小説新人賞で上に行く作品の多くがもっているもの!を持っているはずなのに!

2021年1月24日小説の書き方,小説投稿と通過

自分の評価として、文章力があるのに、ネタ(テーマ)もおもしろいのに、一次が通過しない。二次、三次の壁が厚いという書き手さんに向けて、個人的に気づいた点を上げてみたいと思います。

「小説新人賞で上に行く作品の多くがもっているもの!」で、上位選考に残る作品には、アイディア(ネタ・テーマ)、リーダビリティ(続きが気になる)、勢いがあるという内容を書きました。ついでにジャンルごとに重要と思われるポイントもご紹介しています。

こっちを読んで、「自分はアイディアには自信を持っている!(のに、上に行けない)」と思った書き手さんもいらっしゃるのでは?

今回は、ちゃんとできているはずなのに、選考を通過しないというケースを考えていきます。

 

アイディアは秀逸なはずなのに!?

アイディアは秀逸ですが、書き切れていないケース 破綻編

許されないレベルの破綻があるケース

①設定(アイディア)を使いこなせていない。
②ストーリーと設定(アイディア)が噛み合っていない。
③途中までは面白いのに終盤で力尽きている。
④設定に穴がありすぎてご都合主義になっている。
⑤設定を後出しするのでご都合主義といわれてしまう。

設定に矛盾がないか、設定(アイディア)を活かしたストーリー展開になっているか、もう一度よく確認してください。①、②に関しては、プロット段階の問題です。作品を書く前に、プロットから人に見て貰うことをオススメします。

また、複雑な設定を使いがちな人は、前半は面白いのに後半がガタガタということが多いです。とくに、③~⑤のような感想を持つことが多いです。ご都合主義な展開になるならまだしも、後半で「なにが書きたかったんだろう……」となっていることさえあります。ようは、最後にうまくまとめきれず、次のような展開になるケースがあります。

・とりあえず大騒ぎして終わり。
・着地するために、突然モブが出張ってくる(または新キャラが登場)。
・夢落ちなどの不可思議展開。
・敵役が急にいい人になって終わり。
・突如主人公がチート化する。

最後までしっかり描ききりましょう。

設定の使い方が素晴らしいと思った作品に、『僕が愛したすべての君へ』と『君を愛したひとりの僕へ 』があります。

本作はSFで、「人々が少しだけ違う並行世界間で日常的に揺れ動いていることが実証された時代」という、目新しいアイディアを使っています。無数の世界があるパラレルワールドという設定はよく使われますが、本作では、今の世界を0としたとき、1や2の世界(近いパラレルワールド)の自分が入れ替わっている(揺らいでいる)というのです。つまり、今いる僕は「0の僕」なのか「1の僕」なのか……。小さなエピソードにも、このような設定が非常に上手く使われています。物語と設定が融合し、また設定を使ったエピソードが多数含まれ、説得力のある作品になっています。

両親の離婚を経て父親と暮らす日高暦は、父の勤務する虚質科学研究所で佐藤栞という少女に出会う。たがいにほのかな恋心をを抱くふたりだったが、親同士の再婚話がすべてを一変させた。もう結ばれないと思い込んだ暦と栞は、兄妹にならない世界へ跳ぼうとするが…彼女がいない世界に意味はなかった。
両親の離婚を経て母親と暮らす高崎暦は、地元の進学校に入学した。勉強一色の雰囲気と元からの不器用さで友人をつくれない暦だが、突然クラスメイトの瀧川和音に声をかけられる。彼女は85番目の世界から移動してきており、そこでの暦と和音は恋人同士だというのだが…並行世界の自分は自分なのか?

また、読む順番で読後感が変わるという工夫もされており、非常に満足度の高い作品です。

アイディアは秀逸ですが、書き切れていないケース 破綻なし編

破綻していないのにどうして!

①破綻なく描き切れているが、山や谷がない。
②設定は斬新だが、面白みがない。
③リーダビリティがない。
④設定(アイディア)が複雑過ぎて、読者に伝わっていない。
⑤設定の説明が上手くない。

①~③は総合力の高い作者に多い気がします。高次選考に複数回乗っているのに受賞できないとか、二次あたりまではいつもいくんだけどとおっしゃる作者さんがこの罠に陥りやすいかもしれません(個人的な感想、いやむしろ偏見といっていいかもしれませんが)。

