現・描写の量をさしているわけではありません。むしろトートロジー的な方です。書かなくてもわかるよねということを、手を変え品を変えて書かれる方がいらっしゃいます(そしてそれがいいと思っているのかな?)。

寂しい夜を表現してみます。ただ、自分はとくに文章が書けるわけではないので、文章力の良し悪しではなく、明らかな問題点だけ拾ってみてください。

「彼女が帰ってこないかなって、俺はずっと窓の外を見ていた。何時間もずっと。気づいたときには外も、部屋も真っ暗だった。静まりかえった空から静かに白い雪が舞い落ちてきた。彼女の出て行った部屋はしんっとしていて、シンクに落ちる水音がひどく響いた。あまりに静かで、雪が落ちる音さえ聞こえる気がした。その静けさを裂くように、子供の甲高くはしゃぐ声が聞こえた。部屋は一階なので、 子供のようすがよく見えた。一人ではなく数名いて、キャーキャーと騒がしい。」

……いらん表現が山ほどありませんか?

・「静か」が何回出てきました?
・シンクに落ちる水音が……雪が落ちる音さえ~。同じことを表現変えているだけなので、後者はなくてもよいのでは。表現として「ありきたり」なのでなおさら。
・「一人ではなく数名いて」→前の文を子供達にすればこの一文いらない。邪魔です。

個人的には他にもいらん文章が山ほどあります。俺はずっと窓の外を見ていたの「俺は」はいらないとか。ずっとを重ねるのなら、「気づいたときには」はがくどいとか。その静けさを裂くようにも個人的にはいらないです。ついでに、ひどく響いたの「ひどく」は使いすぎな人多いので注意を。

というように、なんというか無駄の多い表現をしている方、けっこういらっしゃるんですよ。↑で上げた点を抜いて書き直すと、こんな感じになります。

「彼女が帰ってこないかなって、ずっと窓の外を見ていた。何時間もずっと。外も部屋も気づけば真っ暗で、静まりかえった空から白いものが落ちてきた。彼女の出て行った部屋はしんっとしていて、シンクに落ちる水音がやたらと響いた。ふいに、子供の甲高くはしゃぐ声が聞こえた。 部屋は一階なので、 子供たちのようすがよく見えた。キャーキャーとなにが楽しいのか。」

「読みやすい」=「ライト」と思っている人もいらっしゃいますが、そういうことじゃないんだと自分は思っています。

③ ありきたりな表現で過剰演出。

ありきたりが悪いわけではありません。ありきたりの表現は分かりやすく、共感を生みます。どんどん使っていいんです! ただ、そのありきたりをこれ見よがしに書かれると、「うーん」となってしまいます。慣用的な表現はさらりと書かれているからこそ、映えるんです。

では、過剰演出過ぎるというのがどういものかというと……。

(1) おそろしくクサくなったりします。たとえばですが、不倫相手と食事をしている場面。

「彼女は美しかった。キャンドルの光が反射して、まるで瞳に星が瞬いているようだ。私は血のように深い赤ワインを持ち上げ、『乾杯』とグラスを合わせた。」

星が瞬くのも、血のようなワインも構わないんですよ。でも使い方によっては、「……」となるわけです。

(2) あまりに表現のオンパレートすぎて、「どう? 私の表現すごいでしょ?」と感じられるような文章。表現を重ねすぎているケース。例を書こうと思ったんですが上手く書けなかった……(すみません)。ありきたりな表現を重ねても、読み手は「すごい」とは思いません。

④表現ではなく、好きな言葉選びになっています。

綺麗な言葉、自分の好きな言葉を使って満足しているケースです。ぱっと見、文章は綺麗なんですが、何を表現しているのかわからないケースです。

自分好みの言葉を使って書くのが悪いわけではありません。むしろ、これはその人のオリジナリティを生むこともあるのですごくいいことだと思っています。ただ、言葉選びに凝った結果、「何を表したかったのか」が後回しになっていたり、「読者に伝わりにくい」文章になっていることがあります。

表現力にこだわる人ほど、人に見てもらったほうがいいと思う

作家になるんだから、表現力にこだわるのはいいことだと思います。ただ、こだわるあまりに、自信を持ちすぎている人が多い気がしています。

自身は持っていいんです。持っていいんだけど、私は次の点が気になっています。

・持ちすぎるあまり文章以外の点を軽視してしまう。
・文章はできている(高いレベルにある)と思い込む。
・美文ではないけれど、読みやすい文体を下に見る。

いや、わからなくはないんですよ。たしかに文章に力いれてるんだなというのが、その方の作品観や執筆姿勢からはわかるんです。が、文章にこだわる人が、かならずしも文章がうまいとは限らない(いや、ほんとすみません)。

文章以外の点を軽視してしまうケース

構成や視点の工夫がないケース

構成に工夫がないため、起伏または奥行きを感じられない。
三人称絶対主義(なのに一人称のように主人公の感情だだもれ)。
一人称なのに、キャラクターが文体に出ていない。

ストーリーに工夫がないケース

エンタメなのに仕掛けがない。
物語に新しさがない。
展開が遅い……(エンタメなのに純文学的といえばいいんでしょうか。微に入り細に入り説明が続いてストーリーが進まない)

キャラクタに難がある。

キャラクタが固すぎる、またはある種の類型的。これ、うまく説明できないんですが、アンパイなキャラが多い印象なんですよ。「この系統のキャラ、よく見るよな」っていうのがあるんです。

文章はできている(高いレベルにある)と思い込む。

読者が読みやすいかは二の次ってケースです……。伝わってないとか、無駄が多くて思わず流し読みしてしまうとか……あります。

でも、ご自身は絶対的な自信があるため、文章を整理しようという方向にいかないんです。推敲するほどに、文章が難しく(または過剰に)なっていくケースがあります。

美文ではないけれど、読みやすい文体を下に見る。

個人の好き勝手なので、「読みやすい文体は、読書した気にならん」ってのはべつだん構わないんではと思っています。それで創作仲間と喧嘩したっていいのではとさえ思っています。

だがしかし、読みやすいといわれる文体には「よい点(見習うべき点)」がたくさんあるんです。そこに気づいてくれ。読みやすく、美しい文章が最強なんですよ。過剰に美しくても、読みにくかったら(伝わらなかったら)もったいなさすぎるんですよ。

まとめにかえて。表現・描写「だけ」にこだわるのは……

どうかなぁと私は考えます。っと大きな視点で文体をとらえたほうがよいのではと思うことが多いです。

いや、ほんと。表現が~描写が~とこだわっている方、けっこうお見掛けするんですが、うまい人は確かにうまい。ただ、どちらか二つに当てはまっている方もものすごく多いです。

・読者に伝わっていない
・同じことを繰り返し表現する(ので読者はちょっと疲れる)

また、こだわった上でうまいなと思う人は、読者をすごく意識している気がします。私が思う最高の表現!ではなく、読者に響く最高の表現!になっている気が。そのため、わりにさらっと書かれている文章が「めちゃくちゃうまいな」ってことも多いです。

読者に届かなければ意味がないことを理解して、表現・描写を追求していたければなと思います。