小説新人賞で上に行く作品の多くがもっているもの!

2020年11月27日小説の書き方,小説投稿と通過

今回は、いくつか拝見した「上位選考」または「最終選考」作品の共通点をまとめてみたいと思います。個人的な繋がりで読ませていただいたものが十数作、投稿サイトに掲載されていた作品、Web投稿可のライト文芸の通過作(角川キャラクター文庫大賞など)、R-18文学賞の最終作品などを読んでの所感です。

そのうえで、受賞作を読んで「やっぱりこれがないと残らないよなぁ……」と思うものがありました。自分が創作を諦めた理由が「これ」を持たないからです。

もちろん、持たなくても上位選考に残っている作品はありますし、Web小説で評価されている作品もあります。

でも、上位選考に行く作品、売れる作品は、以下に示した「ポイント」を複数含んでいるものが多いと思います。ポイント全てを達成する必要はありません(相反するものもあるので無理だとも思います)。ですが、ご自分の作品に次の「ポイント」が含まれているか、一度チェックしてみてはいかがでしょう?

多くに共通するものと、カテゴリで共通するものがあるので、それぞれ必要箇所をご覧ください。

多くに共通するポイント

アイディアが秀逸または目新しい何かがある

既存作品にないアイディア、流行り物であっても目新しい何かがあること。これが大切です。いうなれば、「こういう発想はなかった」という、面白いネタがあるかどうかになります。

さらに、そのネタ・設定を使いこなせているかが重要です。せっかくのネタでも、その設定が小説のストーリー(またはテーマ)と噛み合っていなくては上にいくのは難しいです。

続きが気になる

よくページを繰る手が止まらないといいますが、簡単にいうとそういうことです。続きが気になって読んでしまうものをいいます。個人的には、続きが気になるというパターンは2つあります。

ミステリ、エンタメ作品での「どうなるのか知りたい!」

ミステリ:「犯人が誰か知りたい」「トリックはなんだ!?」など
エンタメ:「二人がうまく行くのか気になる!」「主人公は成功できるの?」など
ラノベ:「主人公が無双するところがみたい!」「どんな戦略で勝つのか知りたい!」など

基本的には、書き出し部分でストーリーが予測でき、中盤で思わぬ方向へとねじ曲げられ、最終的にあっと驚くようなところに着地すると大絶賛です。ミステリではやく事件を起こせといわれるのが、「書き出し部分でストーリーを読ませる」の典型です。

個人的には『夜市』(恒川光太郎さん)が完璧だと思っています。

エンタメ、純文学での「なんか知らないけど続きが気になる!」

熱量、または小説技術に押されて手がとまらない作品です。

『わたしを離さないで』(カズオ・イシグロさん)では、最初のほうはストーリーが予測できないにもかかわらず、あちこちにちりばめられた不穏な空気、見え隠れする真実に触れるたび、先が気になって仕方なくなります。この不穏な空気や、真実が、文章から匂い立っていて、ストーリーが読めなさそうで、なんとなく読めた気になってしまうという。恐ろしい作品です。

勢いがある

小説新人賞の選評でよくみる言葉です。書き手さんにとっては、抽象的すぎてわかりにくいポイントかと思います。ようは「物語にすっと入り込めて」、「勢いに押されて作品に乗れる」ということだと思いますが、感覚的なものですからね……。

「勢いのある作品」は、「文章にオリジナリティがある」ように思います。いうなれば、「雰囲気」があるのです。

まずは書き出し。作品世界と文体が結びついていると、すっと作品に入れてしまいます。まずはそこです。文章が上手いかどうかではなく、作品世界がほんの数行、数ページで表現されているか。これが大切です。細かい設定を説明するのではなく、「これは○○○小説なんですよ!」というアピールをしてください。切ないとか、明るいとか、不穏なとか、小説の書き出しで読者に訴えてください。読者を引き込む場面が提供されていればなお良いです。

そこを超えたあとは、ストーリーまたはキャラクターを動かしてください。山場と谷間にメリハリをつけることが大切です。また、後半(多くはラスト)のしっかりとした山場をもってこないと、「前半はよかったのに……」ということになりかねません。ラストの描き方にも力を入れてください!

個人的にあまり重要ではないと思っているポイント

多少の誤字脱字

ないほうがよいと思いますが、選考委員が「誤字脱字が多すぎる!」と怒っている選評もあるわけで、あっても上に行く作品はあるんです。賞にもよるとは思いますが、おそらくは多少の誤字脱字で傑作が落とされることはないのではないかと。多少というのがどのくらいかというと、(原稿段階なら)ページに1つくらいは、しょうがないんじゃないかなーと思っています(個人的には)。

そもそも、大手出版社から発刊されている本にも、誤字、脱字があるわけですから!

このあいだ読んだ超売れているライト文芸にも複数のミスがあったわけで、多少の誤字脱字で落とすっていうなら、出版社よ、誤字脱字をするな!と言われかねないですよ。

そういうわけで、誤字脱字はしないほうがよいと思いますが、多少のヒューマンエラーは致し方ないと考えます。推敲はしましょう! でも、多少の誤字脱字だけで落とされることは少ないのではないかと思います。

文章力

ただし、純文学の場合は、選考上で大きな不利になると思われます!