問題点を挙げると、だいたい次のようなことが多いように思います。

①破綻なく描き切れているが、山や谷がない。
 →ラストくらいは山場がありますが、前半が平坦すぎて続きが気にならない。
②設定は斬新だが、面白みがない。
 →設定を活かすための物語作りをしすぎている。そのためご都合主義的or悪い意味で無駄がない。
③リーダビリティがない。
 →続きが気にならない。

④と⑤に関しては、筆力の問題です。書いて慣れ、批評されてまた書いてを繰り返すしかないかなと思います。

残念ながらアイディアが秀逸でないケース

たいへん申し訳ないんですが、作者としてはアイディが秀逸!と思っていても、そうでないケースもあります。また、アイディア自体は面白くても、それが成り立たないというケースもあります。アイディアは面白いけれど、設定に無理が……ということがときどきあるんですよ。

リーダビリティがあるはずなのに!?

冗長すぎる

①説明が長すぎて、物語に入り込めない。
②繰り返し似たようなことを説明する。
③導入が長すぎて、30ページ(50ページ)読んでも何が起こるかわからない。
④導入が長すぎて、半分まで先の展開が読めない。

純文学なら構わないのですが、エンタメでこれをやられると読みたくありません。確かに、あらすじ上は面白いのかもしれませんが、リーダビリティというのは、ものすごく簡単にいうと「続きが気になる」ということだと私は考えています。

何が起こるのか? この(お気に入り)キャラがどうなるのか? 主人公二人がどうなるのか? 事件がどうやって解決するのか? ……読者の気を引いてください。

朝起きて、学校へいって、友達とあって……という日常風景で30ページ取られると、なかなか厳しいものがあります。ミステリなら事件を、他のエンタメでもどんなストーリーになるかを、30ページで読者にチラ見させてください。チラリズム大事ですよ!

伏線が読者にストレスを与えるケース

①伏線ではなく、ただ隠しただけ。

具体的にいうと、「今はまだ明らかにできないが、実は彼には秘密があるのである!(流石にここまで露骨じゃないけど)」といった感じ。

「このとき、僕が見落としていなければ彼女を失うことはなかったのに」というような引きとはまた別ものです。引きと伏線を同列で考え、出すべき情報を意図的に隠しているケースがあります。問題なのは、作者がそれを伏線と思い込んでいることです。

引きを強くするために、あえて情報を隠して(チラ見させて)、読者の関心を集めるのはテクニックです。が、大事な情報を隠して(チラ見だけさせて煽って)、最後にどどーんと出してくるのは後出しじゃんけんです。後出し情報だけでも溜め息なのに、それをチラ見させられると、読者はストレスがたまります。そして、この後出し情報がしょぼかったりすると、だいたい怒りに変わります。

②伏線が回収されない。

本好きの読者ほど伏線をニヤニヤしながら読みます。回収されないときのがっかり感よ……。

③伏線がない。または隠しすぎて読者が気づけない。

伏線はある程度分かりやすくお願いします。分かりやすい伏線と、わかりにくい伏線を混ぜたりするのもよいですね。分かりやすいほうに目がいって、もう一つを見落とします。

勢いはある……のか!?

こればかりは本人には分かりにくいかなと思います。勢いがある作品ってあるんです。

①全体を通して勢いを感じる。
②なにか1つでも突き抜けていて、勢いを感じる。

①については説明できないので、②に関しては、作品を読んでこういう点に勢いを感じたというところを上げていきます。

・世界観が半端ない。それが過不足なく描かれている。
・登場人物がテンプレを外している上、とても魅力的。
・魅力的な悪役が出てきて目立つ。また悪の描写に躊躇いがない。
・会話のテンポがよくて、キャラ立ちしている。
・情景描写が美しい。
・文が美しい。
・中心的なある登場人物に対して、作者の愛と寂寥が感じられる(作者の顔は見えないのに、そう感じられる構成が素晴らしかった。ちなみに、あとで聞いた話だと、その登場人物は作者の投影だったそうです。それは感情が乗るわと思いました)。

まとめ

実際、手堅くまとまっている作品はわりと多いんです。

最終選考までくれば「出版しても問題無いレベル」と言われていますし、その下だって面白い作品はたくさんあると思います。その中から選ばれた受賞作です。おもしろくないわけがない!

ですが、「受賞作がおもしろくない」、「他になかったの?」という感想を持ったことはありませんか?

それくらい、受賞作品に対する要求のレベルは高いのです。渾身の傑作を応募してください。

拾い上げが受賞作より売上げがよかったり、一次落ち作品→受賞というケースは確かにあります。ですが、それは受賞するよりもさらにレアなケースなのです。

選評や評価シート、読んでくれた人の意見をよく見直して、さらなる傑作を作り出してください!