文章力というのは、ある程度あればよいと考えています。さすがに、脚本並のト書きと台詞だけで進むというのは論外ですが、多くの書き手さんはだいたいクリアしているのではないかと思います。

編集さんが入って書き直しもあるわけで、てにをはが少量間違っていても問題ないのでは?(選考上不利になる可能性はゼロではありません)

むしろ、発想力、台詞力、表現力、感情描写力のほうが大事だと思います。新しいネタをひねり出したり、台詞に味を持たせたり、キャラクタ描写や情景描写に力を入れたり、主人公の感情をそこまでするかというほどさらけ出したり、そういうことのほうが大事かなと思います。

上位選考とはいえ、文章力で「すげえな」と思った作家さんは、まじで2、3人しかいません。好みの問題もあるとは思うんですけどね。むしろ、このレベルで最終いけるんだ……と驚いたことさえあります。

各カテゴリごとのポイント

一般エンタメ

個人的には「もっとも選考基準がわからない……」カテゴリです。

「何故これが上位に?」と思う作品もあれば、「なぜこれが落ちるの?」と思う作品も多いです。なんでもありな分、下読みさん、編集者さんの信念や好みが大きく影響するのかなとも思います。

つまり、「多くに共通するポイント」をクリアできれば、あとは作品にどのくらい「力があるか」だと思います。

・既存の作品にない世界観やネタ
・キャラクター造形力
・ストーリー(ストーリーに起伏があるか、主人公に変革が見られるかなど)

売れると思わせる作品
共感性

最近流行りの「ちょっと生き辛い人々」というのは、共感性に訴えるものがあるのだと思います。私個人としては、共感性がなくとも面白いものは面白い(※)と思うのですが、最近は「共感性」があるものを出版社が求めている印象です。

※直木賞の『宝島』は世界が凄すぎて共感性の入る余地などないし、『私を離さないで』なんてまったく共感できないんですけどね。それでも鳥肌が立つ!

共感性の最たるものが、本屋大賞を取った『流浪の月』かなと思います。

私個人としては、前半の導入部分はまだしも、後半はまったく共感できなかったのですが。この作品は、共感できる人とできない人で、まったく印象が違うと思います。一部(といっても集団としては大きい)の人に突き刺さるような共感性をもった作品は、とにかく売れるというのがよくわかった作品です(本屋大賞の力も大きいのでしょうが)。

ライト文芸・少女系ライトノベル

まずはこれ! わかりやすさが必要です。

・読みやすい文章
・適度な描写力
・会話部分のテンポ
・キャラクターのかわいさ、かっこよさ、おもしろさ

これら全てが必須だと思います。そのうえで、つぎのどちらかを入れると上位にいけるように思います。

・流行りのジャンルに新機軸(流行りのネタに+αのなにかをいれましょう)
・売れる、または流行りになれる新しいネタ

「流行りのジャンル+新しさ」、または「新しいジャンルとして確立できそうな(または馬鹿売れしそうな)新しいネタ」のどちらかです。

流行りのジャンルは「Web小説から探す」もしくは「実績のある作家に書かせる」のどちらかで十分にラインナップを揃えられます。正直なところ、出版社が探しているのは「新しいジャンルとして確立できそうな(または馬鹿売れしそうな)新しいネタ」のほうだと思います。

ここ最近、ノベル大賞(オレンジ文庫)の受賞作にその傾向が色濃くでている気が。

少年系ライトノベル

ネタで受賞をもぎ取りましょう!

・分かりやすい文章
・キャラクター造形
・台詞回しのおもしろさ、テンポ
ネタ!!!!!

下手でいいのでわかりやすい文章、キャラクターの良さ(台詞がよくかけていれば、だいたいキャラクターはよくなります)があれば、あとはネタです! ネタです! ネタしかない!

このネタは、流行りのジャンルでは決してありません! 既存作品にない、目新しいネタです。

流行りのジャンルは、既存の作家さんが書いてくれます。Web小説で人気の作品を書籍化すればよいのです。探しているのは、とにかく「こんなの読んだことがない」という新しいネタです。

ミステリ

ジャンルによって様々だと思いますが、なんといっても「ミステリ」部分がおもしろいかが重要かと。

「ミステリ」のネタ部分(社会派ミステリなら新しいネタ)
・ある程度の文章力
・理論の破綻がないか
・応募する賞をよく選ぶ

ミステリのネタがよくできていれば、あとは理論の破綻がないかをよく見てください。ミステリは賞によって明らかに好まれる雰囲気がありますので、自分にあった賞を探してください(傾向が見えない賞もありますが)。

また、事件を扱うため、キャラクターの心理がうまく描かれた作品は上にいきやすいように思います。ネタと心理描写がうまく絡んだ作品は、解決編で大きなカタルシスを生むので、それが評価されているのではないかと思います。

純文学

純文学はあまり外に出てこないため、たまたま自分が読んだ作品がそうだったというだけかもしれませんが……。自分が読んだ上位進出作品は、次の5点のうち、どれか、または複数が含まれた作品ばかりでした。

・新しい視点(切り口)のテーマがあるか
・そこまで書くかというほど描き込まれた心情描写
・マジックリアリズム小説
・文体、構成上の面白さがある
文章力にオリジナリティがある

とくに文章力については、「うまい・へた」を超えた何かをもっている方がいらっしゃいました。独自のリズムをもっている書き手さんはそれだけで熱力を感じてしまいます。どれくらい凄いかというと、書き手を隠されても誰が書いた作品かほぼ確定できるくらい、文章にオリジナリティがあるのです。

こういう方が、さらになんらかの強みのある作品を書くと最強です。

まとめ

出版社が探しているのは、売れる小説であるとともに、編集者が「担当したい」と思える小説なのではないでしょうか。ようは、編集者・読者の想像を超えた作品を生み出したいのだと思います。

実際のところ、受賞した作品だって必ずしも「新しくない」し、「想像をこえていない」んですが、結局、そこまで辿りつける作品自体が少ないのだろうと思います。

とにもかくにも「他にないその書き手だけのなにか」をもっている人は強いです。まずは、自分の強みを見つけ、そこを磨きましょう!